敵から味方になったキャラ5選 『WIND BREAKER』桜遥×十亀条のタイマンは屈指の名場面に

今期もさまざまなアニメが放送され、物語がいよいよ大詰めを迎える作品も存在する。筆者はいつの時代も主人公の敵、あるいはライバル的立ち位置のキャラに心惹かれてしまうことが多いのだが、春アニメにもそのようなキャラクターが多く存在した。

そこで今回は、春に放送されたアニメから「序盤は主人公と対立していたが、展開を経て和解、または味方になった」キャラクターに焦点を当て、主人公や作品に与えた影響を深掘りしていく。

●『WIND BREAKER』十亀条

第3話で登場し、防風鈴と対峙することになる獅子頭連の副頭取・十亀条。彼は味方に対し、ラムネの瓶を打ち付け制裁を行っていたこともあり、“ヤバい奴”だと感じた視聴者も多いだろう。その光景に対し「ダサい」と言った桜と真っ向から対立。桜と十亀のタイマン勝負では、普段はゆったりした口調な十亀らしからぬ強烈な“怒り”を見せる場面もあった。

しかし、それまでの行いは全て頭取である兎耳山丁子のため。自身の仲間が中学生を追い回していた事実を知り、殴りかかるシーンでは十亀がただの“極悪非道な奴”ではないことが明らかになった瞬間でもあった。さらに戦いの中で桜の信念を聞いた十亀が「オセロ君」から「桜」呼びに変わる場面も屈指の名シーンであり、彼が桜と真っ向に向き合い挑む姿は視聴者の心にも響いたはずだ。

結果的に獅子頭連は防風鈴に敗北したが、“友達”になるということで幕を閉じた。十亀は敵に回すと厄介な人物だったが、第10話では帰宅する桜に対し会釈をしたりと本来の人柄の良さも見て取れる。そんな2人のタイマンは、視聴者にとっても記憶に残る戦いになったことだろう。

●『劇場版ブルーロック -EPISODE 凪-』御影玲王

2024年4月に公開された『劇場版ブルーロック -EPISODE 凪-』は、『ブルーロック』をサッカー歴半年の天才・凪誠士郎の視点で描いた作品だ。本作で凪をサッカーの道に誘った張本人でもある御影玲王は、チームVのメンバーとして主人公・潔世一らチームZの面々と激しいバトルを繰り広げた。

特に潔が「サッカーなめんな!」と彼や凪に指をさすシーンは、努力して勝ち上がってきたチームZと、生まれ持った才能を発揮し勝ち続けていたチームVの差を実感させた。チームVの起点として活躍する玲王は、主人公にとって最大の“敵”であるということを象徴していたかのようにも思える。

全体的に器用で交渉術にも長けた彼は味方につけるとかなり心強そうだ。しかし、順風満帆そうな人生を送ってきた彼でも青い監獄(ブルーロック)での生活はなかなかに困難を極めている。彼が今後どこまで勝ち残っていけるのか。主人公の潔だけでなく、個性豊かなサブキャラクターたちにも目を向けていきたい。

●『鬼滅の刃』柱稽古編・冨岡義勇

アニメ第1期「竈門炭治郎 立志編」第1話で鬼になってしまった禰󠄀豆子を殺そうとした冨岡義勇も、まさに序盤では主人公・竈門炭治郎と“対立関係”にあったと言えるのではないだろうか。禰󠄀豆子を庇い「殺さないでほしい」と土下座して懇願する炭治郎に対し「生殺与奪の権を他人に握らせるな!!」と叫ぶシーンはファンなら誰もが知る名言だ。

しかし、彼はただ厳しいだけの人物ではない。後の場面では家族を殺され、唯一の身内が鬼になった炭治郎のことを想う台詞も見られた。さらに胡蝶しのぶの攻撃から炭治郎と禰󠄀豆子を庇う姿や、鱗滝からの手紙の中で自分なりの覚悟を示していたことも明示されている。冨岡は炭治郎と禰󠄀豆子にとって最初の理解者であり、彼がいなければ『鬼滅の刃』という物語自体が始まっていなかっただろう。

現在放送中の『鬼滅の刃』柱稽古編では、彼の隠された過去が明らかになった。第2話では冨岡を尋ねた炭治郎に驚いた顔を見せたり、炭治郎とともに蕎麦の早食い対決をしたりと、クールな表情からは想像できない新たな一面が描かれ、今期で大きく印象が変化した柱の筆頭だろう。

●『転生したらスライムだった件』ミリム・ナーヴァ

「魔王」と聞くと凶悪な顔をした男……といったようなイメージを受けるが、『転生したらスライムだった件』に登場するミリムは、まるで少女のようなあどけなさを感じさせるキャラクターだ。しかしその正体は、主人公であるリムルの10倍以上(第1期時)の強さを持ち合わせた“怪物”。

現在第3期が放送中の本作。アニメ第1期第16話ではリムルに対し挨拶に来ただけという彼女だが、シオンの攻撃をきっかけにバトルが勃発。立場の違いからリムルvsミリムの決戦が始まってしまうのだが「ハチミツ」をきっかけに和解。2人は“マブダチ”となった。

彼女は『ブルーロック』御影玲王とはまた違った意味で味方につけたい人物である。またハチミツを手にしピョンピョンと飛ぶ姿は見てて愛らしく、彼女が魔王だということを忘れてしまいそうだ。

●『響け!ユーフォニアム3』黒江真由

吹奏楽部の「リアル」が見事に描写された『響け!ユーフォニアム』では、第3期から新キャラクター・黒江真由が登場。彼女は主人公・黄前久美子と同じユーフォ吹きの3年生であり、強豪校・清良女子高校から転入してきた少女だ。

黒江は上記で取り上げた4人のように“敵”ではないが、意見の食い違いから久美子とすれ違ってしまう場面が作中では見られた。完全実力主義となった北宇治高校吹奏楽部では、今年度からコンクールメンバーの選抜方法を変更。大会ごとにオーディションを行うことになったが、黒江はこの方針に浮かない顔を見せた。彼女の「私が選ばれて嬉しい人なんて、本当にいるのかな……」という台詞や、第5話で久美子が口にした「さすが清良女子だな」というシーンは、黒江の立ち位置を絶妙に表現していた。

オーディションはわざと下手に吹くことも可能である。しかし黒江は練習さながらの美しい音色を響かせ、その姿に久美子は「気合いが入った」と語っている。黒江の存在は久美子の心を動かし、多大な影響を与えた瞬間だった。

作品における敵やライバルの存在は主人公をより引き立て、輝かせる。また序盤とそれ以降での雰囲気のギャップが楽しめるのも魅力であり、一度に二度美味しいとはこのことなのではないかとも感じる。単なる“敵”ではない彼らの行く末を最後まで見届けていきたい。
(文=渡辺美咲)

© 株式会社blueprint