「有名にならんでくれ」祖母は心配も… 伝統芸能の“お堅いイメージ”壊す 孫娘の決意

薩摩川内おどり太鼓のリーダー、有馬奈々さん【写真:Hint-Pot編集部】

少子化や人口減少が進む中、地方に根付く伝統芸能や文化をどう存続させていくかが課題になっています。鹿児島県の「薩摩川内(せんだい)おどり太鼓」は国内外の舞台で活躍するなど、地元では有名な存在です。けん引するのは27歳の主奏者、有馬奈々さん。TikTokなどのSNSを活用し、露出を強化していますが、創始者の祖母からは心配の声も……。祖母の思いを汲みとりつつも、奮闘する孫娘の胸中を聞きました。

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「女性が9割」 華やかさと“ギャップ”で魅了

曲の開始を告げる口上、そして激しい太鼓の音。踊りまくる女性たち。威勢のよいかけ声が何度も上がるノリノリのステージは、見た人が誰でも元気になれると評判です。コロナ禍前はベルギーやフランスにも進出し、世界の人々を魅了してきました。

薩摩川内おどり太鼓は、祖母の有馬ルミ子さんが和太鼓鑑賞をきっかけに1983年に立ち上げました。2024年には鹿児島県の優良観光団体に選出。リーダーの奈々さんは薩摩川内親善大使も務めています。

「一応1983年とはなっているんですけど、実際はもっと長くやってるみたいで。祖母がやり始めて、地元ではすごい広まっていきました」

日本人にとってなじみ深い和太鼓に「おどり」の要素を取り入れたパフォーマンスは、祖母・母・娘と3代にわたり、受け継がれています。

奈々さんが、初めて稽古に参加したのは1歳7か月のときです。

「もともとやりたかったわけではなく、祖母に『アイスクリームを買いに行くよ』と言われて連れていかれたのが太鼓でした」

その後、離れた時期もありましたが、小学校入学とともに再開。以後、20年以上にわたり、演奏を続けています。主奏者となったのは20歳のとき。現在メンバーは3歳から80代まで50人で、「女性が9割」という華やかさ。学生や社会人など立場はさまざまで、育児や介護と両立している人もいます。「バチを握ると別人になると言われます」。“ギャップ”も魅力の一つです。

1曲あたり5分ほど。これまで演奏してきた曲数は50に上ります。楽譜はなく、生き生きとした表情や体の動きを間近で見ることができます。

「地元の観光名所をイメージした曲を演奏しています。例えば、今一番演奏しているのが『天使(あまつかさ)~川内川あらし~』という曲です。川内川という一級河川があるんですけど、そこを晩秋から初春にかけてだけ霧が流れていくという現象があって、それをイメージした曲をメンバーがまず口上を述べてから演奏します。地元の紹介もしつつ、曲を通して皆さんにイメージしていただき、興味を持っていただけたらなと思いながらやっています」

作曲や振り付けは外部に依頼することもありますが、自分たちでも行います。

「女性が多いのも珍しがられますし、あとはただ太鼓をたたくだけじゃなくて、踊りながらたたくので、パフォーマンス性が高い。見ても聴いても楽しいと言っていただけるようなライブです」

バチを握ると別人に【写真提供:有馬奈々】

「有名になるのが怖い、危ない」 “待った”をかける祖母

若きリーダーとして伝統の継承を任された奈々さん。その方針は、明確です。

「とにかく私世代に興味を持ってもらえるチームになりたいですね。伝統芸能はお堅いイメージがあるので、そこを壊して普通にもうバンドを好きになってくれるくらいの感覚で好きになってもらいたいなと。薩摩川内おどり太鼓と地元の名前が入っているので、地元ごと愛してもらえるようなチームになって、長く続いていけばいいなと思っています」

18歳から2年間、大阪の音楽専門学校でドラムを学び、世界のリズムを習得。ツービートを取り入れたほか、和太鼓をドラムのように並べて複雑な音を出すなど、新風を吹き込んできました。

「年配の方は和太鼓と聞いたら喜んで集まってくださるんですけど、大学生や私ぐらいの年代に見てもらえる機会がなくて……。見てもらうまでのハードルが高いのが今すごい悩みなんですよ」

20代を中心とした若い世代に、どうすれば届くのか。

そこで活用したのがSNSです。YouTube、インスタグラムに続き、今年3月からTikTokを開始しました。初回のライブ配信は2000回以上視聴され、上々の滑り出しに。音楽と踊りは親和性が高く、若者へのアピールになりました。県外のイベントにも積極的に参加し、知名度の拡大にまい進する日々です。

一方で、こうした方針は、創始者である祖母の考えとは異なります。

「祖母からは『有名にならんでくれ』とずっと言われていますね。有名になるのが怖い、危ないって。地元で小さくやっていくので十分だと」

注目度が増せば、その反動もあります。特にSNSは露出すればするほど、リスクが高まります。それならば、メジャーにならなくても、地域の人々の娯楽として存続していけばいい。より多くの人に薩摩川内おどり太鼓を知ってもらいたいと猪突猛進する孫娘の身を、80代の祖母は案じていました。

ただ、やり方は違っても、祖母と目指すゴールは一致していると受け止めています。

「たたかれたりとかもあるので、そういうのを心配して言ってくれているんですけど、私も祖母もおどり太鼓自体はずっと続いていってほしいと思っています。そこは一緒なので、私はもっと県内だけじゃなくて県外の人にも広めて、こんなに素晴らしい文化があるんだよっていうのを認知してもらいたいなって思います」

海外への進出も「祖母の人脈あっての機会でしたが、挑戦したいと言ったのは私です」と積極的に働きかけました。

「フランスでの演奏がきっかけで、鹿児島に観光に来てくださるフランス人の方もいます。今年はもう移住すると言っていました。もともと私たちの演奏を見ただけだった人が、それぐらい鹿児島を好きになってくれて……」

文化交流が果たす影響の大きさを奈々さんは実感を込めて語りました。

鹿児島県の優良観光団体に選ばれた【写真提供:有馬奈々】

存続には観客の存在が「絶対」 発信を続けるワケ

地方は人口減が急速に進んでいます。子どもの数が少なくなれば、担い手も減り、将来的な存続も危ぶまれていきます。

「この10年、20年後を見据えたときに、これからどうしていけばいいかなというのが課題。続いていくにはやっぱり見てくださる人がいることが絶対なので、それはもう私は多いほうがいいと思います」と話します。

メンバーが着用する衣装はほとんどを祖母がデザインし、母らが愛情込めて1枚1枚を手作りしたものです。40年以上にわたって情熱を注いできた伝統だからこそ、守りたいという思いも強くなります。

「私が有名になりたいんじゃなくて、おどり太鼓を多くの人に愛してもらえたらそれでいいですね」と奈々さんは結びました。

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