“ヱビス”なのに副原料使用!?ヱビスブルワリー醸造責任者が明かす新作ビールと新規開業「ヱビスブルワリートウキョウ」での挑戦とは

By GetNavi web編集部

2024年は「ヱビスビール」に再び注目。4月3日に開業した「YEBISU BREWERY TOKYO(ヱビス ブルワリー トウキョウ)」の来場者数は、開業1か月を待たずに3万5000人を突破し、工場限定ビールのほか、ヱビスブランドの新ライン「CREATIVE BREW(クリエイティブブリュー)」にも新作が続々登場しています。

そこで、ブルワリーの醸造責任者兼、CREATIVE BREWの開発リーダーでもある有友亮太さんにインタビュー。各施策の特徴を解説するとともに、ヱビスブランドの戦略についてうかがいました。

↑有友亮太さん。YEBISU BREWERY TOKYO内の、“会える” MASTER BREWER’S ROOM(マスターブリュワーズルーム)にて。

まずは「ヱビスビール」の成り立ちをおさらい

「ヱビスビール」が誕生したのは1890(明治23)年。1887年に日本麦酒醸造会社(現、サッポロビール)が設立し、1889年に現在の恵比寿(住所は目黒区三田)に醸造場が完成。翌年2月に、ドイツ人醸造技師による本格的なドイツビールとして発売された「恵比寿ビール」がルーツです。

↑「恵比寿ビール」。1900(明治33)年のパリ万国博覧会では、30か国以上から出品されたビールのなかで金賞を獲得した。

やがて1901(明治34)年になると、大量のビールを出荷する専用の貨物駅「恵比寿停車場」が開設され、1906(明治39)年には恵比寿駅へと発展。その後1988(昭和63)年、工場は千葉へ移転することになり、跡地は1994年に現「恵比寿ガーデンプレイス」となりました。

そして移転から約35年の時を経て、恵比寿で再び醸造を開始することになったのが、新設された施設を備えたYEBISU BREWERY TOKYOです。

ここでしか飲めないビールが味わえる“ブルワリウム”

↑YEBISU BREWERY TOKYOがオープンしたのは、かつて「恵比寿ガーデンプレイス」内にあり、2022年に閉館した「ヱビスビール記念館」の跡地。

同館は入場無料。ゆとりのある天井高の空間に設計された開放的な施設となっており、ヱビスビールの歴史を展示したスペースや醸造設備を見学できるコーナーなど、見て回るだけでも楽しいコンテンツが充実しています。

↑歴史や過去の商品などが展示された「ミュージアムエリア」。隣には、ブランドのルーツを伝える写真や広告を展示した「ジャーニーラウンジ」も。

ビール好きなら、ブルワリー限定ビールを飲める「タップルーム」はぜひ立ち寄りたいところ。なかには期間や数量限定のヱビスビールもあり、訪れるたびに新鮮な出合いがあります。また、2024年5月15日からはガイド付きの有料ツアー「YEBISU the JOURNEY(ヱビス ザ ジャーニー)」もスタートし、いっそうにぎわうこと必至です。

↑写真左奥に見えるのが、リアルな醸造設備が配されたブルワリーエリア。右側はタップルームとなり、写ってはいないものの手前側にはギフトショップも。

ビールは、ここでしか飲めないヱビスビールが常時6種程度提供され、1杯1100円から。飲み比べるなら、4種セットの「ビアフライト」(1800円/各220ml)がオススメです。また、フィンガーフードを中心に数量限定のソーセージやスイーツといった一皿まで、軽食も400円からラインナップ。

↑「ビアフライト」。4種類のビールを少しずつ味わえるのが嬉しい。

ヱビスブランドから新ラインを立ち上げた狙いは?

一方、CREATIVE BREWは、2023年にヱビスの新ラインとして立ち上がったブランド。「つくろう、驚きを、何度でも。」を合言葉に、これまでのビールの概念にとらわれない新たなビールのおいしさや楽しさに挑戦していくヱビスです。

↑CREATIVE BREWは基本的に期間限定発売。左端がブランド第1弾の「ヱビス ニューオリジン」で、1890年のヱビスビール発売当時に使用されていたとされる、ドイツ産ホップ「テトナンガー」に着目していることが特徴のひとつ。

より具体的に、通常の「ヱビスビール」との違いを挙げるなら、自由な発想で醸造すること。例えば、「ヱビスビール」はドイツのビール純粋令にならって麦芽とホップと水(と酵母)を原材料に造りますが、CREATIVE BREWシリーズではときに副原料も使用。

↑CREATIVE BREWの第4弾は、2024年夏季新作の「ヱビス ジューシーエール」。フルーツを用いた高級菓子から着想を得て、ブランドで初めて果汁が使用されている。(参考小売価格258円/税抜)

こうして、個性が光る味わいを生み出しているわけですが、歴史も長いヱビスブランドから新ラインを立ち上げた狙いはどこにあるのでしょうか? 有友さんは「ヱビスだからこそお届けできる価値があると考えています」と話します。

↑有友さんは、2012年サッポロビール入社。北海道工場でビール醸造を担当後、酒類技術研究所で酵母の研究に取り組む。2017年にドイツへ留学し、Brewmaster(ブリューマスター)の資格を取得。帰国後は新商品開発や研究を行い、今春からはYEBISU BREWERY TOKYOの醸造責任者も兼任。

「ヱビスには130年以上の歴史がありますが、『日本でビールを作るんだ』という立ち上げ当初のベンチャーマインドあふれていたからこそ、成長し続けてこれたのかなと思います。例えば、日本初のビアホールだったり、当時日本では珍しかった黒ビールの発売だったり、挑戦の連続だったと思うんです」(有友さん)

そういえば、今年のリニューアルで掲げられたヱビスビールの合言葉は「ヱビスは何度でも完成する。」このメッセージにも挑戦心を感じます。

↑ヱビスの広告に登場している、ブランドアンバサダーの山田裕貴さん。YEBISU BREWERY TOKYO グランドオープン記念イベントにて。

「近年でも、プレミアムビールという市場提案など、ビールにおける新たな価値を発信してきた自負があります。そんな、ヱビスがもつ革新性を、伝統を踏まえたうえで知っていただけたら。ヱビスの歴史を現代に紡ぐ、創造的なブランドをつくれたら。そんな願いからCREATIVE BREWは生まれました」(有友さん)

↑「ヱビスビール」は1980年代のリブランディングで「Premium」の文字を缶にデザイン。また、「ヱビス、ちょっと贅沢なビール♪」のキャッチコピーで提案するなど、日本におけるプレミアムビールの先駆けでもある。

「クリエイティブブリュー」が目指すもの

CREATIVE BREWでは醸造における自由度が高くなりますが、そのなかにおいても「やらないこと」はあるのでしょうか。判断基準は「お客様にとって価値につながるか否か」。この考え方はYEBISU BREWERY TOKYOのビール造りにも共通しているとか。

「どれだけユニークでも、期待から外れたようなビールだったら裏切りになってしまいますよね。結果として、革新的な味だけど軽すぎるとか、個性が強すぎて飲み切れないとか、そういった味の印象につながる造り方はないかなと思っています」

↑YEBISU BREWERY TOKYOの期間限定ビールのひとつ「Foggy ale(フォギーエール)2024」。クラフトビールで昨今大人気のヘイジーIPAを彷彿とさせるトロピカルな香りながら、ほどよくクリアで苦味もマイルド。

「一方で、『テトナンガー』だったり、第2弾の『ヱビス オランジェ』で採用したホップの分割添加だったりと、古典的な製法を振り返るようなアイデアは、ビールの面白さの再発見につながると考えており、今後も積極的にトライしていきたいですね」(有友さん)

ときにアートや音楽、料理といったクリエイティブを新しいビールレシピのヒントにすると話す有友さん。また、四季で変わるビールの感じ方も意識しており、季節に合ったスタイルを提案したいとも。ということは、夏のビアスタイルとして有名な「セゾン」や、濃厚で高アルコールの冬向けスタイル「ボック」などが今後登場する可能性も?

↑マスターブリュワーズルームには、有友さんのブリューマスターディプロマ(資格証明書)のほか、お気に入りのアートなども飾ってある。

「十分ありうると思いますね。ただし名称を含め、ビアスタイルとは違った方向性で提案したいと考えています。あえて枠組みから離れることで、これからのビアスタイルになるような、多彩で独創的なビールをお届けできたらと思います」(有友さん)

有友さんが言うビアスタイルとはある種、枠組みとしてのクラフトビールとも近しい観点。つまり、CREATIVE BREWをクラフトビールとは表現はしないということ。

「130年以上の知見があるヱビスならではの、上質で豊かなおいしさで、ビール自体の価値を高めていきたいと考えています」(有友さん)

有友さん自身はクラフトビールのカルチャーやブルワーにリスペクトを抱きつつ、ヱビスとしてのクラフトマンシップを持ち、独自の個性あふれるビールを造りたいと話します。

↑ここには銅製の仕込み設備が鎮座。ドイツ製で、年間130キロリットルのビールを製造できるとか

「YEBISU BREWERY TOKYOは小規模な醸造設備ですし、やっていること、目指す先は同じかもしれません。いずれにせよ、日本のビールをもっと面白くしたい、シーンを盛り上げたいと思う志は変わりませんし、クラフトビールをはじめとする多様性あふれるお酒の浸透によって、お客様の嗜好性も広がっています。そのなかで、私たちはヱビスの可能性をさらに追求し、より魅力的なビールを提案できるよう、これからも挑戦していきます。ご期待ください!」(有友さん)

↑手にしているビールは、第3弾の「ヱビス シトラスブラン」。ホップとレモングラスによる、清涼感あふれる上質な味わいに仕上げられている。(参考小売価格258円/税抜)

YEBISU BREWERY TOKYOが開業したことで、より多くの声を商品開発に生かせるようになったと微笑む有友さん。限定ビールは今後も続々発売されるので、ブルワリーにもCREATIVE BREWにも、いっそう注目です。

「YEBISU BREWERY TOKYO」住所:東京都渋谷区恵比寿4-20-1 恵比寿ガーデンプレイス内
営業時間:平日12:00~20:00、土日祝11:00~19:00
定休日:火曜(祝日の場合は翌日)、年末年始
https://www.sapporobeer.jp/yebisu/communication/yebisu-brewery-tokyo/

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