企業の生成AI利用は「期待を上回る/下回る」で二極化の兆し、違いはどこで生じる? ―PwCが調査結果を発表

by 大河原 克行

「生成AIに関する実態調査2024」

PwCコンサルティングは、「生成AIに関する実態調査2024 春」の調査結果について発表。生成AI導入の効果に関して、「期待を大きく上回る企業」と、「やや期待を下回る企業」に二極化する兆しがあることを指摘した。

調査概要

PwCコンサルティングの三善心平氏(執行役員 パートナー)は、「現時点では、二極化とまでは言い切れないが、その兆しが見られ始めているのは明らかである。生成AIに関して、期待を超える成果を出している企業に共通しているのは、生成AIによって起こりうる変革を、経営層が深く理解しており、規模とスピード感をもって取り組んでいる点である」と分析した。

PwCコンサルティングの三善心平氏(執行役員 パートナー)

「期待超グループ」は積極活用、「期待未満グループ」は活用度が低い傾向

調査結果では、生成AIの活用効果を期待値と比較したところ、「期待を大きく上回っている」との回答が9%、「期待通りの効果があった」との回答が48%、「やや期待を下回る」が17%、「期待とかけ離れた結果になった」が1%、「まだ効果を評価できていない」が25%となった。

今回の発表では、「期待を大きく上回っている」とする「期待超グループ」9%と、「やや期待を下回る」および「期待とかけ離れた結果」とする「期待未満グループ」18%に分けて、利用実態の違いなどを分析している。

生成AIの活用効果に対する期待との差分について「期待超グループ」が9%、「期待未満グループ」が18%となった

「期待超グループ」の企業では、情報検索だけでなく、意思決定や施策検討まで踏み込んだ利用をしていること、全社共通基盤として導入していること、社員の利用をあまり制限していないこと、かなり早い段階から生成AIを導入し、注力アジェンダとして予算や経営リソースを多く投じているといった傾向があることがわかった。三善氏は「生成AIは、業界全体を根本から変える可能性がある技術だと認識し、経営アジェンダとして取り組んでいる企業が、期待を超える効果を出している」と評価する。

「期待超グループ」の企業では、業界構造を根本から変革するチャンスと捉えている企業が71%を占めている。

対して「期待未満グループ」の企業では、生成AIの利用がテキストのみであり、要約や資料検索といった基本的な利用に留まっていたり、個別業務に最適なユースケースを推進できていなかったりといった傾向があり、「足元の業務効率化を実現する技術にすぎないと認識している企業や、部署内での業務効率化に留めている企業の多くが、活用効果が期待を下回ると回答している」と、三善氏は指摘した。「期待未満グループ」の企業の中で、後述もする生成AIへの期待度合いを「業界構造を根本から変革するチャンス」と回答している企業の比率は、わずか17%に留まっている。

ユースケースとして、「ブレインストーもミングやアイデア出し」に生成AIを活用している企業は、「期待超グループ」では61%に達しているが、「期待未満グループ」では45%に留まり、16ポイントの差があった。ほか、コーポレートやバックオフィスで生成AIを利用している状況が、前者では59%に対して、後者は28%となり31ポイントもの差があるという。

「期待超グループ」「期待未満グループ」でのユースケースの傾向の違い1
「期待超グループ」「期待未満グループ」でのユースケースの傾向の違い2

両グループが期待超/期待未満とした理由を見ていくと、「期待超グループ」の企業はユースケースの設定が一番の成功要因だと考えているが、「期待未満グループ」の企業は、データ品質を一番の失敗要因と考えていることがわかった。また、「期待超グループ」の企業では、経営層の理解が重要な要素と考えている例が多いとの分析も示された。

「期待超グループ」「期待未満グループ」それぞれの評価の理由

2023年秋から生成AIの普及・関心度合いは高止まり

全体の調査結果を見ていこう。

生成AIの推進度については、活用中、推進中、検討中をあわせると91%となり、前回調査に比べて9ポイント上昇。他社の生成AIの活用事例への関心度があるとの回答も91%となり、前回調査からは4ポイント上昇した。2023年春の調査から、2023年秋の調査では、進捗度や他社活用への関心度が一気に高まったが、今回の2024年春でも高止まりが続いている状態と捉えている。

生成AI活用の推進度合い、活用中〜検討中の合計が91%

生成AIへの期待度合いでは、「自社ビジネスの効率化および高度化に資するチャンス」との見方が49%、「業界構造を根本から変革するチャンス」が25%、「他社より相対的に優位に立つチャンス」が24%となった。一方で、生成AIへの脅威認識では、「他社より相対的に劣勢に晒される脅威」との回答が最も多く43%となり、「ビジネスの存在意義が失われる脅威」が27%、「コンプライアンスや企業文化、風習などにおける脅威」が21%、「自身や周囲の業務が必要なくなる脅威」が8%となった。

調査におけるこれらの選択肢は、期待度合いや脅威意識の大小というよりも、どこに最も注目しているかが現れたものと捉えられる。「ほぼ半数の企業が、足元の自社ビジネスの効率化や高度化にチャンスがあると見ている。また、ビジネスの存在意義が失われる脅威が一定数あるが、それよりも足元の他社より相対的に劣勢に晒される脅威を感じている企業が多い。生成AIに対しては、既存ビジネスの効率化や競合への優位性確保といった点で捉えていることがわかる。まずは足元から捉えている点では、日本の企業らしい傾向ともいえる」と、三善氏は説明した。

生成AIへの期待度合い、脅威認識に大きな変化は見られない。競争優位性確保を求める傾向が見られる

業種により推進度に差、活用における課題は「人材がいない」

生成AI推進の取り組みについて、業種別の分析結果も示された。

通信、テクノロジーの2つの業界は、前回調査同様に、推進度が最も高い。三善氏は「自社利用だけでなく、顧客に対するサービス提供やサービスの開発にも活用しており、生成AIに関する投資や推進が桁違いである」とした。

業界ごとの生成AI推進度の、2023年秋調査との比較

前回調査よりも推進度が上昇したのが、サービス/接客業、公益事業/エネルギー、不動産などだ。「サービス/接客業では、顧客コミュニケーションにおいて、人的リソースの不足をカバーするために、適切なユースケースが生まれている。また、公共や不動産では、社内業務の煩雑さを解決するためのユースケースが期待される」と、三善氏は要因を分析した。

反対に、停滞傾向にあるのが、ヘルスケア/病院、自動車、運輸・物流である。これらの業種は、業務の特性上、生成AIのハルシネーションに対する課題があり、試行錯誤をしている段階にあると位置づけた。

そして、様子見に区分されたのが、化学、消費財/飲料/食品、商社、小売である。これらの業種では、生成AIを活用する際に、著作権のリスクが存在したり、具体的な成果を想定したユースケースが創出できなかったりといった課題があるとした。とくに、商社では、定型作業が少ないことが生成AIの活用が遅れている原因とする一方、外向けのサービスに生成AIを活用したいといった動きが商社から出はじめているとも言及した。

生成AIの活用における課題としては、「必要なスキルを持った人材がいない」との回答が最も多く、次いで「ノウハウがなく、どのように進めれば良いか、進め方が分からない」が2位となり、前回調査同様に、回答者の過半数が、人材面の課題に直面していることが浮き彫りになった。

生成AI活用において直面した/直面している課題の、2023年秋調査との比較

生成AIの効果測定の指標は「売上・収益」が48%

今回の調査では、生成AIの効果測定の指標についても質問している。回答結果から、効果測定では社員生産性や工数・コストが重視されていることがわかった。

だが、生成AIへの期待度合い別に見てみると、「業界構造を根本から変革する」と考えている企業では、「売上・収益」が指標になるとの回答が48%と3番目に多くなっているのに対して、「自社ビジネスの効率化に期待している」と回答した企業で同じ回答は33%に留まり、15ポイントもの差があった。

生成AIの活用指標として測定している/これから測定しようとしている指標。生成AIへの期待度合い別の比較

生成AI活用による社員業務の変化としては、「社員はより上流かつ創造的な業務や、新規事業へのシフト」が55%、「人手不足が解消」が45%、「社員の仕事は奪われて人員が削減できる」が30%となった。三善氏は「コーポレートやバックオフィスなど、創造性や新規性が少ない定型業務において、人から代替したり、人員を削減したりすることを狙っている。単純作業の極小化や、クリエイティブ業務における工数削減が検討されている」と分析した。

生成AI活用による社員業務の変化。

さらに、生成AI活用効果の還元先としては、従業員を想定しているケースが最も多く、時短勤務の実現などによる柔軟な働き方への貢献、新規事業への投資拡大によって、やりがいがある仕事の提供、従業員への給与増加などの利益還元などが見込まれていることが明らかになった。

生成AI活用効果の還元先

「組織や業務の根本改革、人的資本の充実と高品質化につなげることが大切」

今回の調査結果をもとに、PwCコンサルティングでは、生成AIの活用は高い関心を維持しながら、試行錯誤の段階に入りつつあること、活用の成果に二極化がさらに進展していくこと、定型作業極小化によって人員を削減し、生み出した余力を労働環境向上や賃金増加に投下し、優秀人材の確保およびと流出防止に充てていくといった3つのトレンドが生まれているとまとめた。「生成AIは、コスト削減に効果を見出している企業が多い。だが、本来は、組織や業務の根本改革と、人的資本の充実および高品質化につなげることが大切である」と三善氏は説明している。

本調査から見たトレンドのまとめ
生成AIを経営資源に据えた経営・業務改革による、財務資本の拡大と人的資本の充実の図

さらに、「生成AIの活用によって、企業のコアコンピタンスは何かについて、再考および再認識が求められるのではないだろうか。また、ドラスティックな変革を持続させるためには、生成AIを組み込んだ経営ビジョンや、カルチャー変革が必要である。加えて、生成AIを持続的に活用するには、組織、人材、投資、インフラを根本的に作りかえる必要がある。そして、従業員も、生成AI時代に求められる新たなキャリア形成を模索する必要がある」と提言した。

調査結果を踏まえた提言のまとめ

本調査は、2023年5月、同年10月に続き、3回目となる。日本国内の売上高500億円以上の企業に勤務し、AI導入に対して関与している従業員912人から回答を得ている。2024年4月3日~8日に、ウェブにより調査が実施された。

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