『怪獣8号』はウルトラマンや仮面ライダーを継承している?『戦隊大失格』の特撮パロディも一見の価値あり

2024年春アニメとして放送されているラインナップが、特撮ファンにとって胸アツな件…。

タイトルに“怪獣”や“戦隊”という文字が踊っている作品があり、これは観ないわけにはいかない! 特撮オタクが実際に『怪獣8号』『戦隊大失格』を視聴してみたら、特撮やSF映画へのオマージュが満載で、毎週テレビ画面にかじりつきながら視聴するほどドハマりしてしまったのです。

なぜこの2作品は、そこまで特撮ファンを惹きつけるのか? 本稿では、2作品の魅力に迫りながら、その答えを探ってみたいと思います。

災害と結びつけた『怪獣8号』、ウルトラマンの言葉を具現化するよう

まずは、日本だけにとどまらず、海外でも話題沸騰中の『怪獣8号』について。
『怪獣8号』は、2020年より「少年ジャンプ+」にて連載中の松本直也による同名マンガを原作としています。防衛隊入隊を夢見る主人公の日比野カフカが、ある日、ひょんなことから怪獣に変貌できる能力を手にしてしまい、その事実をひた隠しにしながら、様々な試練を乗り越え、一人前の防衛隊員になっていく姿を描きます。

以前より原作マンガが高い評価を受けており、まさに待望のアニメ化となった作品。今回のアニメ版とマンガ版では少し改変されている部分なども見受けられ、今後の展開が予想できない点もあり、原作を読んでいたとしても新鮮な気持ちで観られる作品と言えるでしょう。

そんな『怪獣8号』は、タイトルに“怪獣”という文字が踊っているだけに、過去の特撮作品へのオマージュが非常に多く、特撮への愛をも感じさせる描写がわんさか登場するのです。
物語の舞台となっているのは、怪獣大国・日本。怪獣が日常的に出現し、怪獣災害が頻発している状態の日本です。

CD『Abyss / Nobody』(Universal Music)

確かに日本は『ゴジラ』に代表されるところの「怪獣映画」の宝庫であり、そのジャンルにおける先駆者的立ち位置でもあります。しかしながら、決して怪獣というのは現実の存在ではなく、いわばフィクションの存在……架空の生物を災害と結びつけるのはなかなかの難儀です。そこで作者は、現実に、それも身近で頻発している災害を怪獣に例えることにしました。

それは「地震」です。「地震大国」と言われるほどに、日本は世界から見ても地震による災害が極めて多い国でもあります。まさに地震を怪獣として捉え、その恐怖をリアルに感じさせることに成功しているのです。

それは怪獣が現れた際に計測される数値にも表れており、地震が起きた際に計測される「マグニチュード」を思わせる「フォルティチュード」という指標値を用いることで、より一層、観る者を作品世界に引き込む要因となっています。

かつて、なぜ怪獣は日本にばかり出現するのかと問われ、「怪獣は地震のようなもの」と答えた「ウルトラマン」シリーズの制作関係者がいましたが、まさに『怪獣8号』はその言葉を具現化したような作品であると言えるのです。

敵と同じ力で倒す「仮面ライダー」の精神を引き継ぐ

『怪獣8号』の特撮オマージュを感じさせる要素は、主人公の日比野カフカというキャラクターにも存在します。カフカは怪獣に変貌できるという強大な力を意図せず手に入れてしまったことから、そのことを周囲に隠しながら行動しなくてはなりません。

つまりは自身が怪獣8号であるということがバレてはいけないわけです。正体を隠しながら、防衛隊員として活躍するという展開は、「ウルトラマン」シリーズの常套手段であり、王道のストーリー。たとえ怪獣と言えども、れっきとしたヒーローとして日比野カフカは主人公に据えられているのです。

Blu-ray『怪獣8号』Vol.1 (東宝)

また、カフカもとい防衛隊の敵となるのも怪獣なわけですが、カフカは怪獣の力をもって怪獣を倒す。「敵と同じ力で敵を倒す」という点は、往年の「仮面ライダー」シリーズを彷彿とさせる部分があります。

かつての仮面ライダー1号は、敵組織であるショッカーによって改造され、脳改造を受ける直前に脱走したことから、その大いなる力をもって、ショッカー打倒を誓い、人類の平和と自由のために戦い続けました。

日比野カフカ=怪獣8号も、決して望んで手に入れた力ではないものの、怪獣の力を利用していくことを決意します。こういった部分には「仮面ライダー」の精神をも体現しているように感じさせるのです。

ハリウッド映画やアニメファンも楽しめる要素

『怪獣8号』と「仮面ライダー」の繋がりを感じさせる要素は他にもあり、これは筆者の視聴者としての勝手な推察に過ぎないのですが、どうにも『仮面ライダークウガ』を思わせる場面がいくつかあるのです。

カフカと相棒の市川レノの関係性が同作の五代雄介と刑事の一条薫の関係性とダブって見えてしまったり、割と前半の戦いで防衛隊と8号が対峙し、討伐対象として狙われる展開、怪獣を出現順にナンバリングしている点、そして単純に怪獣8号のシルエットがクウガと重なる(二本角にシンプルなボディライン)など、随所に『仮面ライダークウガ』を想起せずにはいられない!

このように特撮ファンにとっては思わずハッとさせられる瞬間が多々あり、目を離さずにはいられない要素が数多く存在するのが『怪獣8号』なのです。

しかしながら、単に特撮ファンだけが唸る仕様になっているわけではなく、『新世紀エヴァンゲリオン』のような通信シーン、映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』のヒロインを連想させる亜白ミナの存在感などなど、アニメ、洋画ファンであっても楽しめる数多くの魅力を備えた作品でもあるのです。

特撮ヒーローの“お約束”を突いた『戦隊大失格』

特撮ファンを唸らせる今期のアニメは、もう一作品あります。それが『戦隊大失格』です。
『戦隊大失格』は、「週刊少年マガジン」にて2021年より連載中の春場ねぎ原作による同名マンガを基にした作品。

竜神戦隊ドラゴンキーパーという大戦隊が、悪の怪人軍団と死闘を繰り広げる日々が続く世界。長年にわたる戦いは、毎回、必ず大戦隊の勝利で決着がつく……なぜか? それはこの戦い自体が大戦隊の仕組んだ茶番だったから! これに異を唱えた怪人軍団の戦闘員Dは、大戦隊に挑むことを決意し、単身、組織への潜入を試みるのだった。

『戦隊大失格』メインビジュアルより

「スーパー戦隊」などのヒーローものにとっての“お約束”……それは悪役がヒーローによって最後は必ず倒されるということ。しかしながら、なぜ敵である怪人が毎回倒されなくてはいけないのかと疑問に思ったことはないでしょうか。その疑問に一つの答えが示されるのが本作で、実はすべてが“芝居”だったと言うのです。

当たり前じゃないか!という声がなんだか聴こえてきそうですが、確かに、ヒーローものは全て脚本があってこそ成立するものであり、フィクションの世界だからこそ、悪が成敗されるわけですよね。(現実ではそう易々とはいかない…)

それを普通に物語として成立させているところが本作の凄いところ、面白いところであり、すべてが茶番だったら、怪人軍団は一体どのような行動に出るのか? というのが物語の肝になっているのです。ヒーローものを観ていて疑問に思った部分、そしてその答えにより生み出された新たな盲点を描き出した唯一無二の作品と言えるのではないでしょうか。

また、本作は「スーパー戦隊」シリーズのパロディ的な要素にも充実しており、大戦隊と怪人軍の戦いが、有観客の中、一種のエンターテイメントとして機能している世界線で物語が進んでおり、戦いの最中には観客からの声援が飛んできたりもします。まるでヒーローショーのような構成になっており、遊園地などで行われる巧みな演出が光るショーを見事に再現して見せます。

しかも、その戦いの名称が「日曜決戦」。これは「ニチアサ」こと毎週日曜日の朝に放送されている「スーパーヒーロータイム」へのオマージュと見受けられます。エンディングでは、戦闘員たちがダンスを披露しており、これまた「スーパー戦隊」ジリーズへのオマージュと、作者の「スーパー戦隊」への愛がとことん伝わってくる内容となっているのです。

一風変わった2作、どちらも一見の価値あり!

今回ここで紹介させていただいた2作品は、どちらも特撮ファンにとっては胸アツな作品であると同時に、本家本元の作品たちでは決して描かれないであろう視点をメインにしているという魅力もあります。

『怪獣8号』は怪獣撃退後の死体処理を請け負う会社で働いた経験を持つ主人公で、怪獣災害の事後処理について言及される場面がしばしば。『戦隊大失格』では、毎日のように倒されてはまた復活する、“その他大勢”扱いの戦闘員が主人公。

どちらも一風変わった視点から特撮の世界を見つめ直すきっかけにもなるので、多くの特撮ファンに観てほしい作品です。一見の価値ありですよ!

(執筆:zash)

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