アドビ、NAB Show 2024レポート。注目の動画生成AI発表やFrame.ioの新バージョンなどを展示

毎年ラスベガス・コンベンションセンターで開催されるNAB Showは、NAB(National Association of Broadcasters /全米放送事業者協会)が主催する世界最大の放送機器展覧会である。AdobeもPremiere Pro・After Effectsなどの映像制作ツールの発表・展示の場として毎年参加している。今年は4月14日~17日の4日間で開催された。

2024年4月14日~17日、ラスベガス・コンベンションセンターで開催されたNAB Show

今回は大きく3つの会場(WEST HALL・CENTRAL HALL・SOUTH HALL)に分けられており、映像ソフトウェア系はSOUTH HALLに集中していた。Adobeのブースもその中にあり、初日から多くの人で賑わいを見せた。

映像ソフトウェア系が集まるSOUTH HALL
大いなる盛り上がりを見せたAdobeブース

Adobeブースは開発エンジニアが直接解説

従来はセミナー形式(登壇者+巨大モニター、それを見る来場者)がメインのブースであったが、今年はいくつものポッドを設けAdobeスタッフと来場者の距離がより近く、コミュニケーションが取りやすい形が採用されていた。

来場者とのコミュニケーションを重視したポッド形式の展示ブース

しかも、各ポッドに立つスタッフは、実際にその製品の開発に携わった本物のエンジニアであった。マニュアル通りの説明ではなく、ユーザーの深い質問にも熱量を持って丁寧に対応する徹底ぶりであった。メインとなる三角柱状の大きな3面ポッドでは、それぞれ「Premiere Pro」「Frame.io」「AI for Video Editing」の3つが展開されていた。

「Premiere Pro」のポッド

その中でもひときわ目を惹いたのは「AI for Video Editing」ポッドで紹介されていた「動画生成AI」である。NAB Show2日目(4月15日)の早朝に突如発表され、会場でも話題沸騰であった。

「動画生成AI」3つの柱、「生成拡張」「オブジェクトの追加と削除」「Bロールの生成」。

OpenAIのSora、RunwayML、Pikaなどサードパーティ生成AIツールやモデルをPremiere Proの中で使用できるという驚きの発表であった。

今までの生成AI機能は基本的には静止画分野であったのに対し、いきなりビデオ分野での生成AIが発表され、機能面でもインパクトの大きなものばかりであった。それらのプロモーション動画がディスプレイに流れると、人々の足が止まり、あっという間に大きな人だかりに。

発表では年内(2024年)搭載予定なので、現状ではまだ触れないが、明らかに新しい未来の編集フローがそこまで来ているのを感じさせられた。

Adobe Premiere Proのビデオ編集ワークフローへの動画生成AIの導入についての詳細はこちら

「動画生成AI」を紹介する「AI for Video Editing」ポッド

「Premiere Pro」ポッドでは、ユーザーのリクエストをきっかけとした、ここ数年で導入された10の新機能が紹介されていた。もちろん、知っている機能ではあったが、担当したエンジニアが直接解説してくれたので、機能ひとつひとつに親近感が湧いた。

さらに機能別に個別のポッドが用意されており、特に印象深かったのは「スタイルブラウザー」を紹介するポッドである。これは以前からリクエストしていた機能であり、それを手がけたエンジニアが目の前にいて感動した。直接会って話を聞けることが、まさにNAB Showの醍醐味である。

機能はアップデートによって追加されるものであるが、その背景には、一人ひとりのエンジニアが試行錯誤し、思いとプライドをかけて作り上げたものがあることに改めて気付かされた。

エンジニアの機能に対する想いをこの距離感で聞ける、ユーザーにとっては嬉しい展示スタイル

「Frame.io」ポッドでは、従来から大きくリニューアルされたV4(Beta版)の新機能・インターフェイスが紹介されていた。

まだPremiere ProのパネルはV4に未対応のため、Premiere Proから直接アクセスできないが、Creative Cloudで使用しているアカウントとは別のアカウントでFrame.ioにログインするでWebブラウザ上でV4を使用できるようである。

「Frame.io」はさらに専用の別コーナーも設けられており、撮影機材との連携「Camera to Cloud」も体験できるようになっていた。

中でもインパクトが強かったのが、LUMIXシリーズのDC-S5M2/S5M2Xがファームウェアアップデートにより、「撮影素材をカメラ本体からFrame.ioサーバーへ直接アップロード」が可能になったことだ。(要Wi-Fi)。これにより、特別なアダプターなしで「Camera to Cloud」が実現できる。メニュー画面に「Frame.io」の文字が表示されるのを見て、思わず「おお!」と唸ってしまった。

今までカメラ本体からの直接アップロードができるのは富士フイルムのX-2SやREDなど限られた現場でしか見受けられないレアなシステム、というのが「Camera to Cloud」発表当時の印象であった。

それがここにきて、よりユーザーにとって手の届きやすい環境に広がりを見せている。Frame.ioコーナーの人だかりにはエディターだけでなく、ビデオグラファーやカメラマンなど幅広い職種の人がいて活気に満ちあふれていた。

リニューアルされたV4(Beta版)の展示で盛り上がりを見せた「Frame.io」のポッド
LUMIXシリーズのDC-S5M2/S5M2Xのメニュー画面。撮影素材をカメラ本体からFrame.ioサーバーへ直接アップロードが可能に

その他にも、「After Effects」はもちろん、音のプロフェッショナルツール「Audition」や、3Dマテリアル作成に特化したツール「Substance」など、多種多様な映像制作のノウハウが詰まったポッドがあるのが印象的であった。

日本からも放送局や編集プロダクションなどの人々が多く来場し、Adobe日本人スタッフによるツアーも大変な盛り上がりを見せていた。新しい分野のコンテンツ・ワークフローを、Adobe開発者から直接話を聞けることで安心感と納得感が強く得られ、とても有意義な時間であった。

「Audition」のポッド
Adobe日本人スタッフによるツアーの様子

リモート環境における編集ワークフロー

会場にはAdobe以外にもたくさんのブースがあり、その中でも興味深かったのが「LucidLink(ルシッドリンク)」である。

クラウドストレージ上に置いているデータを、あたかもローカルストレージのように、ほとんどタイムラグなく共有・アクセス・操作できるサービス。オリジナルファイルは常にクラウド上に置いたままなので、遠隔地にいるメンバーとのコラボレーションに力を発揮する。

「LucidLink」のブース

クラウド上のメディアファイルをストリーミングで再生し、あたかもそこにメディアがあるかのようにスムーズに編集作業が可能。ネットワークの帯域が乏しい場合や、重いメディアファイルを扱う時は、「Pin機能」でローカルにproxy(キャッシュファイル)を簡単に生成できる。

proxyの管理も、Premiere Pro&After Effectsで使用できる専用パネル(2024年1月~)があるので、ひと目で現状把握が可能。proxyデータがいっぱいの時は古いデータから削除されていく仕様になっているのもありがたいシステム。

日本のお好み焼きが大好きなLucidLinkのCEOピーター・トンプソン氏も「1回設定したら、もう忘れて欲しい」と笑顔で言うくらい、ローカルとクラウドの差を認識せずに編集に集中できる優れものである。

リアルタイム性が強みのクラウドストレージサービス「LucidLink」
LucidLink CEO ピーター・トンプソン氏

プラグイン系のブースも続々

Adobeブースのすぐ隣に出展していたのがプラグイン「Beauty Box Video」を扱う「Digital Anarchy」。Premiere ProやAfter Effectsで肌修正を行う時の強い味方「Beauty Box Video」は、肌の色を認識し、シワやシミを自動除去し、美しい肌にしてくれる。

映像業界では御用達のプラグインだが、今回さらに特殊な機能が追加されていた。人物の"口"を認識しトラッキングすることで、口の中の"歯"のみをマスキングし、より白い綺麗な歯にしてくれる機能。元々便利で使いやすいプラグインだが、それがさらにパワーアップしていたので驚きである。

「Digital Anarchy」のブース
「Beauty Box Video」に人物の口を認識・トラッキングし、歯だけをマスキングして白く美しくする機能が追加された

また、「Trapcode」や「Magic Bullet」など有名ヴィジュアルエフェクトの老舗「MAXON」のブースでは「Red Giant Universe」プラグインを展示。

オールラウンドに使える数多くのエフェクト・トランジション・ジェネレーターなどがセットになったプラグインである。こういったヴィジュアルエフェクトのコンプリート系プラグインは他にも何種類かあるが、その中でもコストパフォーマンスに優れているのが「Red Giant Universe」である。しかも、Premiere Proのエディター向けに特化して開発されているので、Premiere Proとの相性は抜群である。

専用のダッシュボードパネルではサムネイルで各エフェクトのイメージを確認できる上に、それぞれのエフェクトにプリセットが用意されているので、同じエフェクトを使う上でもバリエーション多彩な演出が、簡単に実現可能な仕様になっていた。

「MAXON」のブース
Premiere Proとの相性が良いコンプリート系プラグイン「Red Giant Universe」

日本の映像メーカーも奮闘

NAB Show 開催中、2日連続現地からYouTube生配信をおこなったのだが、2日目のブースの練り歩きでお邪魔したのが日本のモニターメーカーの「EIZO」である。

新発売のリファレンスモニター(マスターモニター)「ColorEdge PROMINENCE CG1」を展示。生配信の映像では伝えきれなかったかもしれないが、黒を黒、白を白とはっきり表現された、美しいリファレンスモニターであった。DCI-4K・HDR、高輝度・高コントラスト比の最新鋭のモデルだが、なんといっても注目は、最新の映像伝送規格SMPTE ST 2110(以下、「ST2110」)に対応していることである。

これまで映像機器との接続方法としては、HDMIやSDIなどが主流でしたが、昨今はIP伝送のST2110が注目を集めている。昨年までもIP伝送の情報はいろいろあったが、実用的に使用されるケースは少なく感じた。しかし、今年はこのST2110が注目を浴び、他業種のブースでも多く見受けられた。今後、IP伝送の方向に舵が切られるのは間違いなさそうである。

生配信の様子はこちら。

AdobeがNAB SHOW 2024にやってきた!!LIVE配信1日目@ラスベガス

AdobeがNAB SHOW 2024にやってきた!!LIVE配信2日目@ラスベガス

まとめ

今年のNAB Showでは既存の壁を打ち破る様々なソリューションが続々と登場しているのを感じた。インターネット接続の高速化が進む昨今、クラウドやIP伝送をワークフローに取り込むのはある意味必然の流れと言えるだろう。

これからの編集は「ローカル」から「クラウド」に、そしてそれがさらにスタンダードなフローとして広がりを見せていくのだろうと感じさせられた。さらなるAIの技術革新とともに、今後の映像制作が楽しみになるとても貴重な体験であった。

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