痛いほど高くついたスイスでのオーバーステイ

ポオルニーマ・デヴィ・ブジュンさんはチューリヒ空港に数時間滞在しただけで350フラン(約6万円)の罰金を科された (KEYSTONE/KEYSTONE/Ennio Leanza)

トランジットでチューリヒ空港に降り立ったあるカナダ人旅行者が、ビザ(査証)が1日前に失効していたために350フラン(約6万円)の罰金を科された。この地元警察の措置に、移民局はもっと寛容な対応でも良かったとしている。

「本当に意地が悪い罰金で、スイスに苦い思い出が残りました」。38歳のカナダ人、ポオルニーマ・デヴィ・ブジュンさんはスイス当局に対し、そう憤る。

チューリヒ警察はブジュンさんがスイスに不法滞在したとして、350フランの罰金を科した。3月15日、モントリオールの自宅郵便受けに封書が届いたという。

ブジュンさんがスイスを訪れたのは昨年10月。ドイツで3カ月の休暇を過ごし、カナダに戻る前にモーリシャスにいる家族を訪ねる予定だった。ブジュンさんはライプツィヒ発チューリヒ経由の飛行機に乗った。

高くついた誤算

チューリヒ空港の入国審査を担当する州警察がブジュンさんのパスポートをチェックしたところ、ヨーロッパ27カ国に90日間滞在できるシェンゲンビザの有効期限が切れていた。

「もちろんルールを守るつもりでした。でも、計算ミスで1日オーバーしていたんです。90日というのは3カ月だと思っていて、1カ月を31日と計算していなかったんです」

ブジュンさんは警察に自分の手違いを説明しようとしたが、無駄だった。警察は態度を変えず、罰金処分を科した。

「私は故意ではないと説明したのですが、配慮してくれませんでした。(警察は)法律の条文を厳格に適用したのです。たった1日のオーバーステイで犯罪者のように扱われたと感じました」

ブジュンさんは、入国審査官は「分別を持って」法律を適用すべきだったという。

「『次回はもっと気をつけて、またスイスに来て下さいね』と言うこともできたはず。カナダの文化なら、人と接するときにはもっと敬意を払いますよ」

スイスで同じような経験をした旅行者が何人いるかはわからない。連邦税関・国境警備局(FOCBS)の統計では、ビザの期限切れによる不法滞在は個別に集計されていない。個別にカウントされているのは不法滞在だけで、2023年は5万人強だった。

厳格な適用と寛容の間

確かなことは、チューリヒ州警察は軽微な法律違反には寛容ではないということだ。

州警察のケネス・ヨネス広報官はswissinfo.chに対し「国境検問を行う際には、シェンゲン協定を遵守する義務が我々にはある。例外は認められない」と話す。

しかし、チューリヒ州警察の厳しさはスイスの「標準」ではない。複数の情報筋によると、ジュネーブは特別なケースにはある程度の柔軟性を持って対応している。移民関連担当の連邦移民事務局(SEM)すら、一定の許容範囲を認めている。

SEMのマグダレナ・ラスト報道官は「それぞれのケースは管轄当局によって個別に審査される。許可された滞在日数の超過が1日だけだった場合や、健康上の理由やフライトのキャンセルでシェンゲン協定加盟国を出国しなかった場合などは、当然考慮の対象となる」と文書で回答した。

3種類の制裁

ブジュンさんはまた、自らが犯した不法行為と罰金の額が釣り合っていないと訴える。

「最初は、完全にアンフェアなので罰金は払わないつもりでした。でも、それが今後シェンゲン協定加盟国でトラブルになっては困るので、罰金は払います」

罰金の額の正当性について、チューリヒ州警察が出してきたのはまたしても規則だった。

「検査は連邦外国人法に基づいて実施され、罰金の額は(空港が属する)ビューラッハ自治体によって決められる」とケネス・ヨネス広報官は言う。

しかし、ブジュンさんは、次のヨーロッパ旅行で不安になる必要はない。SEMが説明するように、オーバーステイには3種類の罰則がある。ブジュンさんのような軽微なケースでは、該当者は国境で直接、あるいは州担当局を通じ罰金を科される。

重犯罪の場合はSEMに事案が付託される。SEMはこの時点で、スイスへの入国を禁止する可能性を検討する。状況によってはそれがシェンゲン協定加盟国全体に拡大することもある。その他の事案は場合によっては州検察庁に直接送致され、検察庁は不法滞在者に対する処分を決める。

このため、ブジュンさんが将来シェンゲンビザを取得する際は何の問題もないはずだ。オーバーステイ防止のため、欧州評議会のウェブサイトにはビザの滞在可能日数を計算できる機能がある。

しかし、ブジュンさんはすでにスイスを旅行先リストから外した。スイスは自身の中では「厳格で無礼な文化」の国というイメージに変わった。

「罰金の通知を受け取った後に飛行機に乗ろうとして、スイス政府観光局の大きなポスターが目に入りました。そのとき心に誓ったんです。もう二度とスイスには行かない、って」

英語からの翻訳:宇田薫、校正:大野瑠衣子

© swissinfo.ch