高卒3年目で欠かせない存在に成長した前川右京…指揮官も認めた「中軸で起用する意味」

◆ 「4打席で1本出るのがあの時かランナーいてない時かで大違いやからな」

レギュラーの座をたぐり寄せる大きな放物線だった。

16日のホークス戦の初回、タイガース・前川右京の放った一発は2連敗中のチームにも、外野の定位置定着を狙う21歳にとっても価値があった。初回、先発の石川柊太の乱調で作った一死満塁の好機で巡ってきた第1打席。3球目の直球が高く浮いたところを見逃さなかった。

「点を取りたいなと思っていたので、何とか点を取れるように外野まで持っていきたいなと思っていました。もう犠牲フライでも何でも良かったんで、とりあえず点を取ろうと思って」

外野まで…の思いを乗せた打球はその遥か上をいき、右翼スタンド前のホームランテラスを越えていく今季2号の先制グランドスラムとなった。終わってみればチームの得点はこの初回の4得点のみ。岡田彰布監督も一振りで試合を決めた若虎の殊勲に目を細めた。

「やっぱ大きいよなあ。(初回に4点だと)攻めようがなくなってくるからな。ソロやったらまだあれやけど」

パ・リーグ屈指の強力打線を誇るソフトバンクも“よーいドン”での4失点は簡単に跳ね返せなかった。そして指揮官はこう続けた。

「ずっと1本とか、ヒットも出とったしな。そんなに状態良くないと思うけどな。やっぱりクリーンアップ据えたらな、ああいう時に1本な。4打席で1本出るのがあの時かランナーいてない時かで大違いやからな」

直近5試合では14打数3安打の打率.214と決して好調ではなく4~5打席に1本の安打が出る確率にとどまっていた。

ただ、前日15日に続いて5番で起用されると、これ以上ない絶好機でその1本が出た。監督が言うように同じ4打数1安打でも打順や状況が違えばそれはチームの勝敗をも左右する1本になる。前川を「中軸で起用する意味」が垣間見えた瞬間だった。

◆ 得点力不足に悩むチームにおいて欠かせぬ存在

高卒3年目を迎えた今季は初の開幕スタメンを勝ち取ると、ここまで1度の再調整も経験することなく奮闘。課題は守備でも、弱点を補って余りある打力で得点力不足に悩むチームにおいて欠かせぬ存在となりつつある。前川の現在地を語る岡田監督は目を細める。

「やっとな左(投手)の時でも先発したり。そういう形で徐々にポジション獲れるようにな。今がレギュラーポジション獲る過程じゃないか」

故障で離脱することも少なくなかった背番号58にとって、勝負は夏場を迎えるここからだろう。相手バッテリーも傾向をあぶり出して対策してくる。本人も高校以来という“グラスラ”に浮かれることは一切なかった。

「まだまだこれからだと思うんで。今日のことは忘れて、またセンター中心に低い打球を打っていきたいなと思います」

地に足をつけたスイングからラインドライブを重ねた先にレギュラーの座が待っている。

文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)

© 株式会社シーソーゲーム