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元NHKのディレクターで映像作家・映画監督の佐々木昭一郎氏が14日、肺炎のため、神奈川県大和市内の病院で亡くなった。享年88。葬儀は20日、近親者で執り行われた。
佐々木さんは1960年にNHKに入局し、ラジオ・テレビドラマの演出を手がけた。ラジオドラマ「都会の二つの顔」(1963年、芸術祭奨励賞)は、文学座研究生時代の女優・宮本信子が偶然知り合った若者と恋人同士として一日を過ごす様子をドキュメントタッチで描いたもので、宮本の相手役は魚河岸で働くズブの素人・横溝誠洸氏。ドラマとドキュメンタリーを合体させたユニークな手法は佐々木氏が嚆矢(こうし)といえる。
66年、寺山修司と組んだラジオドラマ「コメット・イケヤ」でイタリア賞グランプリを受賞。テレビドラマに転じてからは「マザー」(71年)でモンテカルロ・テレビ祭金賞、「さすらい」(71年)で芸術祭大賞、「紅い花」(76年)で芸術祭大賞、国際エミー賞優秀作品賞、中尾幸世主演の「四季・ユートピアノ」(80年)でイタリア賞グランプリ、「川の流れはバイオリンの音」(81年)で3度目の芸術祭大賞、同じ「川シリーズ」の「春・音の光 川」(84年)で毎日芸術賞と国内外の賞を総ナメにし、「世界の佐々木」「グランプリ男」と呼ばれた。
幻の録音テープが昨年発見される
佐々木ドラマの特徴のひとつはプロの俳優ではなく、市井の一般人を主役に据え、その内面の魅力を引き出すことにある。この手法は是枝裕和、河瀬直美、塚本晋也ら多くの映画監督に影響を与えた。
2014年には、韓国人留学生を主演に初の長編劇映画「ミンヨン 倍音の法則」を撮り、話題になった。
学生時代に「四季・ユートピアノ」を見たときの衝撃は忘れられない。後に、取材を通じて知遇を得たが、それ以来長きにわたって交友を重ねた。筆まめな佐々木さんから最近まで三日にあげず、近況メールをいただいた。
去年、佐々木さんが一番喜んだのは、幻のテープが発見されたこと。「二十歳」(65年、脚本・寺山修司)は吉永小百合20歳の記念に作られたラジオドラマで、テープが現存しないため、幻の作品だったが、一般聴取者の録音が見つかり、NHKがアーカイブ放送した。「効果音のハイドンのセレナーデは小百合さん自身がピアノで弾きました」と58年前の録音秘話を教えてくれた。
近年は遠藤利男氏(92、元NHKエンタープライズ社長)が年末に行っている狂言発表会を見に行って、3人で一献傾けるのが慣例になっていた。
遠藤氏は佐々木さんの特異な才能を見いだし、彼の不遇時代にプロデューサーとしてバックアップし、自身もディレクターとして革新的なラジオドラマ、テレビドラマを手がけ、NHKドラマ史に大きな足跡を残した。
「ミンヨン」を製作した山上徹二郎氏によれば、佐々木さんは「もう一本映画を撮りたい」と最後まで創作に意欲を燃やしていたという。
表現者として生き抜いた佐々木さん、安らかに。 合掌
(山田勝仁・演劇ジャーナリスト)