社長が時代劇を見てひらめいた、アース製薬「アースノーマット」 発売40年で国内シェア9割に、コロナ禍も影響

アースノーマットの商品。ブタの形の商品は2007年の発売以来、売れ続けているロングセラー=赤穂市坂越、アース製薬坂越工場

 アース製薬(東京)の液体蚊取り「アースノーマット」が、6月で発売から40周年を迎えた。蚊取り線香やマット式蚊取り器で他社に先行され苦戦する中、当時の社長がテレビの時代劇を見て思いつき、独自商品の開発にこぎつけた。発売時から兵庫県赤穂市の坂越工場で製造し、今では液体蚊取り市場で国内シェア90%を占めるまでに成長した。(塩津あかね)

 ノーマットを発売したのは、1984年6月。殺虫成分を含んだ液体を棒状の芯で吸い上げ、加熱して気化させる仕組みだ。

 開発当時、蚊取り器市場では、蚊取り線香に代わってマット式蚊取り器が席巻していた。アースも追随しマット式を販売したが、全く売れなかった。起死回生を図ろうと、「マットを毎日取り換えるのが面倒」という消費者の声を受けて新商品の開発に着手した。

 ヒントになったのは、時代劇でよく登場する「あんどん」だった。当時社長だった大塚正富氏(故人)が、油がある限り灯がともっている「あんどん」をテレビで見て、液体式を思いついたという。

 次にポイントとなったのが、液体を吸う「芯」の開発だ。マット式を開発する時から、線香の素材をマットに使うアイデアがあった。ノーマットの芯材も線香をベースにして作ることにしたが、安定的に長時間、液体を気化できるようにするのに苦労したという。

 こうして「芯」が完成し、アースノーマットとして発売。ただ、当初はなかなか売れなかったという。価格が1600円と高かったことが不振の一因だった。そこで値下げをするとともに、マット30枚とボトルを並べ、マットを日々取り換える必要性がないことなどを消費者にアピールした。3年ほどたって徐々に売れるようになった。

 その後、広い部屋に使えるよう液体の濃度を変えたり、コンセントに直接差し込む方式の製品を出したりするなど、消費者のニーズに合わせて進化させた。ただ「芯」の仕様は40年間変更がなく、詳しい成分は企業秘密だ。「社内でも限られた社員しか製造現場には入れない」と担当者。ノーマットは中国やタイでも製造しているが、芯は坂越工場から輸出している。

 2023年の国内の液体蚊取り市場は90億円で、うちアースの製品が81億円を占める。シェアは20年前に78%となり、それ以降も拡大を続けている。新型コロナウイルス禍で窓を開けるようになったことを受け、近年は蚊の進入防止に役立つ点を前面に打ち出しており、「消費者のニーズや時代に合った訴求が実っているのではないか」と担当者は分析している。

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