日本の砂浜が消失危機 “茨城のゴールドコースト”は海水浴場を閉鎖…台風時には甚大な被害も? 専門家が解説

美しい砂浜が約1キロに渡り広がり、毎年2万人以上の海水浴客が訪れる茨城県の大竹海岸鉾田海水浴場が、海開きを断念することになった。遠浅の地形でサーフィンにも適していることから“茨城のゴールドコースト”と呼ばれる人気の海水浴場だが、近年、砂浜の消失に悩まされてきた。

異変の原因は何なのか。海岸工学が専門の茨城大学 横木裕宗教授に聞いた。

日本全国で相次ぐ海岸浸食

ーー大竹海岸鉾田海水浴場の砂浜はなぜ消失?

鹿島灘に面している大竹海岸の砂浜は、利根川の河口から出た砂と大洗町の北側を流れる那珂川の河口から出た砂が流れ着いて維持されてきました。そのため、川から流れ出る土砂が減ると自然に砂浜も減っていきます。

日本は洪水対策でダムをたくさん作って流量を調節してきました。それによって中流や下流にある民家は安全に住めるようになりましたが、同時に河口から流れる土砂の量が減り、大竹海岸に限らず日本全国の海岸や砂浜で海岸浸食が起きている状態です。

ーー河口から出てくる砂の減少だけが原因?

大竹海岸の場合はもう1つ要因があり、鹿島港を作ったことで、港の南側から北側にかけて従来流れていた砂が止められてしまいました。そのため鹿島港の北側から大洗港の南側までの海岸にはもう砂が供給されない状態になっています。

これまで大竹海岸にあった砂も波の力でゆっくりと北側にかけて移動しているので、昔から少しずつ浸食傾向にあった大竹海岸はいよいよ砂浜が消失してしまったと考えられます。

大波が家や道路を直撃も

川が運んでくる土砂の減少や近年の沿岸開発が砂浜の消失を招いているというが、こうした問題は海水浴場への影響だけでなく、甚大な災害を引き起こす危険性があると横木教授は指摘する。

ーー砂浜が減ることの影響は?

砂浜には「波の力を弱める」効果があります。海岸は砂浜にかけて徐々に浅くなってくるので、波はゆっくりと砕けてきて、浜に到達する頃には小さな波になって安全に水遊びができる状態になります。

これが砂浜がなくなって海底の勾配が急になると、高い波がそのまま陸に押し寄せてきて、一気に砕けることになります。大竹海岸ではすでに護岸ブロックがむき出しの状態になっていますが、低気圧が通ったり、風が強い日に大きな波が海岸に打ち寄せた場合は、そのブロックに波が直接あたって家や道路に水しぶきが飛び散る危険性があります。

ーー台風では大きな被害?

台風が来ても砂浜の幅が広ければ沖の方で波が砕けてくれますが、砂浜がほとんどないと家や道路の近くまで勢いを保ったまま波が打ち寄せることになります。被害を防ぐためには護岸壁や堤防を作る必要が出てきます。

堆積している砂を人工的に移動

こうした中、砂浜を維持するためには、砂が堆積している海岸から定期的に砂を移動して供給するしか方法はないという。

ーー砂浜を維持する対策は?

新たに砂を調達するのは大変なので、流れついた先で堆積している砂を戻す方法です。例えば、大洗サンビーチにはかなりの砂が堆積しているので、そこから少し戻すなど砂の自然なサイクルを人工的に少し手助けして砂の量を維持する必要があります。

根本的な原因であるダムや港は引き続き必要なので取り壊すことはできません。砂が堆積している海岸から砂を必要としている砂浜に定期的に供給することが有効な対策になります。

ーー砂が出ていかないようにする対策は?

ヘッドランド(海岸侵食を防ぐために造られる人工的な岬のようなもの)を作っている海岸は、砂が浜とヘッドランドの間を行ったり来たりする目的で設置しています。出来た当初は非常に効果があって砂の量は維持されていましたが、30年も経つとやはり段々とヘッドランドの沖から砂が漏れていき砂浜が少しずつ浸食されてきました。

そうした意味で一時的には効果がありますが、完全に砂の流れを止めることはできないので、やはり砂を供給する作業が必要になります。

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