ハマス指導者をよく知るイスラエル人医師、「彼はパレスチナ人10万人の犠牲も気にしない」

ハマス指導者を救う診断を下したビトン氏(左)とハマスの攻撃で殺害された甥のアダル氏/Yuval Bitton

(CNN) イスラム組織ハマスのパレスチナ自治区ガザ地区の指導者全員を知っているという医師のユバル・ビトン氏は1996年、歯科医として勤務していたイスラエルの刑務所で当時ハマス戦闘員だった最高指導者ヤヒヤ・シンワル氏と出会った。

シンワル氏は、ビトン氏について脳腫瘍(しゅよう)の診断を受けるきっかけを作り、命を救ってくれたと語っている。

ビトン氏は何百時間もシンワル氏と会話したことで、ハマス最高指導者の心中を知るという貴重な機会を得たと語る。

しかしビトン氏の甥(おい)は、昨年10月7日にハマスの戦闘員によって自宅を襲撃され、殺害された。同氏はこの殺害の責任はシンワル氏にあるとしている。

シンワル氏は2017年、ガザ地区のハマス指導者に任命された。1962年にガザ南部のハン・ユニス難民キャンプで生まれ、80年代後半にハマスに加わった。89年にイスラエル兵2人を拉致・殺害した罪で4回分の終身刑をイスラエルで言い渡されている。

シンワル氏は2011年、受刑者の交換により釈放され、ガザに戻り、ハマスで頭角を現した。

後にイスラエルの諜報(ちょうほう)機関に加わることになるビトン氏は、シンワル氏が刑務所にいる間に「何百時間も」会話し、同氏のことをよく知るようになった。

ビトン氏によると、シンワル氏はユダヤ人には「イスラムの土地」に居場所はないと考えている。

そのため、ビトン氏はハマスがイスラエル人に対抗し、イスラエル人を追い出そうとするのは時間とタイミングの問題とみていた。

シンワル氏の考え方について尋ねられたビトン氏は、シンワル氏は主に権力の座にとどまることに関心があると語る。

ビトン氏は、シンワル氏が「自分の統治の存続を確保するためなら、10万人のパレスチナ人を犠牲にすることもいとわない」とみている。

「彼は、過激派、ハマスのメンバー、民間人の命を引き換えにしても構わない。気にしないのだ」

ビトン氏は、イスラエルがハマスの統治に代わる手段を作らなかったのは間違いだったと考えている。そうしていれば、シンワル氏の権力を弱体化させられる可能性があった。

ビトン氏は、シンワル氏は依然として「自分が強力な立場にいると感じている」と語る。

「彼はガザ地区内で活動しながら交渉を進めており、イスラエル国防軍(IDF)が撤退した地域を依然として支配している。人道支援も支配しているため、強気で、IDFがガザ地区から撤退して戦闘が終結しない限り、人質解放の合意には署名しないだろう」

シンワル氏は獄中で20年以上もの間、敵を研究し、ヘブライ語も学んだ。

ビトン氏はイスラエルもこれを教訓にすべきだったと語る。イスラエル政府と諜報機関は「ハマスについて十分に知らず、学んでいなかった」。

「ハマスに対する我々の態度は傲慢(ごうまん)だった。我々はハマスを無視した。ハマスはやろうとしていることをすべて発言したにもかかわらず、我々は耳を傾けようとしなかった」

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