紀州のドン・ファン遺言書は有効か無効か…21日に判決 遺産の受取額どう変わる?筆跡鑑定は?元刑事が解説

2018年に「紀州のドン・ファン」と称された資産家・野崎幸助さん(当時77)が和歌山県田辺市の自宅で不審死した事件は社会的な関心事となった。亡くなった野崎さんが生前に書いたとされる「遺言書」を巡り、親族が無効を求めた訴訟(3月1日結審)の判決が21日に言い渡される。現場で取材を続けてきた元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏に見解を聞いた。

野崎さんが書いたとされる遺言書の日付は13年2月8日。赤いペンの手書き文字で「いごん 個人の全財産を田辺市にキフする」と紙に記されていた。親族側は「本人が書いたとは考えられない。市に遺贈する動機がない」と主張。一方、被告となる遺言執行者の弁護士は「野崎さんに遺贈の意思や動機がある」としている。田辺市は19年に遺贈を受ける方針を明かし、野崎さんの財産は約13億円とした。

小川氏は「6年前、実際にその遺言書を預かっていたという男性から私は話を聞きました。この遺言書を書くに至った経緯は、当時72歳の野崎さんから『自分が死んだ後、自分の財産はどうなる』と質問された時に、『奧さんも子どもさんもいないので、ごきょうだい(兄弟姉妹)に(遺産は)いきます』と答えると、当時、兄弟等と仲が良くなかった野崎氏は『きょうだいに自分の財産を相続するのは気持ち的に許せない。だから、結婚相手を探している』という話をしていたそうです。当時もその後も、野崎さんはごきょうだいと仲があまりよろしくなかったようです。また、当時は結婚していなかったので、田辺市に寄付するという遺言を書いたのではないかということでした」と背景を明かした。

野崎さんは18年に(後に殺人容疑で逮捕された)須藤早貴被告と結婚。約13億円とされる遺産の分配はどうなるのか。

小川氏は「実際は13億数千万円で、その中には都内の物件を含む不動産も含まれていますので、もっと上がっている可能性もあります。いずれにしても、遺産は約13億円として、遺言書が本物だった場合、全額が田辺市にいくわけです。ただ、妻である須藤被告には『遺留分の50%』を請求する権利があります。野崎さん殺害の容疑で逮捕、起訴されていますが、推定無罪ということもあり、須藤被告に遺留分があると仮定し、その請求が認められると、両者は約6億5000万円ずつを受け取ります。ただ、須藤被告の殺人罪が有罪となれば相続権がなくなり、この遺言書が有効な場合は全額が田辺市に寄付されます」と解説した。

さらに、同氏は「遺言書が偽物で無効となれば、通常の法定相続人でいうと妻は4分の3、つまり75%の約9億7500万円を受け取ります。兄弟姉妹は4分の1(約3億2500万円)となる。しかし、須藤被告が殺人罪で有罪となった場合、きょうだいが全額を相続します」と付け加えた。

遺言書の有効か無効か、須藤被告の殺人罪が有罪か無罪かによって、遺産相続の状況は変わってくる。遺言書の真偽については、「筆跡」も焦点となる。

小川氏は「この遺言書とは別に、野崎さんが普段書いていた(手紙などの)宛名などを見せてもらったことがあるんです。非常に特徴のある文字でした。しかも、赤ペンで書いている。偽物の遺言書を作るなら、平仮名で『いごん』などと書かずに、漢字で『遺言書』とか『遺言状』と書くのではないか。また、(第三者が)偽物を書く場合に赤ペンを使うことはないのではないか。野崎さんは普段から赤ペンをよく使っていたらしいですし、文字を見ると、日頃書いていた本人の文字と似ていましたので、この遺言書は〝有効〟ではないか、田辺市が偽物を作る理由が見当たらない…と私は思っていましたが、野崎さんの死後、ご親族から訴えが出たという経緯になります」と振り返った。

その上で、同氏は「筆跡鑑定は難しい。親族側と田辺市側が依頼した筆跡鑑定はそれぞれ意見が異なり、どの文字と照合しているかによって違ってくる。あとは、裁判長の裁量で決まると思います。なぜ、このようなに遺言書を書くに至ったかを含め、どういう判決になるか、この民事訴訟に注視しています」と語った。

(デイリースポーツ/よろず~ニュース・北村 泰介)

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