“海外帰り”の馬は「GⅢ」や「馬体重増」で妙味あり 東大HCがデータで検証

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今年の宝塚記念は「ドバイ帰り」の二頭が二強を形成

今週はサマーグランプリ・GⅠ宝塚記念が開催される。今年の宝塚記念はディープインパクトが圧勝した06年以来、18年ぶりに京都2200m(外)での開催だ。生ける伝説・武豊騎手を背にグランプリ連覇へ挑むドウデュースと、C.ルメール騎手との再コンビで復活を期す昨春の天皇賞馬・ジャスティンパレスが二強を形成している。

この2頭に共通しているのが、「海外帰り」という点。昨年の宝塚記念は、イクイノックスがドバイ帰りで状態が上がりきらず、2着とクビ差の辛勝であった。以降のイクイノックスの無双ぶりを考えれば、いかに海外帰りでコンディションを整えるのが難しいのかが分かる。

そこで今回は「海外帰り」の取り扱い方をデータから検証する。条件馬が海外遠征に帯同した場合はやや趣旨が異なるので、今回は重賞級の実績があって遠征した馬を想定し、帰国初戦が重賞だった馬を調査対象とする(データは2014年6月21日から2024年6月16日までのものを使用)。

狙いはGⅠではなく……

<過去10年の海外帰り初戦 クラス別成績(JRA所属馬。重賞のみ)>
全体成績【22-26-19-150】勝率10.1%/連対率22.1%/複勝率30.9%/単回40%/複回68%
GⅢ【5-8-7-29】勝率10.2%/連対率26.5%/複勝率40.8%/単回27%/複回117%
GⅡ【9-11-6-48】勝率12.2%/連対率27.0%/複勝率35.1%/単回44%/複回67%
GⅠ【8-7-6-73】勝率8.5%/連対率16.0%/複勝率22.3%/単回44%/複回44%

まずは、全体成績を見てみよう。勝率10.1%は、海外遠征に挑むレベルの馬にしてはやや寂しい数字。成績は落ちるが依然として人気はするので、単勝回収率は40%、複勝回収率は68%と妙味は薄くなっている。

では、この傾向はレースの格によってどう変わるのか。実際のデータを見てみると複勝率ベースでは、格が上がるごとに成績が下がっている。特にGⅠでは勝率8.5%、単勝回収率44%と苦戦している馬が多い。ドウデュースやジャスティンパレスにとっては心配なデータだ。

一方、GⅢで国内初戦を迎えた馬は好調。複勝回収率は117%とプラス域で、今年の函館スプリントSで2着に入ったウイングレイテストもこれに該当していた。夏競馬(6~8月)のGⅢが国内初戦となった馬は【2-5-2-11】で複勝率45.0%、複勝回収率101%。難解な夏競馬の攻略を手助けしてくれるデータだ。

<過去10年の海外帰り初戦 厩舎別成績(重賞のみ)>
中内田充正【2-3-0-2】勝率28.6%/連対率71.4%/複勝率71.4%/単回111%/複回122%
矢作芳人【2-2-1-11】勝率12.5%/連対率25.0%/複勝率31.3%/単回75%/複回75%
池江泰寿【1-2-3-7】勝率7.7%/連対率23.1%/複勝率46.2%/単回18%/複回113%

この章では調教師別の成績を見ていく。「海外帰り」に強い調教師は誰だろうか。

まず取り上げるのは中内田充正調教師。連対率、複勝率は驚異の71.4%で、単複の回収率はともにプラス。所属のプログノーシスやリバティアイランドは、帰国初戦から積極的に狙っていきたい。

海外遠征といえばこの人、矢作芳人調教師だ。単複の回収率はともに75%と妙味はまずまず。帰国初戦がGⅡ、GⅢだった場合に限ると【0-2-1-5】で複勝率37.5%、複勝回収率101%とプラス域に突入する。該当馬が帰国初戦に手堅いレース選択をしてきた場合は狙い目だ。

3番目に取り上げるのは池江泰寿調教師。この春も香港帰りのソウルラッシュが、マイラーズCを制した。勝率7.7%、単勝回収率18%と頭では狙いにくいが、複勝率46.2%、複勝回収率113%と、複勝圏内であれば信頼度がグンとアップする。GⅡに限ると【1-2-1-3】複勝率57.1%、複勝回収率131%と妙味はさらに上がる。該当馬がいる場合は2、3着付けで狙ってみるのも面白い。

今週の宝塚記念では、ドウデュースを管理する友道康夫調教師が【1-1-1-6】で単勝回収率27%、複勝回収率43%と妙味は非常に薄い。また、ジャスティンパレスを管理する杉山晴紀調教師は【0-0-0-2】とサンプル数は少ないものの、一度も馬券に絡めていない。両者ともに付け入る隙はありそうだ。

馬体重増で期待度アップ

<過去10年の海外帰り初戦 馬体重の増減別成績(重賞のみ)>
前走から+10kg以上【3-4-3-20】勝率10.0%/連対率23.3%/複勝率33.3%/単回67%/複回112%
前走から+9kg~+4kg【6-1-2-15】勝率25.0%/連対率29.2%/複勝率37.5%/単回77%/複回67%
前走から+3kg~-3kg【3-4-1-25】勝率9.1%/連対率21.2%/複勝率24.2%/単回50%/複回45%
前走から-4kg~-9kg【0-3-0-6】勝率0.0%/連対率33.3%/複勝率33.3%/単回0%/複回47%
前走から-10kg以下【0-0-0-2】勝率0.0%/連対率0.0%/複勝率0.0%/単回0%/複回0%

最後に馬体重の増減に注目する。

最も勝率が高いのは前走から4~9kg増に該当する馬。単複の回収率はともに70%前後と強調はできないが、馬体重がやや増えているというのは状態が高い値で安定していることの証明なのだろう。

最も妙味があるのは前走から10kg以上増えている馬で複勝回収率は112%とプラス域。勝率、連対率は±3kg帯と大差ないが、急激な馬体重の変化が嫌われ、人気を落とすことで妙味が生まれている。特に、海外輸送などで馬体が減った馬に関しては、元に戻ったとプラスに捉えるべきだろう。今年の高松宮記念を6番人気で勝利したマッドクールはその前走の香港スプリントで10kg減だったが、そこから18kg増。この条件にピッタリ合致していた。一方、前走から馬体をある程度減らしている馬は回収率が低く、割引が必要だ。

馬体重を計測しないドバイ帰りのドウデュースやジャスティンパレスにはこのデータを適用できないが、香港などから帰ってきた馬を評価する際に覚えておきたい。

《ライタープロフィール》
東大ホースメンクラブ
約30年にわたる伝統をもつ東京大学の競馬サークル。現役東大生が日夜さまざまな角度から競馬を研究している。現在「東大ホースメンクラブの愉快な仲間たちのブログ」で予想を公開中。



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