歌舞伎界のプリンス 24歳の片岡千之助が映像作品に挑戦する理由 「歌舞伎があることが当たり前ではない」コロナ禍で学んだ危機感

映画「九十歳。何がめでたい」で若手編集者・水野秀一郎を演じた片岡千之助(撮影:磯部正和)

3歳から舞台に立つ松嶋屋の歌舞伎俳優・片岡千之助。24歳の歌舞伎界のプリンスは、近年映像作品にも挑戦。映画『九十歳。何がめでたい』が公開される。そんな千之助が思う歌舞伎界の未来とは――。

名門・松嶋屋に生まれ、祖父は人間国宝・十五代片岡仁左衛門、父も有名歌舞伎俳優の片岡孝太郎という家柄。物心ついたときには舞台に立っていた。

「最初はとりあえずやってみたい…ぐらいの気持ちでした。小学校高学年ぐらいで、この世界で生きていくのかなと漠然と思っていたような気がします」

本人の意識とは別に引かれていたレール。その道を歩むことに疑問やためらいはなかったという。しかし20歳になったころ、コロナ禍で国内外のエンターテインメント業界は大打撃を受けた。歌舞伎界も例外ではなく、多くの先輩俳優は危機感を募らせていた。

映画「九十歳。何がめでたい」で若手編集者・水野秀一郎を演じた片岡千之助(撮影:磯部正和)

「歌舞伎の家に生まれ、オーディションを受けるわけでもなく、歌舞伎役者としてお役に挑戦させていただける環境を与えてもらえる。もちろん、小さいころからお稽古はたくさんしていますが、そこはすごく恵まれていると思いつつ、特権みたいなものを意識したことはなかったんです。でもコロナ禍になり、400年続いてきた歌舞伎も決してお客さんが入り続けるなんてことはないんだという危機感が芽生えました。歌舞伎があることが当たり前ではないんですよね」

起源は江戸時代初期にさかのぼる歌舞伎だが、未来永劫続く保証などないことを身に染みて感じた。

「俯瞰して歌舞伎の世界を見るようになったんです。どの世界も永遠の繁栄などないと思いますが、謙虚に向き合いながらも、しっかり自分のなかで思いを持っていないといけないんだと強く感じました。歌舞伎の世界は役者だけではなく、たくさんの裏方さんたちがいなければ成り立たない世界なので。全員がちゃんと生活していけなければダメなので」

千之助が出演している「九十歳。何がめでたい」では、草笛光子演じる90歳を迎える作家が、あまりに合理的に進歩し続ける現代を憂い、古き良きものと新しいものの融合の大切さを説く。

「歌舞伎の世界も同じような気がします。僕ら若い世代に伝統芸能の何が面白いのかをどうやって伝えていくかは考えます。アニメとのコラボなどは一例で、導入としては大事だと思います。でもやっぱり最終的には古典の魅力を知ってもらいたい。そこに興味を持っていただかないと、続かないと思うんです。いまはサブスクやスマホで完結してしまう若い方が多いので、そこから先、もう一つ頭を絞って、いいシナジーを生んでいきたいです」

歌舞伎俳優が映像の世界で活躍する機会も多い。そこには歌舞伎という伝統芸能を広く知ってもらいたいという思いもある。

「歌舞伎に興味がある人は舞台を観てくださいますが、興味がない人のとっかかりとして、少しでも何か引っかかってもらえればうれしいですね。7月には現代劇の舞台『ヒストリーボーイズ』にも挑戦しますし、自分自身も映像のお芝居だけではなく、さまざまな表現に磨きをかけていきたいです」

映画『九十歳。何がめでたい』は6月21日より全国ロードショー

(まいどなニュース特約・磯部 正和)

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