元甲子園エースが瞬時に虜になった「Baseball5」とは?吉永健太朗が見据える日本一への道

吉永健太朗 撮影:大崎聡

夏の甲子園優勝ピッチャーは瞬時にBaseball5の虜となった。

Baseball5は手打ち野球に似たストリート競技

バットもグローブも必要ない、ボールひとつでできる手打ち野球に似たストリート競技に初めて触れたのはちょうど1年前である。

Baseball5とのファーストコンタクトから1か月後、吉永健太朗さんは自らのチームHi5Tokyo設立に動き出していた。Baseball5の何が彼をここまで魅了したのか?

「肩が痛くなくて、全力でできるのがうれしかったのです。肩を痛めてからは6割くらいの力で100km/hほどでしか投げられなかったのですが、100の力で投げても100の力で打っても痛くない。

ずっと痛みとの付き合いをしていたので、うれしかったですね。ワクワクしました。あと子どもがいるので、子どもを巻き込んで一緒にプレーできるというのもBaseball5の大きな魅力でした」

©全日本野球協会

Baseball5の奥深さとは?

吉永さんは1チーム男女混合の5⼈制、5イニングを30分ほどで戦うBaseball5の奥深さを口にした。

「ほぼほぼ野球なので、守備に関しては野球と変わりません。ただグローブがないので、しっかりボールを取りにいかないといけないのは野球をやる上でもプラスになります。

バッティングは全然違うので、野球経験者が『簡単そうじゃん』とやってみると全然打てなかったりします。

『そう思うなら来てよ』と色んな人を巻き込んで、『ほらできないでしょ』という流れができていますね」

撮影:大崎聡

Baseball5の打撃は野球の投球に近い

さらに吉永さんはBaseball5の打撃は野球の投球に近いと続けた。

「バッティングと言うよりピッチングに近いと言えます。腰を入れて、手をしっかり入れていかないと打てない。

あと当てるのも意外と難しいですよ。レベルが上がるとなかなかヒットが打てません。打てない時にどこに打てばいいか迷いが出てきます。

Baseball5は自分で打つ場所を決められるので、抜けるところが見えない状態に陥ったりします。ピッチャーが『このバッターはどこ投げても打たれそう』という感覚に似ていますね。打撃なんですけど、投手の投球に似ています」

現役引退を余儀なくされた吉永健太朗だが…

日大三高のエースとして2011年の『全国高等学校野球選手権大会』で頂点に立ち、ドラフト1位候補としてプロ入りを期待されながらもプロ志望届を出さずに早稲田大へ進学。

翌年には1年生ながら『全日本大学野球選手権』制覇の原動力となり文句なしのMVPに選出された。

魔球シンカーを操り、学生球界の一時代を築いた吉永さんはその後ケガや理想のフォームに悩まされて思うような成績を残せず、JR東日本へ入ってからは右亜脱臼という大ケガに見舞われた。

未練を残しつつ2019年シーズン終了をもって現役引退を余儀なくされた吉永さんのBaseball5を語る表情は明るい。

「楽しくできています。Baseball5では楽しむことをモットーに、まずコミュニティを重要視しています。

野球の時は本業としてやっていたので『勝てないといけない』『抑えないといけない』という感情で楽しむというのはまた別でした。

Baseball5はどこかに縛られたのではなく、自分が作ったチームでありますし、しっかりした環境を作るのが目的で、その上で日本一を取れるようがんばっていこうとしているところなので楽しくやっています」

©全日本野球協会

チーム設立から4か月強、Hi5Tokyoは2月4日に開催された『侍ジャパン チャレンジカップ 第1回 Baseball5日本選手権』でベスト4に進出。吉永さんは日本代表候補にも名を連ねた。

早々に結果を残したが、目標とする日本一への手応えは掴めたのか?

「見えました。見えたのですけど、日本一を果たすための環境を作るのは大変だなとも思いました。

チームメンバーそれぞれが仕事や家庭を持っていますから、集まる機会や練習量を増やすというのは現実的ではありません。その代わり、一回の練習の密度を上げることにこだわってます」

では、日本代表はどうか?

「現状では厳しいですね。限られた時間の中でも効率よく練習をして、なんとか日本代表になれるようにがんばりたいです!」

撮影:大崎聡

吉永健太朗が思い描く未来像

2022年10月にJR東日本を退職し、現在は都内の大手企業に勤める吉永さんは忙しい日々を送っている。

Hi5Tokyoの運営とともにBaseball5や野球の普及活動を実施し、野球の個人指導も行っている。

InstagramやYouTubeでの発信や、野球教室の開催、フィールドフォース社の協力を得て野球ギアの開発を進め、将来的には指導者の講習会も開きたいと青写真を描く。

時間はいくらあっても足りないが、ターゲットを変えるつもりはない。

「本当は前回の大会で日本一になって、日本代表になるつもりでしたが、そこまでは甘くなかったですね。あまり先は考えていないので、次の大会で日本一を目指します。

今野球の指導とか、自分の活動がどんどん増えていっていますが、Baseball5のプレーヤーとしてのキャリアを積んで、あとはマネジメント側に回りたいと思っています」

Hi5Tokyoの未来像もおぼろげながら描きつつある。

「本当はスクールのようにしていきたいですね。大人メインでやるより、ジュニアメインでやりたいです。

でも今は区の施設で活動しているので、会費を取ってスクールのようにはできず、今はボランティアとしてやっています。

将来的にどのように運営していくかはまだまとまっていませんが、日本一を取って、日本代表に選ばれて、その先はまた検討中という感じですね」

最後に愚問と思いながら、高校3年の夏の甲子園後にプロ志望届を出さなかったことを後悔する時があるか聞いてみると。

撮影:大崎聡

「(プロ志望届を)出した人生と出さなかった人生の両方が経験できるならいいですが、出すか出さないかの二択なら出さないですね。

周りが評価してくれたほど、自分自身は成熟していなかったと思いますので。

あのタイミングでプロに行っていても大学のように崩れている可能性は高かったと思いますし、今の人生もそんなに悪くはないですよ」

野球の現役を終えて5年、Baseball5と出会った吉永さんは充実した日々を送っている。

(ウレぴあ総研/ 碧山 緒里摩)

© ぴあ朝日ネクストスコープ株式会社