お金と名声は不要!? ハーバード教授が教える、良い人生を送るために一番必要なこと【インタビュー前編】

ロバート・ウォールディンガー教授 ウェルなわたし

「どうしたら幸せな人生を送れるのか」

誰もが一度は考えたことがあるのではないでしょうか。

幸せになるために必要なのは、お金?それとも知名度?その問いに対する具体的なヒントをくれるのが書籍『グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない』(&books/辰巳出版)。

世界最高峰の教育機関米ハーバード大学では、合計2000人以上の人生を調査する「ハーバード成人発達研究」が85年前から行われています。

著者であり4代目研究責任者のロバート・ウォールディンガー教授に、幸せな人生を送るための秘訣や日常での実践方法について話を聞きました。

良い人生を送るために一番必要なこととは?

─── なぜ「幸せ」の研究に参加しようと思ったのですか。

実は初めからこの研究に参加したいと思っていたわけではないんです。

私はハーバード大学で心理学者になるために学んでいて、当時受けていた授業の1つに、この研究の3代目責任者の教授による「成人発達研究」についての授業がありました。

この研究は何千人もの人生を追跡していくもので、彼らの人生がどのように展開していったのか、一人ひとりに唯一無二の人生について聞くのが面白くて、いつの間にか研究にのめり込んでいました。

そんなある日、教授からランチに呼ばれて、私の仕事を引き継いでもらえないかと相談されたんです。とても驚いたのですが、ぜひ携わりたいと思い引き受けました。

─── 良い人生を送るために一番必要なことはなんでしょうか。

まず、一概に「これが幸せです」と言い切れるような正しい道があるわけではないことを覚えておくことが大切です。それぞれの人にとってより適した生き方というのはありますが、それは「正解」ではないんです。

しかし、そういった中でも傾向として多くの人生から明らかになったことは「人間関係」の重要性です。

調査の中では、80代になった被験者に「自分の人生を振り返ったときに誇りに思うことは何か、また後悔していることは何か」という質問をします。

被験者の中には、社会的地位が高く輝かしいキャリアを積んできた方もいるのですが、自分の肩書きや業績、資産についての話題は出なかったのです。

その代わりに多くの人が話してくれたのは、素晴らしいパートナーに恵まれたこと、良い親になれたこと、仕事で同僚と良い関係を構築できたこと、といった人間関係に関することでした。

また、一番人生で後悔したことも人間関係に関することでした。自分の時間を労働に使いすぎた、本当に大切な人たちのために時間を使うべきだった、という声を多く聞きました。

英語には「死の床で『もっと仕事をすれば良かった!』と言った人はいない」という有名な言葉があります。私自身も子を持つ親として、家族にできるだけ時間を使うようにしています。

例え遅くまで残業をしても、時が経てば同僚や上司はそんなことは忘れてしまいます。家にいなかった事実を覚えているのは、子どもだけなのです。

人間関係は多ければ多いほど良いのか?

ロバート・ウォールディンガー教授 ウェルなわたし

─── 人間関係は多ければ多いほど良いのでしょうか?

どれだけ多くの人間関係が必要かというのは、人によって変わってきます。

自分の人生を豊かにしてくれる人間関係の大きさを理解することが大切なのです。

世の中には、外交的な人もいれば内向的な人もいる。そしてその二つの性質はグラデーションで繋がっており、二つに切り分けて分類できることでもありません。

多くの人間関係を構築することでエネルギーを得る人もいれば、限られた人数の中で深い関係を構築することに幸せを感

じる人もいます。私たちの研究でわかったことは、人間は、自分が助けを必要とした時に頼れる人が1人か2人は必要だということです。

─── より良い人間関係を築くための、今日からできる人生のコツはありますか?

Couple raise hand up on sunset sky at beach and island with birds flying abstract background. Freedom and travel adventure concept. Vintage tone filter color style.

私たちの研究では、人間関係を持つことによって人は幸せになるだけではなく、身体的にも健康でいつづけることができることが判明しています。そして人間関係は、必ずしも家族や友達である必要はなく、よりカジュアルな関係でもいいんです。

例えば、スーパーやコーヒーショップで知らない人と立ち話をした経験はありませんか?そういった小さな交流も、実は幸せな人生を送る鍵なんです。

日本人は西洋人と比べて知らない人と話すことが少ないと聞いたこともありますが、居酒屋という交流にぴったりな場所もありますし、お酒が好きな人は居酒屋でお店の人や他のお客さんと言葉を交わしてみるのもいいかもしれませんね。

もちろん、お酒との付き合い方に気をつけながら、ですが(笑)。

後半に続く

(ウェルなわたし/ 小泉 秋乃)

© ぴあ朝日ネクストスコープ株式会社