【解説】中国海警局が外国人拘束の新規定と機関砲で尖閣に圧力 乗組員拘束も辞さない悪質行為「ICAD」とは?

「17日に中国海警局がフィリピン軍の補給船に乗り込み、乗組員を一時拘束した事件を受けて、急きょ設定した」

自衛隊制服組トップの吉田統合幕僚長は、6月20日、記者会見の場でこのように述べ、フィリピン軍の制服組トップであるブラウナー参謀総長と、急きょオンライン会談を実施したことを明かした。

フィリピン当局は、南シナ海の軍事拠点への補給活動を中国海警局の船から妨害され、ゴムボートに刃物で穴をあけられ銃器を奪われたほか、軍人1人が指を切断する重傷を負ったとしている。

吉田統幕長は記者会見でブラウナー参謀総長との会談について、「中国海警局の行為が『ICAD』に相当するという認識を共有するとともに、法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序を維持するため、米豪等の同盟国、同志国とも連携し、協力を進めていくことで一致した」と強調した。

この「ICAD」という耳慣れない言葉は、「Illegal(違法の)」「Coercive(強制的)」「Aggressive(攻撃的)」「Deceptive(欺まん的)」の英語の頭文字をつなぎ合わせた造語だ。このところフィリピン当局を中心に頻繁に使われ始めた言葉で、中国側による南シナ海での行為の悪質さを表すのが狙いだとみられる。きっかけは、5月に行われた2つの会談だった。

1つは、5月2日に吉田統幕長も出席してハワイで開かれた、日本、米国、オーストラリア、フィリピンの4カ国の参謀総長級会議だ。それに続いたのが、5月31日にシンガポールで行われた会談で、アジア安全保障会議に合わせて、同じ4カ国の参謀総長らが直接向き合い、日本からは南雲統幕副長が参加した。

そして、6日後の6月6日、吉田統幕長は記者会見で、フィリピン側から5月2日の会談で「我々はICADという言葉を使う」という発言があったことを明らかにした。フィリピン側からは「違法で強制的で攻撃的でかつ欺まん的な事象と、明確に今行われていることを言うべきだ」との提起があったという。

この日米豪比4カ国は4月、フィリピンと中国の船の衝突が相次ぐ南シナ海で、初めて「海上協同活動」と位置づけた共同訓練を実施するなど連携強化を進めている。31日の会談でも「ICAD」に該当する事象が今後発生した場合には4カ国が共同歩調を取ることで一致しており、中国に対する警戒感は高まっている。

対台湾演習に中国海警局も参加「日本も無関係ではない」

この中国をめぐって緊迫している地域の1つが、台湾周辺だ。中国軍は5月23日、台湾周辺の海空域で「聯合利剣―2024A」と称する軍事演習を開始した。その3日前に、台湾で新たに発足した、中国と距離を置く頼清徳政権へのけん制とみられ、演習は2日間にわたって実施された。台湾を取り囲んだ形での軍事演習は、2022年のペロシ米下院議長の台湾訪問、そして翌2023年の台湾の蔡英文総統のマッカーシー米下院議長との会談後に続く、3回目と位置付けられる。

「2022年は1週間、2023年は3日間実施されたのに対し、5月の演習は2日間と実施期間が短かった。そして、前回と同様に実弾は使用されず、比較的小規模だったと言える」

演習についてこう冷静に分析するのは防衛省の研究機関「防衛研究所」で、理論研究部長を務める飯田将史氏。中国の外交・安全保障政策について、20年以上研究を続けてきた専門家だ。その飯田だが、この5月の演習について別の視点から、ある特徴を挙げて警鐘を鳴らす。

飯田将史氏:
演習には中国人民解放軍のほか、海警局も参加していた。日本も無関係ではない。

海警局は中国の海上法執行機関であり、尖閣諸島周辺での航行を常態化させていることで知られる。2018年7月には組織改編で武装警察部隊に編入され、現在は中央軍事委員会の指揮下に置かれている。 飯田氏は「海警局が軍事力の一部として、人民解放軍と一体的に運用されている実態を明らかにした」と分析する。

さらに、この中国海警局は6月15日、新たな規定を施行したのである。中国が主張する「領海」に違法に侵入した外国人について、最長で60日間拘束を可能とするものだ。

沖縄県の尖閣諸島や南シナ海で、一方的に領有権を主張する中国がこの新たな規定を恣意的な拘束の裏付けにする恐れがあり、日本政府関係者はFNNの取材に対し、「ステージが変わった。今後事態がエスカレートしないか中国の動きを注視している」と警戒感を示す。

“機関砲”も搭載か、海警局の航行続く日々に政府関係者「日本はゆでガエルにならないように」

さらにこの関係者は「日本はゆでガエルにならないように気をつけなければならない」と話す。これはカエルを突然熱湯に入れると飛び出すが、水に入れた状態でゆっくりと沸騰させていくと、そのままゆでられて死ぬという作り話が由来とされる警句だ。つまり、ゆっくりと変化していく環境では危険性を察知できず、致命的な事態に陥りやすいことを示している。そうしたゆっくりとした変化が、今、実際に起きているという。

実は尖閣諸島周辺では、最近になって、多くの船で機関砲のようなものの搭載が確認されているのだ。政府関係者はこうした中国の行為を指摘した上で、「かつては日本国内で大きな騒ぎになったが、度重なることで日本も慣れてしまい、特別な事態だと思わないようになっている。力による一方的な現状変更を試み、既成事実を作ろうとしている中国側の思うつぼだ」と危機感を示す。

筆者は、特派員記者として中国に滞在中、中国当局そして民間の関係者に取材を続けた。そして取材した相手の多くが沖縄県の尖閣諸島は「中国固有の領土」と主張し、一部からは「日本と戦争しても取り戻してみせる」という強硬意見が出たことに、当時驚いたことを思い起こす。日本も「今そこにある危機」を認識し、注意深く冷静に、そして毅然として対応していくことが求められる。
【フジテレビ政治部 防衛省担当 木村大久】

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