藤井聡太七冠が初の失冠…叡王戦で敗れ八冠独占254日間で途絶える 「終盤の精度低かった」

 叡王戦最終局で敗れ、感想戦で悔しがる藤井聡太七冠(撮影・西岡正)

 将棋の藤井聡太叡王(21=竜王・名人・王位・王座・棋王・王将・棋聖との八冠)に伊藤匠七段(21)が挑戦した第9期叡王戦5番勝負第5局が20日、山梨県甲府市の「常磐ホテル」で指され、先手番の藤井叡王が伊藤七段に156手で敗れ、2勝3敗で防衛4連覇ならず失冠した。タイトル戦で初めてかど番に追い込まれ、八冠陥落の危機をしのげず七冠に後退。これまで出場した5番勝負や7番勝負でのタイトル連続獲得の歴代最多記録は22連覇で止まった。伊藤新叡王は同学年の藤井七冠から初タイトルを奪取した。

 終盤にひっくり返された。優勢にリードを徐々に広げ、勝ちが見え始めたはずだった。「終盤でミスが出てしまう将棋が多かったので、結果もそうなった。それと同時に伊藤さんの力を感じるところも多くあった。終盤の精度が低かったことが結果につながってしまった」。プロという立場になったことで、大きく感情をあらわにすることはなくなったという藤井七冠が天井を何度も見上げ、終局後の盤上をぼうぜんと見つめた。

 藤井七冠は接戦となった第1局で先勝してから第2、3局で敗れて1勝2敗とタイトル戦では初めてかど番に立たされた。ただ、追い込まれてから強さを見せ、第4局で勝ち星を2勝2敗に戻して最終第5局を迎えた。振り駒で先手番となったが「見通しはなかなか立たない局面だった」と伊藤七段の粘り強い指し回しの前に逆転を許して勝ちきれず。2勝3敗で叡王の座を明け渡した。

 同学年の伊藤新叡王には、かつて小学生の全国大会で敗れて悔しさのあまり大泣きしたこともあったが、プロ入り後は持将棋を挟んで11連勝するなど圧倒していた。ただ、今回の叡王戦では2連敗と最終局を含めて同タイトル戦だけで3勝を奪われた。「叡王戦でも伊藤さんの実力を感じることがすごく多かった」と認めるしかなく「私自身も実力を高めていけるように頑張らなければいけない」と言い聞かせるように敗戦を受け止めた。

 タイトル戦番勝負23戦目にして初の敗北を喫し、独占していた八冠から陥落。全冠保持期間は羽生善治九段の167日こそ上回っていたものの、254日間で途絶えた。再びの八冠挑戦へ「今の時点ではまったく考えていない。まずは実力を付けるということが一番大事」と話しつつ「それ(全冠保持でなくなること)は時間の問題だと思っていた。気にせずこれからも何とかまた頑張っていきたい」と前を向いた。

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