木村拓哉が『Believe』に架けた美しい橋 果たすことができなかった約束と希望への一歩

『Believe-君にかける橋-』(テレビ朝日系)のクランクインが伝えられた今年3月末。ドラマの詳しい内容がほぼベールに包まれる中、ビジュアル第1弾として公開されたのが、狩山(木村拓哉)が橋の上で向こう岸に向かって何かを投げる姿。その横に添えられたキャッチフレーズが「きっと、たどりつく――」だった。最終回の放送を終えた今なら分かる。それが、このドラマの始まりから最終回に架かる美しい橋だったということを。

※本稿は最終回の結末に触れています

最終回におけるキーパーソンは弁護士の秋澤(斎藤工)。ここまで狩山の敵か味方か判断がつかない人物だったが、全ては磯田(小日向文世)の懐に入り、事故の原因を調べていたことが明らかになる。常におどおどし、汗っかきなのは、過去の裁判で企業の経営者を死においやってしまったことからの恐怖心から。狩山が秋澤をもう一度信じてからの、秋澤の目の輝き、そしていつの間にか汗がひいていくその演出、何よりも狩山が南雲(一ノ瀬颯)に渡していたデータのパスワードが「believe」だったというのが美しい。

最終回は、狩山が再逮捕される2024年5月15日から、再審の結果、懲役1年が加算されるものの、龍神大橋崩落事故の裁判で責任を問われた業務上過失致死傷については「改めて審理の必要がある」と判断された同年9月の再審、さらに2025年、2026年と段階的に時が飛んでいく。

2025年時点で狩山は出所し、逆に狩山が面会に赴いたのは事件との関与を認めた磯田の元だった。裁判では刑務官の林(上川隆也)が狩山を逃したことも、事件の裏に東京都知事の榛名文江(賀来千香子)が暗躍していることも伏せられたまま。磯田は自分が犠牲となり、帝和建設を守ることを選んだ。都知事を相手に半分脅しの状態で、「その代わり未来の話をしませんか?」と都知事の上に立つ、磯田はある種の政治家と言っていい。龍神大橋の工事再開には帝和建設が再び参入することができた。

狩山との面会で磯田が明かすのは、どこまでも夢を語る狩山に腹が立っていたということ。だから磯田は狩山に全ての責任を背負わせた。「働くことは、夢を捨てることです。私はそれを君に知らせたかったのかも知れません」という淀み切った磯田に、狩山は感謝と訣別の言葉をぶつける。その中にあるのが、「狩山玲子が僕を僕でいさせてくれました」という一言だ。

刑務所の表で待っていた秋澤に祝杯を誘われるも、「次の機会にします。あいつが待ってるんで」と去っていく狩山。そこから出所祝いに狩山が玲子(天海祐希)と向かうのがずっと約束していた碓氷峠だ。高所恐怖症の玲子と腕を組み、めがね橋を渡っていく狩山と玲子。いつかの家の設計図を持ち出し、ああでもない、こうでもないと口喧嘩をしながら、狩山が振り向くと、そこには玲子の姿はない。そのことが意味するのは癌を患っていた玲子の死に間に合わなかったということ。「全部解決したら謝る」という最後の約束も果たすことができなかった。

現実に直面し、天を仰ぎ設計図で顔を覆う狩山。だが、すぐに表情からは寂しさは消え、狩山は設計図を紙飛行機に折り始める。玲子の遺した手紙にあったのは、「思い残すことはないけど、碓氷峠に行く約束を果たせなかったのは残念かな。だから、代わりに行ってきて。きっとあの橋から、あなたはまた出発できる。行ってらっしゃい」という言葉。おおきく振りかぶって紙飛行機を飛ばす姿と先述した先行ビジュアルが綺麗に繋がれる。前を向き歩き出す狩山に迷いはない。2026年、橋が崩落した災害現場に橋屋としてもう一度歩み出した狩山の姿があった。

『Believe』がクランクアップしたのは、最終回オンエア4日前の6月16日。放送当日に、木村は自身のInstagramに最終回の象徴的なシーンとなった碓氷峠にあるめがね橋の写真をアップした。木村が主演を務めた『BG~身辺警護人~』シリーズ(2018年、2020年)を手掛けたチームが再集結した本作は、龍神大橋崩落という壮大なスケールと、狩山が刑務所というある種の絶望からもう一度光の射す場所へと手を伸ばす物語が描かれた。第1話のラストで狩山が刑務所から玲子に綴った手紙にあった「もう嘘はつかない」という文面が示すように、物語の真ん中にあったのは自分を信じる狩山の姿。真っ直ぐに前を見据え歩き出したのは、狩山だけでなく、木村拓哉自身もきっとそうであろう。

(文=渡辺彰浩)

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