自動車カタログの魅力とは デジタル化で消滅危機…挑発的コピーや時代描写、紙ならではの切り貼り遊びも

いかにも高級そうな厚紙の自動車カタログを販売店でもらうワクワク感は、ピカピカの新車のシートの匂いとともに、年季の入った自動車ファンたちの脳裏に焼き付いているだろう。その魅力をとことん語り合う催しが、このほど開かれた。

5月中旬の土曜日、親子連れでにぎわう愛知県長久手市のトヨタ博物館。約24万点の自動車関連蔵書を誇る館内施設の図書室に、筋金入りの自動車ファンたちが詰めかけた。 お目当てのイベントは「自動車カタログ語り隊! 第2弾」。文字通り、持ち寄ったカタログの魅力をひたすら語り合うというシンプルかつハードコアな催しだ。 第1弾は昨年11月に開催。熱心なファン13人が集まり、終了後は互いの連絡先を交換する参加者もいたという。「またやってほしい」といった反響を受けて、リニューアルのため図書室が6月に休室するのを前に、第2弾開催の運びとなった。 「図書室でお客さまが手に取る頻度が高い自動車のカタログを使って、お客さまと交流できないかと考えた」(企画担当者)のが、このイベントの開催理由だ。

覆面パトカーの定番も

この日に集まったのは11人。手狭な図書室からワークショップ向けスペースに急きょ移動し、それぞれのコレクションを披露しながら熱いトークで盛り上がった。 参加者が持ち寄ったカタログは、年代も車種も多岐にわたる。 ひときわレアなのが、発売前の仮契約で配られたというトヨタ86のカタログ。装備や価格の詳細情報は無く、パワートレインなどの機能説明に紙幅を割く。この名古屋市天白区の男性が購入した86は、購入ディーラーの納車第一号だったという。 1960年代のトヨタの「集合カタログ」を持参した男性もいた。メーカーの全車種を一挙に紹介する冊子で、高級セダンから商用トラックまで、各メーカーが品ぞろえの広さを競って誇示していたのが集合カタログだ。この類の冊子はなかなか残っていない。 この男性は他にも、覆面パトカーの定番として知られたスズキ・キザシや、ハードカバーで重厚なしつらえの日産シーマのカタログも披露し、参加者が熱心に見入っていた。

時代の刻印としてのカタログ

往年のカタログからは、記憶に残るキャッチコピーも生まれた。参加者からも「隣のクルマが小さく見える」(日産サニー)や「名ばかりのGT達は、道をあける」(トヨタ・セリカ)といった、ライバル車を挑発する名フレーズが飛び交う。 こうした激しい販売競争を繰り広げた高度経済成長期以来の時代背景が色濃く刻まれているのも、自動車カタログの大きな特徴だ。 日産ブルーバードのカタログでは、家族が団地のベランダから車を見送る姿が描かれていた。商用車のカタログでは、トラックの積み荷の描写から当時の世相が読み取れるという。 「モータリゼーション草創期にまだ珍しかった女性ドライバーは、白い手袋にハイヒール姿という華美ないでたちで描かれることが多かった」という指摘もあった。

トヨタも紙カタログ廃止へ

こんなにも自動車ファンに愛されている紙のカタログだが、令和の新車販売の現場からは消えつつある。タブレット端末での見積もりや商品説明が浸透し、印刷・製本のコスト削減にもつながるため、来店客への配布を見合わせるディーラーが増えた。 今年1月にはトヨタ自動車が、2025年1月をもって紙のカタログの制作と印刷を終えると発表。「カーボンニュートラルの取り組みを進めるため」などと理由を説明している。系列ディーラーでは今後、動画による機能説明もできるタブレット端末型の「スマートカタログ」への転換を進めるという。

80年代のカタログと歌謡曲

こうして徐々に紙のカタログが消えていく時勢に、この日集まったファンからは惜しむ声が聞かれた。 「電子書籍と違って、好きな写真の載ったお目当てのページをすぐに開けるのが紙の魅力」とアナログならではの利便性を説く人がいた一方で、「写真だけ見たい人はデジタル、スペックを読み込みたい人は紙、と媒体ごとに役割分担できるのでは。有料でもいいので紙の製本を残してほしい」といった提案もあった。 紙製のカタログならではの遊びを懐かしむ人もいた。 名古屋市北区の男性は、車体写真のモール部分をマジックで黒く塗り潰したり他車種のホイール部分を丸く切り抜いて貼ったりして、塗り絵感覚でドレスアップをシミュレーションするという。「小さい頃、ボディー全体を白黒に塗ってパトカー仕様にして楽しんでいた」という参加者もいた。 ページをめくるとその時代の匂いを感じられるのも、印刷物であるカタログの味わいだ。 80年代後半からのバブル経済期に人気だったトヨタのハイソカーのカタログが好きで収集しているという愛知県岡崎市の40代の男性は、当時のクラウンのカタログを眺めながら80年代の歌謡曲を聴くのが至福のひとときだという。

デジタル時代の収集を模索

「調査研究に役立つ資料や、お客さまからクルマ文化に興味を持ってもらえる図書の収蔵」(担当者)を図書室設置の理由に掲げるトヨタ博物館としても、紙の資料の消滅はアーカイブ収集にあたっての死活問題だ。物理的な実態を伴わないデジタルデータを、資料として漏らさず収集・保存していくのは難しい。 それでも、「後から振り返った時に『この期間だけ資料が残っていない』といった事態は避けたい」として、カタログの媒体がデジタルに本格移行した後も、時代の変化に応じた収集方法を探るという。 トヨタ博物館の図書室は、リニューアルのため6月4日から休室。11月3日に再オープンする。リニューアル後の姿については「より一層、お客さまと本とのつながりが持てる空間をつくり、共感・交流が生まれる図書室にしていきたい」としている。 (メ~テレ 北林慎也)

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