【輝く!昭和平成カルチャー】マルベル堂の「プロマイド」昭和の無敵アイドルは岡崎友紀!  エモい昭和アイテムとして注目されているのが「プロマイド」

リレー連載【輝く!昭和平成カルチャー】vol.2:マルベル堂のプロマイド

プロマイド第1号は映画女優の栗島すみ子

まずは大前提から。“プロマイド " と "ブロマイド" の違いはご存知だろうか。もともとは、シルバーブロマイドと呼ばれる臭化銀を感光剤として用いた印画紙を使用して制作されたスターの写真を売り出す際に “プロマイド” と名付けられたのが最初。1921年(大正10年)のことで、第1号は映画女優の栗島すみ子だという。戦後から昭和30年頃までは浅草や神田を中心に10軒ほどのプロマイド店が存在していたというが、次第に淘汰されて最も経営基盤がしっかりしていた浅草のマルベル堂が一手にその役目を背負うことになる。

以来、日本における唯一の総合メーカーとして製作・販売を行なってきたマルベル堂の商標が「プロマイド」、そして “ブロマイド” は一般名詞の俗称として使われている。我々が認識している、ポストカードより少し小さめなお馴染みのスター写真の正式名称は「プロマイド」なのである。ほかに大きめのポートレートや、パネルになっているもの、定期入れに入れられるようなミニサイズなど、マルベル堂のプロマイドには様々なバリエーションがある。

戦後から昭和の時代にかけて、俳優や歌手のプロマイドの売上実績は人気のバロメーターとなっていた。古くは長谷川一夫、原節子から、1960年代は美空ひばり、石原裕次郎、加山雄三、吉永小百合といった歌う俳優。さらにテレビの黄金時代を迎える頃には橋幸夫、舟木一夫、西郷輝彦の御三家をはじめとする青春歌謡の歌手たち。その後はグループサウンズのブームなど、時代を象徴するスターとプロマイドは切っても切れない関係だった。雑誌の切り抜きなどとはまた一味違うステイタスがあったのだ。

ⓒマルベル堂

プロマイドの世界では無敵のアイドルスター、岡崎友紀

1970年代に入り、"アイドル" という概念が誕生すると、プロマイドはレコードと共にますますポピュラーなファンにとっての必携アイテムとなってゆく。かつてのひばり・チエミ・いづみの元祖3人娘に匹敵する人気を得たのが、南沙織、小柳ルミ子、天地真理の新3人娘であった。初期のアイドルで最もレコードが売れたのが彼女たち。『スター誕生!』出身の中三トリオ(森昌子、桜田淳子、山口百恵)もそれに続いた。

しかしプロマイドの世界では無敵のアイドルスターがいた。それが岡崎友紀である。なんと46ヶ月、つまり4年近くに亘って連続首位という前人未到の記録を作ったというから驚かされる。岡崎友紀は、筒美京平らが提供していた曲ももちろんヒットさせていたが、それ以上にお茶の間を大いに楽しませてくれた『おくさまは18歳』や『なんたって18歳』などのコメディドラマで見せた魅力が顕著であった。役柄でありながらも本人の地に近いのではと思わせるような溌剌とした振舞いが受けて、男女問わず幅広い世代から愛されていたのだ。当時のプロマイドを見ると、美人でありながらどこかファニーフェイスでもあり、実に表情豊かな写真がいっぱい。人気があったのも頷ける。

さらに、木之内みどりや岡田奈々ら、曲のヒット以上にビジュアル面での支持が高かったアイドルもプロマイド人気はすごかった。両方を兼ね備えた麻丘めぐみやキャンディーズ、ピンク・レディーらの売上げが秀でていたことはいうまでもない。全盛期のピンク・レディーはあまりに忙しくマルベル堂のスタジオまで行く暇がないため、テレビ局の廊下などで撮影されたものがプロマイドになっていたという伝説は真実だろうか。そしてもちろん男性アイドルも。野口五郎、西城秀樹、郷ひろみの新御三家を筆頭に、四男の晃を中心にした兄弟グループのフィンガー5もプロマイドの売上げに大いに貢献した。

1980年代に入ると、松田聖子やたのきんトリオ(田原俊彦、近藤真彦、野村義男)らの活躍でまた新たなアイドル時代が到来する。その少し前からプロマイドの世界に起こっていた革命は、カラー写真の登場だった。従来のモノクロ版と並行して展開されていくようになる。価格もカラーの方が少し高かったため、同じスターのものでも味のあるモノクロ版で枚数を稼ぐか、それともリアルなカラー版で一点豪華主義にするか、購入の際に迷わされたものである。

昭和〜平成の芸能界の歴史がぎっしり詰まっている浅草 マルベル堂

最近のレトロブームに伴い、若い人たちにも昭和のスターのプロマイドがよく売れているという。デジタル時代に逆行するように、あえてマルベル堂でプロマイドを撮影して紙焼きに拘る現在の人気者たちも少なくない。さらには一般のお客さんまでも専用スタジオで撮影してもらい、プロマイドが作れてしまうサービスが行われている。かつて多くのスターたちが実際に座った歴史的な椅子や、昭和の小道具に囲まれて憧れのスター気分に浸れるのはすこぶる楽しい。

各種催事や一部の大型CDショップなど、今やいろいろな場所で入手可能なプロマイドだが、浅草の本店に行けばおびただしい数の現物をみることができる。ことに、半地下の歴代スターのプロマイドがところ狭しと並べられた空間には、昭和〜平成の芸能界の歴史がぎっしり詰まっている。歌手に俳優にコメディアン、意外な名前もたくさんあって正に宝探し状態。目の保養にもなること必至だ。是非一度訪れてみてはいかがであろうか。

カタリベ: 鈴木啓之

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