負傷ムバッペを温存したフランス、オランダに勝ちきれなかった理由【ユーロ2024】

アントワーヌ・グリーズマン(左)イェルディ・スハウテン(右)写真:Getty Images

6月15日から行われているUEFA欧州選手権(ユーロ2024)。22日にドイツ、ライプツィヒのツェントラールシュタディオンでは、グループDのフランス代表とオランダ代表が対戦した。かつて名古屋グランパス(1995–1996)やアーセナル(1996-2018)で指揮したアーセン・ベンゲル氏(FIFAテクニカルグループ)も視察した。

フランスでは、オーストリア代表との初戦(17日1-0)で鼻を骨折した主将のFWキリアン・ムバッペ(レアル・マドリード)の状況が懸念されていた。フェイスガードも用意されたが、ディディエ・デシャン監督は先発で起用せず。キャプテンマークはFWアントワーヌ・グリーズマン(アトレティコ・マドリード)が巻くことになった。

結果は0-0で終了。両チームとも勝点4としながら、グループDでは得失点差でオランダが首位、フランスが2位となった。試合を振り返り、状況を分析してみよう。


テオ・エルナンデス(左)ジェレミー・フリンポン(右)写真:Getty Images

互いに攻め合うも決定打が繰り出せない前半

フランス対オランダ。試合は1分に、オランダのDFジェレミー・フリンポン(バイエル・レバークーゼン)が右サイドからディフェンスラインの裏に抜け出しシュート。フランスのDFテオ・エルナンデス(ミラン)が対応しCKに。4分に、フランスは左サイドで落としたボールをグリースマンがシュートもCKに。

14分、フランスはFWマルクス・テュラム(インテル)、MFアドリアン・ラビオ(ユベントス)とつながりグリースマンがシュートか、というところで足を滑らせてジャストミートせず。倒れたままもう一度シュートも力が入らなかった。同分、深い位置でFWウスマン・デンベレ(PSG)がポストプレーをして落としたボールをMFエンゴロ・カンテ(アル・イテハド)が前方にパスし、グリースマンが再びシュートも枠を外れる。

16分、オランダはFWコーディ・ガクポ(リバプール)が左サイドからカットインして右足シュートもGKがファーポストに逃れる。

28分、フランスはDFジュール・クンデ(バルセロナ)のスルーパスに反応したテュラムがディフェンスラインの裏で受けると右足でシュートも枠右上に外れる。

36分には、中盤でドリブルするデンベレのボールを奪ったオランダのMFシャビ・シモンズ(ライプツィヒ)が中央をドリブルからシュートもGKがセーブ。

43分にフランスはラビオが左サイドからクロスし、中央のグリースマンが頭で合わせるもゴールならず。お互いに攻め合った前半は、フランスがやや優勢に進めたが0-0で試合を折り返した。


シャビ・シモンズ 写真:Getty Images

フランスが攻勢を強め、オランダがあわや先制

後半、フランスはさらに攻める。51分にデンベレがミドルシュートもディフェンダーがブロック。52分には、カンテがドリブルで相手をいなしてロングシュートも枠から外れる。

60分には、テュラムがゴール正面でボールを受けると右足で低い弾道のシュートもゴール左に外れる。63分には、右サイドからデンベレのクロスにオーレリアン・チュアメニが頭で合わせるもクロスバーの上に外れる。

65分、フランスに大きなチャンス。グリースマンが出したボールはゴール前の細かいパスワークを経て戻ってきたところにシュート。しかしオランダはCKに逃れる。68分にはデンベレが切り返しから左足でシュート。これもクロスバーの上に外れる。

得点が入りそうな雰囲気が漂うなか、逆にオランダに先制点かと思われた。69分、左からの攻撃でFWメンフィス・デパイ(アトレティコ・マドリード)がゴール至近距離でボールを受けると振り向きざまにシュートし、GKが止めて跳ね返ったセカンドボールをシモンズがシュート。

しかし、VARでGKの眼前にいたDFデンゼル・ダンフリース(インテル)がオフサイドとなりノーゴール。結局、シモンズはこれが最後のプレーとなり失意のまま交代となった。79分にも、オランダは右CKに主将フィルジル・ファン・ダイク(リバプール)が頭で合わせるもゴールならず。

試合終盤になるとフランスのムバッペがベンチから立ち上がり、戦況を心配そうに見つめるシーンもみられた。91分にはペナルティボックスでボールを受けたカンテがシュートも、オランダの複数選手が体を寄せてブロックしCKに。試合はそのままスコアレスドローに終わった。

マルクス・テュラム 写真:Getty Images

攻撃回数とシュートはフランスが倍以上

試合のデータは、ボールポゼッションがオランダの42%に対してフランスが58%。攻撃回数は、オランダの26回に対してフランスが57回。シュートは、オランダの7本に対してフランスが16本と、フランスが優勢に進めたが得点はならなかった。

理由としては、絶対的なエースであるムバッペが出場しなかったこともある。しかし両チームとも初戦に勝利しており、この試合で引き分けに終わっても十分に決勝トーナメント進出に向けて前進であり、大きなリスクを冒してまで無理な攻撃をすることはなかったことが挙げられる。

守勢にまわりがちだったオランダとしては勝点1を積み上げたことは大きな成果だ。フランスとしては勝ちきれなかったことが悔やまれるが、悲観的な状況ではないだろう。


エンゴロ・カンテ 写真:Getty Images

カンテは小柄なMFのお手本

この試合、フランスのMFエンゴロ・カンテ(アル・イテハド)は冴え渡っていた。身長169cm、体重68kgと平均的な日本人とほとんど変わらない体格で、33歳とベテランの領域に達していながら、高いアジリティを維持しておりプレーの嗅覚が鋭い。

重要な局面でいたるところに顔を出して、攻守においてフランスのゲームの軸となっていた。これぞ「ボックストゥボックス・ミッドフィールダー(攻守に幅広く動く運動量豊富なMF)」だ。

小柄ながら、大男たちが体をぶつけ合って戦うイングランドのプレミアリーグでチェルシー(2016-2023)のMFとして長年プレーした実力は伊達ではない。

© フットボール・トライブ株式会社