中野、宗、長岡のゴールデン・グラブ受賞3人がいずれも新型指標UZRで大幅低迷。“守備の名手”に何が起きているのか<SLUGGER>

打撃に好不調の波があることは野球ファンであれば誰もが知っている。だが、守備にも好不調があることを知る人は少ないのではないだろうか。データ分析の観点で見ると、実は守備は打撃以上にコンディション不良の影響を受けやすく、知らず知らずのうちにパフォーマンスを落としていることも少なくない。今回は、ゴールデン・グラブ賞の受賞経験があるにもかかわらず、今季守備指標を大きく落としている選手を3人紹介する。

分析には守備指標UZR(Ultimate Zone Rating)を用いる。UZRとは。その選手が同ポジションの平均的な選手に比べて何点失点を減らしたか(増やしたか)を表したもの。UZRが3.0であれば、同ポジションを守った平均的な選手に比べ失点を3点減らしたことを意味する。

まず注目したいのが中野拓夢(阪神)だ。昨季は開幕前に遊撃から二塁にコンバートされ、ゴールデン・グラブ賞を獲得した。ただ、昨季の中野のUZRを見ると平均程度の1.7。データで見ると、飛び抜けて優れているというわけでもなかったようだ。

それでも平均以上の守備力を見せていた中野だが、今季はそこから大きく成績を落としている。交流戦6月16日終了時点のUZRは-3.9。これは12球団の二塁手(300イニング以上)の中で最も低い値だ。内訳を見ると、特に悪いのが守備範囲評価。平均的な二塁手に比べて守備範囲の狭さで失点を4.2点も増やしてしまっている。

▼2024年中野拓夢UZRの内訳
守備範囲 -4.2
併殺完成 -0.8
失策抑止 1.0 では、具体的に中野の守備範囲はどのように狭くなっているのだろうか。以下はその守備範囲評価を打球方向別(二遊間、定位置周辺、一二塁間)に見たものだ。

◎中野の打球方向別守備範囲評価(二塁)
年度 二遊間 定位置周辺 一二塁間
2023 -0.7 0.3 0.6
2024 -2.0 1.0 -3.2

表を見ると、昨季と共通しているのは定位置周辺への強さ(昨季が0.3点、今季が1.0点)。今季はシーズン半分にも満たない現時点で昨季を上回っており、良いペースで失点を防いでいる様子がわかる。

にもかかわらず、昨季よりUZRが悪いのは定位置から離れた打球をアウトにできていないためだ。二遊間の打球で昨季の-0.7から-2.0、一二塁間で0.6→-3.2と悪化。特に一二塁間の打球で多く失点を増やしてしまっているようだ。

「異次元の守備範囲」とも評される中野の守備だが、データで見ると、意外にも定位置から離れた打球をアウトにできていないようだ。昨季に比べるとコンディションが悪化している可能性も考えられる。

次に注目したいのは宗佑磨(オリックス)だ。過去3年でゴールデン・グラブを受賞している宗に対して、「高い身体能力を活かして華麗な好守を連発する名手」という印象を持つファンは多いだろう。

だが、データで見ると、ここ数年の宗はそれほど守備が優れているわけではない。2021年こそUZR11.6とリーグ上位の守備力を発揮していたが、2022年には-3.8、2023年も-2.7。そして今季もここまで-5.1と、失点を増やしてしまっているようだ。
低迷の理由も、中野と同じく守備範囲の狭さにある。表を見ると高いUZRを記録した21年、宗の守備で優れていたのは三遊間の打球処理だった。この年の三遊間の守備範囲評価は10.5点。平均的な三塁手が守っていた場合に比べ、三遊間だけでチームの失点を10.5点も減らしていたという計算である。これはかなりインパクトのある数字だ。

◎宗の打球方向別守備範囲評価(三塁)
年度 三塁線 定位置周辺 三遊間
2021 -1.0 1.2 10.5
2022 -4.3 0.6 1.6
2023 -0.7 0.6 -3.5
2024 -0.7 -0.3 -3.8

ただ、近年の宗はこの三遊間の打球処理が年々悪化の一途を辿っている。2021年に10.5だったのが22年は1.6、23年は-3.5、そして今季はまだシーズン半分にも満たないにもかかわらず、-3.8と自己ワーストを更新してしまっている。代わりに三塁線に強くなっているというわけでもない。アクロバティックな守備のイメージのある宗だが、こうして見ると機動力のない三塁手になってきているようにも見える。

最後に取り上げるのは長岡秀樹(ヤクルト)だ。レギュラー2年目の昨季は全遊撃2位となるUZR8.5を記録。中野や宗と違い、データで見ても上位の守備評価を得て、球団史上最年少でゴールデン・グラブに輝いた。だが、今季はここまでUZR-7.1で、昨季とは逆に全遊撃手中ワーストの守備貢献に沈んでいる。

この状況を生んだのもまた守備範囲の課題だ。昨季までの長岡は定位置や三遊間の打球処理で大きく失点を減らす一方、二遊間の打球は苦手としていた。昨季は三遊間の打球処理で5.5点失点を減らした一方、二遊間で5.6点失点を増やしていた。三遊間寄りに得意な打球が偏っている、珍しい遊撃手だ。 ◎長岡の打球方向別守備範囲評価(遊撃)
年度 三遊間 定位置周辺 二遊間
2022 4.4 4.0 -1.3
2023 5.5 3.6 -5.6
2024 1.0 0.7 -8.2

今季もこの傾向は変わらないのだが、二遊間の損失は例年以上に大きくなっている。シーズンの半分も終わっていない時点で-8.2。二遊間を抜けてセンターに抜ける打球が例年以上に多くなっているようだ。例年に比べると中野同様、長岡についてもコンディションに問題があるのかもしれない。

それだけではない。昨季はシーズンを通して8失策、守備率は3位(500イニング以上)の.986と堅守も売りにしていた。だが、今季はすでに6失策。エラーの内訳を見ると、捕球ミスがすでに昨季と同じ4つ。二遊間の打球処理だけでなく、イージーな捕球ミスを減らせるかも、長岡がUZRを回復させられるかの重要なファクターになる。

※データは6月16日終了時点

文●DELTA

【著者プロフィール】
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』の運営、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。

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