鹿児島県警情報漏えい 本部長が会見、隠蔽疑惑を改めて否定 「被告の退職後から捜査指揮した」 他方、捜査中断あった事実も 守秘義務違反で起訴の前生活安全部長は保釈

鹿児島県警前生活安全部長が起訴され謝罪する野川明輝本部長=21日午後3時ごろ、鹿児島市の県警本部

 鹿児島地検は21日、職務上知り得た秘密を退職後に漏らしたとして、前鹿児島県警生活安全部長の団体職員の男(60)を国家公務員法(守秘義務)違反の罪で鹿児島地裁に起訴した。被告の「野川明輝本部長が県警職員の犯罪行為を隠蔽(いんぺい)しようとした」との主張に対し、野川本部長は同日の記者会見で改めて否定した上で「客観的事実は裁判で明らかになるだろう。(自身への)疑念はおのずと晴れるのではないか」と述べた。

 漏えいしたとされる情報には、前刑事部長の名誉を害する内容や、事件の公表を望んでいない女性の個人情報が記されており、「公益通報には当たらない」と判断したと説明した。

 「隠蔽」の疑惑が浮上した枕崎署員の盗撮事件について「捜査は適正だった」と強調。昨年12月22日に野川本部長が前首席監察官から「容疑者は署員の可能性がある」と口頭で報告を受けたものの証拠が乏しく、引き続き署で捜査するよう指示したと説明した。この時点で、被告にも情報を共有していた。しかし、野川本部長が指揮を執ったのは被告の退職後の今年5月10日からだったと明らかにした。

 一方で、前首席監察官から前署長に野川本部長の指示内容を共有する中で「捜査は中止」との誤った認識が伝わり、2日ほど捜査が中断した事実も判明。署は今年3月19日に「容疑者浮上報告書」を作成していたが、ただちに野川本部長に捜査指揮を伺っていなかったことも分かった。野川本部長は「早期に容疑者を摘発できた可能性はあり、反省している」と釈明した。

 同事件について、捜査状況のきめ細かな確認や指示がなかったことなどを理由として、野川本部長は6月21日付で警察庁から長官訓戒処分を受けた。前首席監察官も口頭厳重注意を受けた。

 県公安委員会は同日、「野川本部長が隠蔽を指示したと判断する事実は認められない」とする一方、「県警の組織運営に対する懸念が広まっていることは事実であり、早急に払拭するよう要望する」などとコメントした。

 被告が漏らしたとされる文書を巡っては「再審や国賠請求等において、廃棄せずに保管していた捜査書類やその写しが組織的にプラスになることはない」などと書かれた「刑事企画課だより」もあった。県警は会見で警察庁から表現に問題があるなどと指摘を受けたため、内容を修正して再発行したと明らかにした。

 別の情報漏えい容疑事件で、福岡市のウェブメディアに家宅捜索した是非が問われている問題については「報道の自由は尊重した上で、事案の重大性や客観証拠などを踏まえて行った」と強調した。

 鹿児島地裁は21日、職務上知り得た秘密を退職後に漏らしたとして、国家公務員法(守秘義務)違反の罪で起訴された、鹿児島県警前生活安全部長、団体職員の男(60)の保釈を認める決定をした。

 弁護人は、被告が起訴されたことについて「大変残念。主張した県警の隠蔽(いんぺい)行為については公判で真相が解明されることを願っている」とコメントした。

 起訴状などによると、被告は退職後の3月28日ごろ鹿児島市内で、2月14日付で自身の名義で作成された、警察官によるストーカー容疑事件の捜査経過や被害者の氏名などの個人情報が記された文書を基に、作成日と名義などの記載を除いた書面の写しを第三者に郵送し、4月3日ごろ受け取らせ、職務上知り得た秘密を漏らしたとされる。

 鹿児島地検は起訴した理由を「諸般の事情を総合的に考慮して、起訴するに相当な悪質性があると判断した」と説明。別の事件で福岡市のウェブメディアへ家宅捜索したことをきっかけに容疑が浮上したとされる経緯については「捜査内容に違法な点はないと判断している」としている。

記者会見で質問に答える野川明輝本部長(左から3人目)=21日午後3時50分ごろ、鹿児島市の県警本部

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