【社説】露朝「同盟」格上げ 自己正当化も甚だしい

 ロシアのプーチン大統領が24年ぶりに北朝鮮を訪問し、金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記と「包括的戦略パートナーシップ条約」に署名した。

 プーチン大統領は軍事技術協力も「排除しない」とし、金総書記も「同盟」関係への格上げを誇示した。あからさまな接近は、孤立を深める両国が互いにお墨付きを与える打算の連携にも見える。

 国際社会に対する信頼回復に背を向け、軍事面での連携強化を図る姿勢は利己主義そのものである。北朝鮮と向き合う韓国が反発するのも当然で、両国がウクライナはもちろんアジアの安定を脅かすようなことは許されない。

 ロシアはウクライナ侵攻への支持を取り付け、北朝鮮から武器や弾薬の供給を受ける思惑があるのだろう。北朝鮮は見返りに原油や食料を得る。軍事偵察衛星の打ち上げやミサイル開発への技術供与にも期待しているはずだ。

 軍事面での連携強化は各国それぞれの判断に基づくものである。だが、今回の両国の条約は単なる連携強化と片付けられない。

 北朝鮮は2006年から17年まで6回の核実験を重ね、弾道ミサイル発射を繰り返してきた。国連安全保障理事会がその間に11本の制裁決議を全会一致で採択している。

 ロシアはその安保理の常任理事国だ。自らも賛成した、北朝鮮との武器取引を禁じた安保理決議を公然と踏みにじることは言語道断である。

 国際社会の制裁が形骸化すれば、北朝鮮は核・ミサイル開発を堂々と進められることになる。国際秩序の安定と平和のためにも両国の横暴を認めるわけにはいかない。

 あろうことかプーチン大統領は訪朝直前に北朝鮮の労働新聞に寄稿し「米国とその衛星国がロシアを戦略的に敗北させようとしている」と批判した。米国が韓国、日本と大規模軍事演習を頻繁に行い、朝鮮半島や北東アジアの安定を損なっているとした。

 北方領土問題に譲歩をちらつかせ、安倍政権を手玉に取ったロシアの揺さぶりには腹も立つ。しかし、こういう局面だからこそ日米韓の結束が重要になる。

 北朝鮮に最も影響力を持つ中国はロ朝の接近を静観している。ロ朝両国に近づけば、欧米と一線を画すグローバルサウスの国々を、逆に欧米に接近させてしまうと考えたのかもしれない。

 ロ朝会談前には、韓国と外務・国防次官級による外交安全保障対話(2プラス2)を初めてソウルで開催。中韓で朝鮮半島情勢を協議したことは評価できる。中国がロ朝に傾斜しないよう、日本も外交努力を尽くすべきだ。

 欧米の政治状況は流動化している。英仏両国の与党は総選挙での苦戦が伝えられ、今秋の米大統領選ではトランプ氏の復帰もささやかれる。欧米の結束が崩れれば、ロ朝の思うつぼだろう。

 自己正当化に過ぎないロ朝の振る舞いは容認できるものではない。国際社会は毅然(きぜん)と対応し、新たな冷戦構造をエスカレートさせない英知も発揮してもらいたい。

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