国交省/鉄道整備の利用者負担制度を年度内に見直し、工事区間外でも加算

国土交通省の有識者会議は19日、鉄道の新線建設や複々線化といった整備事業への投資を促すための新たな考え方をまとめた。整備費を運賃に上乗せできる「利用者負担制度」の適用範囲を見直す。新線建設時の工事区間だけでなく、混雑率の低下などの波及効果が見込める別の区間でも運賃を上乗せできるようにする。国交省は年度内をめどに現行制度を見直したい考えだ。
19日に「今後の都市鉄道整備の促進策のあり方に関する検討会」(山内弘隆武蔵野大学経営学部特任教授)の最終会合を東京都内で開いた。現行の利用者負担の仕組みは、供用開始の前か後に投資負担を運賃に加算できる2通りの制度がある。供用開始後に活用する「新線整備に係る加算運賃制度」は、加算対象を新線建設によるメリットがある新たな区間に限定。利用者から負担増への理解を得やすい一方、上乗せ額が高額になるケースが多く負担の平準化が課題になっている。
見直し案では、運賃の加算対象を整備区間外に広げる方向性を示した。新線の開通によって、混雑率の低下といったメリットが見込まれる既存の区間があれば、運賃を加算できるようにする。工事前の借り入れ負担を抑えるため、加算期間を供用開始前まで広げる案も提示した。
供用開始の10年前から適用できる「特定都市鉄道整備積立金制度」は、鉄道事業者が運営する全線で運賃の加算が可能で、利用者の負担を平準化できるメリットがある。ただ、制度の適用要件が事業者の年間の運賃収入額以上の大規模事業に限定され、活用が難しいとの指摘がある。見直し案では事業規模の制限を設けず、施設の改良といった幅広い用途に適用できるようにする考えを提示した。
コロナ禍による需要の縮小や将来的な人口減少を見据え、大規模な設備投資に踏み込めない鉄道事業者が増えている。補助施策を講じてきた国や地方自治体の財政状況も厳しさを増し、十分な支援が難しくなりつつある。国交省は利用者負担制度の見直しを通じて、鉄道事業者が投資しやすい環境整備を急ぐ。

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