「家を出る息子の笑顔が忘れられない」それが最後に見た元気な姿だった “替え玉保険金殺人” の裁判で明かされた母親の思い

広島県廿日市市のホテルで男子大学生に注射器でアルコールを摂取させ殺害した罪などに問われている男の裁判員裁判。検察側は動機について、「保険金を得るために替え玉だった」などと指摘しています。21日に広島地裁で開かれた公判では、亡くなった大学生の母親の後悔と悲痛な思いが読みあげられました。

殺人の罪などに問われているのは、広島市西区の職業訓練生・南波大祐 被告(33)です。

起訴状などによりますと、南波被告は愛知県の大学生・安藤魁人 さん(当時21)に4種類の睡眠導入剤をひそかに混入させるなどした飲食物を摂取させ、廿日市市のホテルに連れ込み、注射器でアルコールを摂取させて意識障害を生じさせ、吐しゃ物の誤嚥による窒息で殺害したとされています。

南波被告は、起訴内容について「すべて黙秘いたします」としています。

検察側は冒頭陳述で、「南波被告は加入していた生命保険を上乗せし、自身に多額の生命保険を掛け、その受取人を弟にしていた」と指摘。その上で、「替え玉、つまり ”ニセモノ” の南波大祐を仕立て上げて殺すことにした。替え玉として安藤さんに睡眠導入剤を飲ませた上で、廿日市市内のホテルでアルコールを注入した」などと主張しています。

一方、弁護側は、南波被告がひそかに安藤さんに睡眠導入剤を摂取させたことなどは認めつつ、被告による殺人が立証できるのかなどを争う姿勢を見せました。

被害者の母「息子から『そんなこと言ってはダメだ』と言われるかもしれないが…」

21日の公判で検察側は、被害者の安藤さんの母親の供述調書を読み上げました。

安藤さんの母親(2022年3月6日の供述調書によると)
「魁人が亡くなってから数ヶ月が経ちましたが、未だに気持ちの整理ができていません。これからもできるかわかりません。魁人はあんなに元気だったのに、こんな結果になり、いま現在も心に穴が開いたようです」

「魁人は誰にでも優しい子で、何より私たち家族を第一に思うほど、家族が大好きな子でした。そんな魁人が戻ってこない思うと、私はあの時、広島に行くのをやめさせておけばという後悔の気持ちでいっぱいです」

南波被告と安藤さんは21年2月、愛知県で出会いました。安藤さんが熱心に活動していた団体の勧誘で、南波被告に声をかけたことがきっかけでした。

安藤さんの母親(2022年3月6日の供述調書によると)
「南波さんが団体に入ったことも、本当に嬉しかったと思います。その気持ちを裏切ったと思うと、とても悔しい気持ちです。今も普通に暮らしている犯人を私は絶対に許しませんし、今後も許すことはできません」

この日の公判で検察側は、もう一つの母親の供述調書も読み上げました。

安藤さんの母親(2022年8月17日の供述調書によると)
「事件のことを聞きました。なぜ魁人がこんな目に遭わなければいけなかったのか。魁人は、犯人と会うのを本当に楽しみにしていました。家を出るときの魁人の笑顔が忘れられません」

「魁人の気持ちを踏みにじった犯人を許すことはできません。魁人は何も悪いことをしていないし、考えるほど犯人に腹がたちます」

そして、こう話したといいます。

安藤さんの母親(2022年8月17日の供述調書によると)
「魁人は優しい子だから『そんなことを言ったらダメだ』と注意されるかもしれません。でも、言わせてください。

『犯人を殺してやりたい。同じ苦しみを味わわせてやりたい』

こんなことを考えていては、魁人は喜びません。本当の気持ちを胸に秘め、今は真実を明らかにして欲しいです。犯人は正直に話し、自分の罪を償って欲しいです」

公判は25日に論告求刑と最終弁論があり、来月2日に判決が言い渡される予定です。

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