がん終末期の栄養ケア

施設の栄養補助食品が好みに合わない

「隣の人が食べている栄養のあるゼリー、私も食べたいんだけど……」

ある日、ご利用者のCさんに呼び止められ、このような相談を受けました。
Cさんは消化器系がんの終末期で、疼痛コントロールをしながら生活しています。認知症は患っていないため、ご自身で決めたやりたいことの実現を目標に過ごしており、当施設ではその支援をケアプランとしています。がん性疼痛や下肢の浮腫に悩まされながらも、Cさんは入居生活を楽しんでおられる様子でした。

冒頭の相談を受けた数日前からCさんは食事摂取量が減っており、原因として同時期にオピオイドの量が増えたことや歯の治療を行っていたことが食欲に影響を及ぼしたと予想できました。
食事の際、隣の方の食事内容を見て(恐らくは職員からご自身との食事内容の違いを聞いて)、「これなら食べられるかも」と思ったそうです。当施設では栄養補助食品をつける場合、食事を半量にしています。しかし、Cさんは食事摂取量にばらつきがあり、単純にハーフ食(食事半量と栄養補助食品の組み合わせ)に移行すれば解決する、とはいかないように思いました。

当施設はハーフ食で使用している栄養補助食品であれば1パック単位から個人負担で追加することができ、実際にそうしているご利用者が数人いらっしゃいます。提供までの手間や事務処理の簡便さも含めて考えると、給食から個人負担で提供することが第一選択であるため、Cさんにもそのように提案しようとまずは試食してもらいました。しかし、施設で用意している栄養補助食品は嗜好に合わず、この方法は断念することとなりました。
次の選択肢は、一般のドラッグストアや通信販売等で購入する方法です。Cさんは「すぐにでも食べたい」と意欲的で、施設近くのドラッグストアで栄養補助食品を購入し、提供しました。ほかにも当施設で契約している生活用品の通信販売サイトからも購入が可能なため、タブレット端末から味や容量を確認しながら選んでいただきました。

購入した栄養補助食品は、「食事が食べられなかった日に食べたい」ということで、Cさんご自身で管理することに。その後、実際にそれらを食べたCさんから「口口味はおいしかった」「△△味は好きじゃない」などといった好みを聞いて、次の購入内容を一緒に考えています。
これが功を奏して食事摂取量は若干ながら改善し、現在も栄養補助食品の摂取を継続しています。

冷やした栄養剤で食が進み栄養量を確保

Gさんは消化器がんの診断がありますが、治療は行わずBSC(ベストサポーティブケア)を選択されています。また、COVID19感染症の既往があり、その後遺症と疑われる味覚障害も認められました。
入居日から「こんなに食べられない」と提供量を半量にしてほしいという希望があり、そのように対応していましたが、そのうち食事がまったく食べられなくなりました。Gさんは食卓についたあとも周囲のご利用者の様子をうかがうばかりで、ご自身の食事を召し上がろうとはしません。
何度かお話をうかがうと、「何を食べても味がしない。少し感じても思っていた味と違う」とおっしゃいます。佃煮や梅干なども提供してみましたがあまり効果はありませんでした。

Gさんからは時々、食べたいもののリクエストを受けます。天ぷらやカニ、中華料理などで、ご家族にご協力いただいて提供すると少量ですが食べることができました。しかし、それでも食事量は増えないままでした。
栄養補助食品を追加すべきか検討を始めた矢先、Gさんの希望により病院を受診。それをきっかけに医薬品の栄養剤が処方されました。その栄養剤を冷やすとしっかり味が感じられるようで、Gさんもおいしく摂取できている様子です。また、ほぼ同時期にご家族の同時期にご家族の面会も増えたためか、以前よりも食事摂取量が増加。摂取栄養量のほとんどが栄養剤によるものでしたが、十分な栄養量を確保できたことで体調が安定したのか、気持ちも前向きになったように感じています。現在は「外食したい」との希望があり、外出レクリエーションの企画を進めています。

食欲が減退する終末期に管理栄養士ができること

このがん終末期である2人のご利用者に対する栄養ケアにおいて、特別なことは行っていません。ご利用者の話を聞き、こまめに訪問し、提供内容の調整を行う、というサイクルで対応しています。
両名とも一時、食事摂取量の減少があり現在は栄養摂取量が上昇しましたが、それは栄養ケアの効果というより人とのかかわりが増えて明るい気持ちになれたことが、直接的なきっかけだったのではないかと考えています。

がんは高齢になればなるほど発症しやすくなります。ご利用者の体調不良の原因追求のなかで、がんの疑いとなる方もいらっしゃいます。しかし、超高齢であることや認知症の影響で精密検査が困難またはハイリスクと思われるご利用者は、ご家族の同意のもと確定診断に至らないまま施設での生活を継続するケースも少なくありません。そのような場合、食事の状況や症状などを考慮しゆっくり看取りケアの準備に入っていきます。
がんの終末期と聞くと、緩和ケアが思い浮かびます。さまざまな苦痛を減らし穏やかに過ごしていただくことは、特養の看取りケアと似ていると感じています。

ある日、Gさんのお部屋に訪問するといつもよりたくさんのお話を聞くことができました。ご家族が「ご飯を食べられるようになったら家に帰ろう」と言ってくれたこと、ソフトクリームが好きなこと、冷やした栄養剤が今一番おいしいと感じるものであること……。食を中心としてたくさんお話をしてくださったあと、「こうやって、話し相手になってくれることが一番うれしい」と言ってくださいました。
その言葉から、Gさんの気持ちの根底には寂しさがあり、誰かとかかわっていたいのだろうと感じました。ほかの職種ともGさんのお話を共有し、看取りケアカンファレンスで今後のかかわり方の再検討を行いました。

これまでの看取りケアでも同じようにご利用者にかかわってきました。徐々に食べられなくなるなかで、管理栄養士が看取りケアに携わる意義は何だろうと考えることも多くありました。食事を通してご利用者とのかかわりが密接になり、それが“寄り添う”ことにつながっているのだなと再認識しました。(『ヘルスケア・レストラン』2023年8月号)

横山奈津代
特別養護老人ホーム ブナの里
よこやま・なつよ
1999年、北里大学保健衛生専門学校臨床栄養科を卒業。その後、長野市民病院臨床栄養研修生として宮澤靖先生に師事。2000年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院に入職。同院の栄養サポートチームの設立と同時にチームへ参画。管理栄養士免許取得。08年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院を退職し、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里開設準備室へ入職。09年、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里へ入職し、現在に至る

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