【社説】通常国会閉幕 政治不信、深めた責任重い

 国民の支持を得られていない政権が迷走を続けた感が強い。「裏金国会」と呼ばれ「政治とカネ」問題に揺れた通常国会がきのう、事実上閉会した。

 岸田文雄首相はきのうの記者会見で、自民党の派閥解消や衆院政治倫理審査会への出席を「私自身が一歩前に出るとの思いで決断した」とアピールしたが、裏金事件の実態解明は置き去りのままだ。

 改正政治資金規正法は裏金化に抜け道を残し、調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)は見直されなかった。カネの流れの透明化を求める国民の声に背を向け、収入源を守ろうとする自民党の姿勢が印象に残る。

 政治とカネ問題以外でも、多くの場面で市民感覚とのずれが表れ、政治不信が広がった。その一つが「子ども・子育て支援金」の財源を巡り、首相が「実質負担ゼロ」と説明を繰り返したことだ。医療保険料に上乗せして徴収される国民は、ごまかされたような思いだろう。

 今月発表された2023年の合計特殊出生率は過去最低を更新した。少子化を反転させるラストチャンスと位置付けるなら、誠実に国民の理解を得るべきだった。

 国会軽視の姿勢には苦言を呈したい。英国、イタリアと共同開発する戦闘機を輸出できるよう、防衛装備移転三原則の運用指針を閣議決定で改定した。安保政策の重大な転換なのに、またも国民に開かれた場での議論を避けた。

 今国会では政治とカネ問題で野党が自民党を追及するシーンが目立ったが、重要法案の審議は政府・与党のペースで進んだとの見方もできる。財源の裏付けがないまま膨らんだ防衛費を含む24年度予算もどこまで踏み込んだ審議ができたか疑問だ。野党も政権交代を唱えるなら重要法案への代案を示してほしかった。

 会期中、歴史的な円安が物価高を悪化させ、国民生活は厳しさを増した。首相は「経済の再生が政権の最大の使命」と述べていた。春闘の賃上げは一定に実現したにせよ、定額減税は煩雑な事務作業が自治体や企業を煩わせ、効果はまだ見通せない。国民に生活の安定をもたらす方向づけはできなかった。

 首相はきのうの会見で電気・ガス料金の補助金を再開させる方針を示した。5月分で終了したばかりの補助金の突然の方針転換だ。ちぐはぐな感じが否めず、人気取りではないかと思わざるを得ない。

 こんな政治でいいのか、という国民の不満が表れたのが、衆院3補選や地方選の結果ではないか。負け続けた自民党内では「岸田離れ」が指摘される。通常国会が終われば政局は新たな段階に入る。

 首相は9月の党総裁選への立候補や衆院の解散時期について「先送りできない課題に取り組み結果を出す。それ以外は考えていない」と明言を避けたが、派閥解消で流動化した自民党は「選挙の顔」を探す動きで浮足立つだろう。しかし、課題への対応をおろそかにして権力闘争に明け暮れれば、民意は政権から離れていくばかりだ。

© 株式会社中国新聞社