【イギリス総選挙2024】「ウクライナ戦争を挑発したのは西側」と 新党代表のファラージ氏

ベッキー・モートン 政治記者

7月4日に行われるイギリス総選挙に、新党「リフォームUK」を率いて出馬しているナイジェル・ファラージ氏は21日、ロシアによるウクライナ侵攻を「挑発」したのは西側諸国だと述べた。BBC番組で発言した。

ファラージ氏はそのうえで、ウクライナでの戦争は「もちろん」、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領のせいだと述べた。

しかし、欧州連合(EU)と北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大がプーチン氏に、国民に対してウクライナ侵攻を正当化できる「理由」を提供してしまったと、指摘した。

司会者のニック・ロビンソン元BBC政治編集長は、かつて独立党(UKIP)党首や欧州議会議員を務め、イギリスの欧州連合離脱(ブレグジット)を強力に推進したファラージ氏に対し、これまでの発言や姿勢などについて質問を重ねた。

中でもロビンソン氏は、ファラージ氏がかつて2014年に「最も尊敬する世界の指導者」としてロシアのプーチン大統領を挙げたことについて尋ねた。

それに対してファラージ氏は、「自分が言ったのはこういうことだ。人間としては嫌いだが、ロシアの統治をこなしているので、その政治手腕は尊敬していると言った」のだと答えた。

ロビンソン氏はさらに、ロシアがウクライナ侵攻を開始した2022年2月24日の時点で、

に「EUとNATOの拡大の結果だ」と書いたことについて質問した。

ファラージ氏はこれに、自分は1990年代からずっと、「NATOとEUのどこまでも続く東方拡大」を問題視していたと主張。プーチン氏が国民に「あいつらがまたこっちに向かってくる。戦争を仕掛けてくる」と訴えられる「理由」を、NATOとEUの東方拡大が与えてしまったのだと述べた。

「この戦争を挑発したのは私たちだ。もちろん、それは(プーチン大統領の)せいだ」と、ファラージ氏は付け加えた。

このインタビューに対し、与党・保守党のジェイムズ・クレヴァリー内相は、「ウクライナへの残虐な侵略を卑劣に正当化する、プーチンの言い分を繰り返している」とファラージ氏を批判した。

最大野党・労働党のジョン・ヒーリー国防担当報道官は、ファラージ氏の発言は「議会でまともな政党を率いることはおろか、この国の政治におけるどのような役職にもふさわしくない」と述べた。

また、ファラージ氏の主張に対して、ジョージ・ロバートソン元NATO事務総長も「クレムリン(ロシア大統領府)の言い分をオウム返し」していると批判。「一方的で残酷な攻撃に対する、新しい言い訳」だとした。労働党の下院議員だったロバートソン氏は、2000年からロバートソン卿として労働党の上院(貴族院)議員となっている。

ファラージ氏はBBCインタビューの中で、ロバートソン卿がかつて、EU拡大が戦争の原因だと同意していたと主張した。

これについてロバートソン卿はBBCラジオ4の番組で、自分はそのような発言はしていないとして、ファラージ氏の言い分は「全くのナンセンス」だと批判。

「私たちがロシアを挑発したなどと言うのは、たとえるなら、防犯アラームを買うと泥棒をなにかしら挑発してしまうと言うようなものだ」と述べた。

ベルギーの著名な欧州議会議員で、ファラージ氏をしばしば批判しているヒー・フェルホフスタット氏も、ファラージ氏が「クレムリンの定番の言い分」を繰り返していると非難した。

「欧州議会でファラージは、常にプーチンを擁護していた」、「モスクワはファラージへの票をすべて祝っている」と、フェルホフスタット氏は述べた。

ロシアは2014年にウクライナのクリミア半島とドンバス地方を占領。さらに2022年2月に、ウクライナへの全面侵攻を開始した。

ウクライナはEUやNATOに加盟していないが、ロシアの侵攻を受けて、両方への加盟を申請した。

1949年にアメリカ、イギリス、カナダ、フランスを含む12カ国で結成されたNATOは、1991年のソヴィエト連邦崩壊後にハンガリー、ポーランド、エストニアなど多くの東欧諸国が加盟。現在は32カ国からなる軍事同盟となっている。

EUも1990年代以降に拡大し、2004年には多くの東欧諸国が加盟した。

ブレグジットめぐり保守党を批判

ファラージ氏はインタビューの中でさらに、保守党がブレグジットを実現できていないと非難した。

ブレグジットの是非を問う2016年6月の国民投票では、ファラージ氏はUKIP党首としてEU離脱キャンペーンの立役者の一人だった。

2019年の総選挙では、保守党を率いるボリス・ジョンソン首相(当時)が 「ブレグジットをやり遂げる」というスローガンを掲げて選挙戦を展開した。しかし今回の総選挙では、ブレグジットは主要な争点になっていない。

「ブレグジットは失敗した」という自身のかつての主張は変わらないのかと質問されると、「失敗ではないが、実現しなかった」とファラージ氏は答えた。

「失敗であるはずがない。私たちはEUを離脱した。今では自治がある」としたうえで、ファラージ氏は「EUを離脱すれば移民が減ると信じて投票した、そういう人たちをブレグジットは裏切っている」と述べた。

イギリス在住のため来る移民の人数からイギリスを離れる移民の人数を引いた純移動の数は、イギリスがEUを離脱した2021年以降、急増している。これは、EU圏外からイギリスに来る人数が急増しているため。純移動の数は2022年にかつてない水準に達したが、翌年にはわずかに減少した。

ファラージ氏が率いる新政党リフォームUKは、住宅や公共サービスの逼迫(ひっぱく)を緩和し、賃金を上げ、「我々の文化的アイデンティティーと価値観を守る」ため、不要不急の移民受け入れ凍結を支持している。

ファラージ氏はまた、4000件のEU法を廃止するという公約を保守党が「捨てた」と批判した。

他人の批判しかしていないのではないかと問いただされると、ファラージ氏は「私に仕切らせていれば、まったく違う事態になる。だからもちろん、(保守党が)そうするはずもなかった」と答えた。

「保守党は結局、ブレグジットをまったく信じていなかった(中略)保守党はブレグジットを政治的なチャンスとして取り上げたが、その実現に失敗した」

気候変動について「騒ぎすぎ」

BBC番組はまた、気候変動は実際には「危機」ではないと考えているのかを含め、気候変動についてのファラージ氏の姿勢も質問した。

「1980年代後半から、この件についてはいささか騒ぎすぎな面もあったかもしれないと思う。騒ぎ立てるのは間違っているかもしれないと思う」とファラージ氏は答えた。

「なんて恐ろしいんだと、そういう話ばかりして、解決策の話をしていない」、「自分たちに何ができるか現実的かつ論理的に考えるよりも、問題について騒ぎ立てるばかりだ」などと、ファラージ氏は主張した。

ファラージ氏は、温室効果ガスの排出を正味ゼロにすることを目指す、労働党と保守党のネットゼロ政策を「ナンセンス」だと一蹴。気候に関する両党の公約を中止すれば、年間300億ポンドの節約になると主張した。

リフォームUK関係者の問題発言

リフォームUKの関係では、同党から出馬予定だった複数人が不適切な発言や攻撃的な発言を問題視され、公認を取り下げられている。同党はこれは、立候補予定者の身元調査を依頼した会社が、適切な身元調査を怠ったからだと、その会社を批判している。

これについて番組司会のロビンソン氏は、極端な思想や考え方の人がファラージ氏に賛同して集まりがちなのではないかと質問。これにファラージ氏は、「そういう人たちは、私が理由でやってくるわけではない」と答えた。

ファラージ氏はリフォームUKの共同設立者で名誉会長だが、「私は3年以上、党の日々の運営にはまったく関わっていない」と主張した。

問題となった候補については「自分が党で積極的な役割を果たすと言う前に、集められた」人たちだとした。

総選挙が5月22日に発表されるまで、リフォームUKの代表はリチャード・タイス氏だった。ファラージ氏が代表になったのは6月3日。それまで今回の総選挙には出ないと言っていたファラージ氏は、代表就任の発表とあわせて、南東部クラクトン選挙区から出馬すると発表した。

(英語記事 West provoked Ukraine war, Nigel Farage says

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