周囲の言葉に傷つき、たくさん悩んで涙も流したけれど…。今では“のんちゃんの笑顔”に、家族みんなが助けられている【低出生体重児・18トリソミー体験談】

妊娠8カ月に「おなかの赤ちゃんは18トリソミーという染色体疾患です」と告知を受け、葛藤を乗り越えて出産した中須賀舞さん。「せっかく来てくれた命だから」と産み育てることを決意し、1780gの誕生した望ちゃん(3歳)はNICUに入院、大きな心臓の手術を受けたのちに生後40日で退院の日を迎えました。今回は、ママが望ちゃんのお世話に慣れていくまでの様子や、6歳の上の子との触れ合い、そして、「低出生体重児として生まれた赤ちゃんのために」と立ち上げたベビー服ブランド「LIKO」のウエアの開発秘話について伺います。全2回にわたるインタビューの2回目です。

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生後40日目に退院。いよいよおうちでの生活がスタート!

ミルクの量も満たされ初めて見せてくれた笑顔

38週に予定帝王切開で生まれた望ちゃんは、生後すぐにNICU(新生児集中治療室)に入院し、生後16日目に大きな手術を受けました。心室中隔欠損症という先天性の心臓疾患により、左右の心室を隔てる壁に穴が開き、呼吸が不安定になりやすかったからです。

「心臓から肺に大量の血流が流れ込むのを防ぐために、肺動脈を縛って狭くするバンディング手術を受けたあとは、心臓外科の先生もビックリするくらいの回復力を見せてくれました。呼吸が安定してきて、生後40日目に退院の許可が下りたときは、とにかくうれしかったです。大きな手術を受けて体重が減ってしまい、出生時と同じ1780gの大きさでしたが、私にとっては『無事に産むこと』の次のミッションが『一緒におうちに帰ること』でしたから。とはいえ、おうちに帰ってからしばらくは怒涛のような日々。望のお世話に慣れるまでは本当に大変でした」(中須賀さん)

3時間おきの授乳の際は、鼻から挿入された経口栄養のチューブを通して母乳をあげるのですが、望ちゃんは心臓に疾患があるため、先生の指示で1日あたりの水分量が決まっていました。そのため、昼も夜もなく気を張る毎日。

「望は起きている間はおなかがすいて、ほぼ泣いていましたね。ほしいだけ飲ませてあげられないもどかしさで、私のほうもつらかったです。3時間おきに経管で母乳をあげるために、家事をしながら小まめに搾乳し、たまに胸が張ってつらいときもあったりして。そんな中でも、『やっぱりかわいいな』と思うのは、望が私の腕の中で眠ってくれるときです。泣きつかれて眠っている姿だったりするんですけど」(中須賀さん)

当時の中須賀さんにとって支えになったのは、週に1回通ってくれる訪問看護師さんの存在でした。困ったことはネットであれこれ検索するよりも、やはりプロに相談するのがいちばん。

「ミルクの量に関しては、のちに小児科の先生から『量を増やしてもよい』と許可をいただき、満たされるようになって泣かなくなったんですけれど。そこに行きつくまでが本当に大変でした」(中須賀さん)

体重1500~1900gの小さなウエアには、ママの実体験が生かされている!

抱っこするとウエアの中で小さな体が泳いでしまう感じで、袖まわりもブカブカでした

そうして、望ちゃんのお世話に慣れてきたころ、ふとスマホの中の写真を見返していた中須賀さんは、どれもブカブカな服に埋もれている姿しかないことに気づきます。

「18トリソミーという診断を受けてからは、『無事に産めるだろうか』という不安がつきまとい、産前にウエアの準備をすることができずにいました。退院が決まってから、あわててサイズ表記45㎝の短肌着、コンピ肌着、ロンパースを買いましたが、どれも1780gのわが子にはブカブカ。『小さな体に合う服を着せてあげたかったなあ。私と同じ思いをしているママたちのためにも!』と低出生体重児専用のブランド『LIKO』の立ち上げを決意したのです」(中須賀さん)

ブランド立ち上げにあたって、まず最初に中須賀さんがしたのは「LIKO」のロゴを作ること。次にウエアのデザインにとりかかって、居住地の県内の縫製工場にサンプルの縫製を依頼しました。

「『低出生体重児向けのウエアを作りたいんですけれど』と、何件かの縫製工場さんにコンタクトをとったところ、私のこれまでの経緯に共感し、引き受けてくださるところがすぐに見つかったんです!ただ、私が作りたい体重1500~1900gというサイズは折り紙のように小さくて、世の中には出回っていません。パタンナーさんと一緒に一からパターン(型紙)を作り上げるのに苦労しました」(中須賀さん)

望ちゃんの手足のサイズや、抱っこしたときの感覚、「あのころは腕のあたりがブカブカだった」などの実体験をもとに、「あと何㎝つまんで小さめに」と、試行錯誤を繰り返しながらパターンを仕上げていったのです。

「2000g以下の子たちがブカブカのウエアを着ると、ウエアの中で体が泳いでいる状態なんですよ。とくに着物のようにヒモを結んで着る短肌着や長肌着ははだけてしまいがち。そこで、ウエアの中で体が泳いだり、はだけたりしないように、すそのほうでスナップボタンをとめるデザインを思いつきました。これが「LIKO」のウエアのいちばんのこだわりポイントです」(中須賀さん)

最近では、子ども服の展示会にも出品するようになりました。「低出生体重児のウエアは企業として展開するのが難しい部門。でも、求めている人たちが絶対にいますよ!」と、子ども服ショップのスタッフ、アパレル関係者から寄せられる応援を励みにしているそう。そして今後は死産した赤ちゃんのためのセレモニードレスなども制作していこうと考えているとのこと。これは、親しいお友だちが死産を経験したことがきっかけです。

「レースを使って、かわいいドレスを作りたいなと思っています。サイズ展開のためのデータを集めて、また、一からパターン作りをしなくてはいけませんね」(中須賀さん)

「のんちゃんのペースでいいよ」と、上の子が妹を見守ってくれる

仲良し姉妹です

6歳のお姉ちゃんは、18トリソミーという先天性の障害を持って生まれた妹の望ちゃんのことを「一緒に過ごしていく時間の中で、少しずつ理解していった」と、中須賀さんは感じています。たとえば保育園に行っていた当時、「お友だちの妹は、のんちゃんと同じ2歳だけど、もう立って歩いているよ?」と、周囲の子どもたちと妹の違いに違和感を抱いたこともあったといいます。

「そういう違和感や疑問を抱いたタイミングで、私のほうから望の心臓の病気のこと、障害を持って生まれてきた話を少しずつ伝え続けてきました。最近では、「のんちゃんは、のんちゃんのペースでいいんだよ」と声がけしてくれるようになりました。姉妹で対等に遊べないさみしさもあると思うんですけれど、ごく自然に妹の障害を受け入れてくれています」(中須賀さん)

また、「お姉ちゃんは望ちゃんを通して、世のなかにはいろんな人がいると多様性を受け入れるようになった」とママは感じています。「この人は心が女の子で、体は男の子なんだね」「あの子ものんちゃんと同じ管が入っているね」など、6歳なりに、ごく自然と受け入れるようになったのです。

望ちゃんはお姉ちゃんに遊んでもらうと、うれしそうにニコニコと笑うので、お姉ちゃんは妹がかわいくてたまらず、「私がいちばん好きなのは、のんちゃん!」と常に言っているのだとか。お姉ちゃんがお手紙ごっこをするとき、「のんちゃん、大好き」と書いている姿をほほ笑ましく思う中須賀さんです。

周囲の人たちはママとパパの選択を見守ってあげてほしい

‟のんちゃんスマイル“。お誕生日おめでとう!

「望は3歳になったばかりですが、この3年間を振り返って、“人生というのは選択の積み重ね”だなと実感しています。『18トリソミーのわが子を受け入れて育てていく』と決めたときは本当に悩んで、苦しんで、涙も流したけれど、私たち夫婦にとっては前向きな選択でした」(中須賀さん)

実は当時、中須賀さんの選択に対して、周囲からはいろんな声がありました。「今の医学はやりすぎてない?」「生まれたあとの予後が長くないかもしれないのなら、一緒の時間を過ごすことで情がわいて、かえってつらくなるんじゃない?」など、どの言葉も決して悪気があったわけではなく、善意で伝えてくれた言葉と理解はしていたものの…。それらの言葉に傷つき、涙した日もあったのです。

「やはり当事者にしかわからない気持ちや背景があると思うんです。『これが正解』という選択はないし、『自分が考え抜いた末の選択が、自分にとっての正解』になるんじゃないでしょうか。出生後に『心臓の手術は受けるか?』『もしものときに延命処置はするか?』など、ママとパパは悩み、苦しみ、前向きに答えを出していきます。もしも周囲に、障害を持つ赤ちゃんを産み育てる決意をした人がいた場合は、寄り添ってあげてほしいと思います」(中須賀さん)

中須賀さん自身、望ちゃんの予後に関する選択を経験したことで「人生感が変わった」と実感しています。「たとえばこの先、上の子が自分で選んでいく人生で、彼女が悩んで決めたことなら、親として反対したい気持ちがあったとしても、まずはわが子を尊重して寄り添っていこう」と考えるようになったのです。

「私自身の18トリソミーの予後に関する選択については、『これでよかったんだ』と思っています。望が笑顔を振りまくたびに、私たちの両親もふくめ、家族みんなが笑顔になります。“のんちゃんの笑顔”に、私たち家族のほうが助けられています」(中須賀さん)

取材・文/大石久恵、たまひよオンライン編集部

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2024年5月の情報であり、現在と異なる場合があります。

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低出生体重児専用のベビー服ブラント「LIKO」では、さらなるサイズ展開も検討中とのこと。妊娠中に18トリソミーの診断を受けてから、さまざまな判断を迫られ、その都度自分の気持ちを見つめ、パパと一緒に選択してきた中須賀さん。望ちゃんの笑顔についてのお話をするときの表情がとても優しく、印象的でした。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることをめざして様々な課題を取材し、発信していきます。

中須賀舞さん

PROFILE
服飾専門学校を経て、10年間アパレル販売員を経験。2017年に1人目、2021年に2人目を出産。妊娠8カ月のとき、18トリソミーと診断を受けた次女・望ちゃんが1780gで誕生した経験から、低出生体重児専用のベビー服ブランド「LIKO」を立ち上げる。

https://likobaby.com/

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