山本尚貴(35)インタビュー 悪夢のクラッシュ、首の手術、壮絶リハビリ…涙の復活3位表彰台を果たした“超負けず嫌い”なプロ・レーシングドライバーの175日【スーパーフォーミュラ2024】

都内でトレーニングに打ち込む1人のアスリートがいた。

「体力がめちゃくちゃあるから勝てるスポーツではないので、僕たちやっぱり機械を使っているので、ただ本当に勝つためにどれだけ自分を追い込んできたかが最後の勝敗を左右する決め手にもなるかなと思っているので」

プロ・レーシングドライバー、山本尚貴、35歳。

日本最高峰のスーパーフォーミュラで、2013・2018・2020年と、これまで3度の年間チャンピオンを獲得。

この男、実は一筋縄ではいかない”超負けず嫌い”だ。

「一昔前だと他の選手には自分がここで得ている知見とかを提供して他の選手のプラスになるようなことはさせたくないなって思いはあったんですけど」

――どこまで負けず嫌いなんですか?
いや教えたくないですね、やっぱり自分が一番でいたいので。

不敵な笑みが返ってきた。

そんな勝ちにこだわってきた山本だが、去年9月17日、その勝負の世界から遠ざかってしまうアクシデントに襲われた。

宮城県のスポーツランドSUGOで行われたスーパーGT第6戦。

38周目、他のマシンと接触した山本のマシンはコントロールを失い、そのままガードレールに激突。マシンが大破するほどの激しいクラッシュに見舞われた。当時の様子を山本は振り返る。

「記憶は全部残っていて。当たる前から、当たった瞬間、当たった直後。もう全部残っちゃっているんで」

「2、3回大きい衝撃があった後、自分の首から下の感覚が一切なくなっちゃって、正直短い時間だったんですけど、瞬時に悟って、『もうこのまま、もうレースは無理だな』って」

幸い手足の感覚は戻ったが、その後、山本を襲ったのは今まで経験したことのない首の激痛だった。

精密検査の結果、目の前に提示されたのは2つの選択肢。

首にメスを入れるか、レースを辞めるか。

「本音としては5%ぐらいは、感覚的には5%ぐらいレースは辞めて、家族もいますし、やっぱり命より大事なものはないと思う期間もあったし。ただ95%って言ったらほぼほぼ100に近いと思っているんですけど、自分の中からレースを奪われる、レースがなくなるっていうのはあり得ないというか、もうレースがあって今の自分があるので」

「簡単に諦めるのはやっぱり嫌だったので、可能な限り挑戦してレースに復帰するっていう思いで、手術とリハビリを決断しました」

どこまでも負けず嫌いな山本の選択。手術は無事成功。

ここから山本のレース復帰に向けたリハビリとトレーニングが始まった。

照準は3月に行われるスーパーフォーミュラ2024シーズンの開幕戦。

あのクラッシュからわずか175日後のレースで、勝負ができる状態に体を戻すこと。

本当に間に合うのか?

それはやってみないと分からない過酷なチャレンジ。

それでも山本には“戻りたい場所”があった。

「僕はレーシングドライバーでもあるんですけど、やっぱり『プロ』のレーシングドライバーっていう自覚を持ってやっているつもりなので」

「本当にトップを目指す、目指せる体に戻したいし、『またやっぱりレースをしたい』じゃなくて、『また勝負をするポジションに必ず戻る』っていうか、それがやっぱり最大のモチベーションだったのかなって」

そして今年3月10日。鈴鹿サーキットには戦う男の姿があった。

「やっぱりあれだけの大きい事故をして、自分の大切にしてきて、長年努力して強くしてきた首にメスを入れて、一度切ってしまったものをまた戻すというのはかなり辛かったですし、本当に努力したから。また戻れるのかっていう不安もたくさんあったんですけど、ただやっぱり頑張ったことに対する報いっていうのは、やっぱり本当にあったなと思うので」

あのクラッシュから175日後の3位表彰台。

それは真剣勝負の世界に戻ってきた証。

レース後のインタビューで山本は涙した。

「本当に辛かったんですけど、ここまでレースを戦える体に戻してくれた病院の先生とチャンスをくれたホンダさんとチームの皆さんに本当にお礼が言いたいですね。ありがとうございました」

その後、4月のスーパーGT開幕戦でも3位。

さらに5月のスーパーフォーミュラ第2戦では4位。トップを狙える結果を残している。

選手生命も危ぶまれたあの大クラッシュ。

それでも再び勝負の世界へ戻ってきた山本尚貴。

その理由は、やはり負けず嫌いな男ならではだった。

「レース以外にこれほど情熱を注げるものが僕の人生の中にないからだと思います。それにライバルドライバーもそうですし、他のメーカーさんに対してもやっぱり負けたくない、プライドを持って他のライバル達に負けたくないっていう思いがやっぱり自分の原動力だと思っていますし、それが全てだと思いますね」

――究極の負けず嫌いですね
負けず嫌いですね。負けず嫌いだし本当に負けが嫌い。この世界はもう勝つことでしか評価されない世界だと思っているので、極論を言うと。とにかくまた勝ってチャンピオンを取りたい、その思いだけです。

今週末23日、あの事故のあったスポーツランドSUGOでスーパーフォーミュラ第3戦が行われる。

表彰台のトップへ、そしてチャンピオンへ。

負けず嫌いな男の挑戦は続く。

(映像提供:JRP・GTA)

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