中国のユニコーン企業が大幅に減ったワケ

中国のユニコーン企業が大幅に減少したのはなぜだろうか。写真は嵐図汽車。

5月28日付の「人民日報」の記事は同23日に山東省済南市で開かれた企業と専門家の座談会について、「終始鮮明な問題意識が貫かれ、イノベーションと投資に関する発言を聞いた習近平国家主席が『わが国のユニコーン企業の新規増加数が減少した主因は何か』と質問した」と報じた。

その後、一部の経済メディアもこの問題を取り上げ、議論を引き起こした。

減少した中国のユニコーン企業

ユニコーン企業とは、評価額が10億ドル以上、設立10年以内の非上場ベンチャー企業を指す。世界のスタートアップ企業の30%は初めの1年を越すことができないとされる。10年以内に評価額が10億ドル以上に達するのはほんの一握りの企業だといわれている。それが伝説の怪獣「ユニコーン」に例えられるゆえんだ。

ユニコーン企業は世界に1000社ほどあり、中でも米国と中国が多く、2023年時点で米国が653社、中国が176社となっている。日本は10社以下にとどまっている。

胡潤研究院が発表した「世界ユニコーン企業ランキング2023」によると、2023年の中国のユニコーン企業数は316社で世界2位だったが、過去1年の新規増加はわずか15社で、2022年は40社、2018年は156社と減少している。

14日に「企業改革と発展」というWeChatアカウントに掲載された記事は、ユニコーン企業が最も集中している中国と米国のデータを例に取り、中国では企業が毎年約3000万社増えているが、ユニコーン企業は最多の年で120社にすぎず、ユニコーン企業になる確率は25万分の1以下であると述べ、スタートアップ企業のユニコーン企業化は困難であることを指摘した。

ユニコーン企業は「テクノロジー企業であること」が条件となっているため、その数は一国の将来の産業競争力を判断する指標となると言え、ユニコーン企業は国の経済・科学技術の発展に重要な役割を果たすことができ、そのランキングは今後の産業競争力がどうなるかを判断する材料となる。

中国は改革開放以降、世界との関わりを積極的に持ち、この20年は対外開放をさらに強化して、保護主義に反対し、開放政策を強調している。

中国政府は新興産業を大いに後押しする姿勢を堅持している。2015年に中国政府の文書に「大衆による起業・革新」の文言が登場し、「起業ブーム」が起きた。その結果、中国のユニコーン企業の新規増加数は初めてユニコーン企業「発祥地」の米国を抜いた。2015年から2020年までの間に中国のユニコーン企業の成長率と企業影響力は米国を抜き、世界有数のイノベーション市場となった。

一方、2023年に中国のユニコーン企業は大幅に減少し、44社しか増えなかった。米中のユニコーン企業数の差は急速に広がっており、中国は現在、企業数世界2位をキープしているものの、すでに総量では米国の半分にも及ばない。世界のユニコーン企業の分布は米中互角から米国への集中に変わりつつある。

中国のユニコーン企業は、数だけでなく、競争力も大きく低下している。2023年に世界のユニコーン企業の中で評価額の減少が最大の10社は、5社が中国企業で、2社が米国企業だ。最も評価が上昇した10社のうち、米国が5社だったのに対し、中国は2社にとどまった。

科学技術イノベーションでも、中国のユニコーン企業は米国と比べると大きな開きがあるといわれている。中国のユニコーン企業は主に先進製造、自動車交通、インテリジェントハードウェアなど、「ハード」分野の科学技術分野に集中している。

人工知能(AI)、ビッグデータを中心とする先端科学技術分野では、中国のユニコーン企業はわずか40社だが、米国は443社。そして、未来の産業競争がより決定的な意味を持つのはAI、ブロックチェーン、データ分析、フィンテックを基礎とした新興産業だ。

中国のイノベーションは先進レベルではない?ユニコーン企業減少の理由

中国のユニコーン企業が減少した原因は何か。以下の3点が考えられる。

第一に、国際環境の変化の影響だ。冷戦後、中国は改革開放をさらに加速させ、科学技術・経済面での交流も多くなっていた。だが、中国の国力や世界政治・経済での発言権が強まり、中国が社会主義現代強国の建設を進める中で、米中両国の政治関係は緊張するようになった。

両国間の競争は貿易から科学技術などにも広がり、米国はサプライチェーン移転戦略を打ち出し、中国からの「デカップリング」を図った。米国は中国企業の米国上場に極めて高いハードルを設けるようになり、中国企業の米国でのビジネス展開は一定の「制約」を受けた。

第二に、国内経済の影響だ。米中貿易摩擦と2020年から4年間続いたコロナ禍は、中国の国内経済に大きな影響を与え、2020年度の全人代では経済成長目標が示されないということも起こった。また、経済成長の減速は雇用情勢を悪化させ、個人消費の不振を引き起こし、人々の経済に対する「期待(見通し)」を回復させるために、「カンフル剤」的措置を取る必要があった。

その一方で、インターネット企業や不動産企業などへの監督管理も強化された。2020年末から2021年初めに、中国政府は「資本の無秩序な拡大を防ぐ」という措置を打ち出した。インターネットプラットフォーム企業への「独占禁止の強化」などの措置は、中国政府が第18期三中全会で掲げた「資源配分における市場の決定的役割を果たさせる」という目標の具現化を目指したものだ。

今年の全国両会(全国人民代表大会・全国政治協商会議)期間中、全国政治協商会議委員で上海交通大学中国発展研究院執行院長の陸銘逓氏は、中国メディアの取材に対し、「中国は収縮的政策を打ち出すことがあり、企業が発展することをためらう」と述べ、さらに、「最終的には、みんな比較的安全なことをやりたがり、リスクのある分野には投資をためらう結果になる」と語った。陸氏の言葉は、経済の減速の中で打ち出された政府の「構造改革」の影響によって企業マインドが悪化したことを示している。ゆえに昨年来、中国政府は民営企業の活性化策を打ち出すようになったのだ。

中国経済減速の一時的影響として「科創板(上海証券取引所に設立されたハイテクスタートアップ企業向けの証券市場)」資本市場の縮小を招いた。2021年の中国のベンチャーキャピタル(VC)、プライベートエクイティ(PE)投資規模は1兆4228億元だったが、2023年には6928億元に減少し、減少幅は50%を超え、イノベーションプロジェクトに必要な資金的基盤を失った。

中国の金融専門家、田軒氏が11日に発表した「ユニコーン企業の新規増加数減少の背景、われわれが反省すべきことは何か」と題する記事は、新規ユニコーン企業数が減少している背景として、流動性不足を挙げた。田氏は「外資投資の減少が引き起こした『過大評価バブル』が崩れたことが、ユニコーン企業の資金調達に支障をきたした」と指摘した。これは中国の「起業・革新ブーム」が起こったが、中国の科学技術イノベーションはまだ十分なレベルになっていないことによる過大評価と理解できる。

第三に、中国は製造業に強みがあるため、ユニコーン産業の大部分が製造業に集中していることだ。中国は発展レベルが不均衡で、工業化段階、ポスト工業化段階が混在しており、製造業は中国経済にとって重要な産業の一つとなっている。

前出の「企業改革と発展」の記事は、中国のユニコーン企業が製造業分野に多いと指摘して、次のように述べた。

「昨年の科創板市場の投資分布を例にとると、半導体、化学工業、機械、自動車の4産業は4000億元以上の投資を獲得し、株式投資市場全体の約70%を占めたが、デジタル科学技術、AI、インターネットによる投資はわずか850億元だった。製造分野は投資の規模が大きく、サイクルも長いため、ユニコーン企業が少ない。」

AIなどの技術は、3月の全人代以降に強調されるようになった「新たな質の生産力」の一部で、今後発展させる方向にある。また、デジタル経済について、国務院研究室の専門家が執筆した「政府活動報告」の解説論文によると、「デジタル科学技術革新能力の向上が待たれ、一部のコア分野の技術とテクニックのレベルは世界の先進レベルと開きがある」と述べており、イノベーション力の一層の向上が必要と指摘する。そのため、中国政府は科学技術の自立自強を掲げ、「新しいタイプの挙国体制」で科学技術力の向上を図っている。

「新しい挙国体制大事!?」中国のユニコーン企業を再度発展させる措置

中国のユニコーン企業のここ2、3年の変化は、中国の科学技術イノベーションがまだ先進レベルとは開きがあることを示している。

米中関係の影響を受け、「自力更生」回帰論が出そうな状況にあるが、中国は改革開放の中でも、基本的に「自力更生」を主とし、開放政策を補助的な役割に位置づけていた。現在、中国が堅持する「双循環」モデルは、国内の大循環を中心としており、改革開放以降も掲げていた「自力更生」を中心とする路線を受け継いでいる。ただ、それは外国との交流を断つことは意味していない。今後も外国との技術交流は続くだろう。

ミクロレベルでいうと、イノベーションが産業の変革を促すという方向にある。昨年12月に開かれた中央経済工作会議で、「科学技術革新により現代化産業体系の建設をリードする」ことが強調された。会議はさらに、「科学技術革新によって産業革新を推進し、特に破壊的技術と先端技術によって新産業、新モデル、新原動力を生み出し、新たな質の生産力を発展させなければならない」と述べ、技術型企業を大いに発展させることが今年の中国の経済活動の方針になった。

冒頭の人民日報の記事に、ユニコーン企業の減少に関する中国の最高指導者の発言が載ったということは、中国政府がこの問題の解決を重視しており、何らかの措置を講じる必要があるというシグナルを発している。

中国のユニコーン企業を再度発展させる道のりは始まったばかりだと言える。

■筆者プロフィール:吉田陽介

1976年生まれ。福井県立大学大学院卒業後、中国人民大学国際関係学院博士課程で学ぶ。北京で日本語教師として教鞭をとり、2012~2019年に中国共産党翻訳機関の中央編訳局で党の指導者の著作などの翻訳に従事。2019年9月よりフリーライターとして活動。

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