葛西臨海水族園改修問題「水辺の自然」エリア最後の日…記者が感じた自然へのリスペクト欠如

葛西臨海水族園。ランドマークになっている本館のガラスドーム(C)日刊ゲンダイ

【話題の現場 突撃ルポ】#12

20日告示された東京都知事選。3選を狙う“伐採女帝”小池都知事は、神宮外苑に続き葛西臨海水族園(東京・江戸川区)の伐採計画も着々と進めている。2028年の新水族園リニューアルオープンを予定しているこの改修計画。本館こそ保存されるものの、「水辺の自然」と呼ばれるエリアの樹木を伐採したうえで新館が建設される。都によると、計画敷地にある樹木1700本のうち、600本が伐採され、800本が移植、現地保存されるのは300本のみ。貴重な自然環境が損なわれるという批判が相次ぐ中、改修工事のため5月20日に同エリアは閉鎖された。

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大粒の雨が降る6月18日、記者が水族園に訪れると「水辺の自然」エリアの入り口にはフェンスが設置されていた。まだ重機などが入っている様子はないが、かつて多くの人でにぎわった場所は静まり返り、降りしきる雨音だけが響いていた。

記者は閉鎖される前日の5月19日に現地を訪れ、「最後の日」を取材していた。翌日には閉鎖されるというのに、その説明書きはどこにも見当たらなかった。

「とても良い場所なだけに残念」

「水辺の自然」エリアを入り口から歩いていくと、東京23区にいるとは思えないような豊かな自然に出迎えられる。かつてはぬかるみが広がる埋め立て地だったが、木々の種類や配置を綿密に計画し、1990年の開園から長年かけて、現在の森がつくり上げられた。人工的につくられたとは思えないような穏やかな小川を大小さまざまな植物が覆い、多様な生き物が生息している。開発が進む以前の自然を再現しており、懐かしささえ覚える景観だ。

さらに進むと、淡水魚がすむ水辺の環境を再現した「淡水生物館」が見えてくる。「池沼」と「渓流」にエリアが分かれており、どちらの水槽も自然の外部空間を背景にした半屋外のつくりになっている。館内からは池や川の断面が見られるようになっており、水面上の水の動きと、水面下で魚の泳ぐ様子が同時に眺められる。流れが速く浅い場所や、水がよどむ深い場所など、水中の生き物がさまざまな環境を使い分け生活している様子も丸わかりだ。臨場感あふれるこの水槽には次々と子供が集まり、顔を近づけ夢中で魚を眺める子もいれば、水の動きを手でなぞり、熱心にスマホで写真を撮る子供もいた。

幼少期から訪れている40代の女性はこう振り返る。

「開園当初はもっと木々が痩せていてスカスカでしたが、ここまで育ったのは感慨深いです。派手さはありませんが、とても良い場所なだけに残念です」

小池都知事は「エコ」を歌いながら木々を伐採

かつて大規模開発のために環境汚染が進んだ葛西の海。再生された豊かな自然は歴史的にも重要な意義を持つ。しかし、小池都知事は「エコ」をうたいながらも貴重な木々を伐採し、全く別のものにつくりかえてしまう。こんなことが許されるのか。建築エコノミストの森山高至氏はこう話す。

「伐採によって失われるのは樹木だけではない。東京都から自然が失われる中で、緑を回復しようとする考えや人々の努力が否定されるのです。一部エリアの話だからと伐採を容認してしまえば、悪しき前例となり連鎖してしまいかねません」

改修計画からは自然を取り戻そうとした先人へのリスペクトは感じられない。

(取材・文=橋本悠太/日刊ゲンダイ)

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