世界一の靴磨き職人「1人でも多くの人が靴に興味を」 美しく磨きあげる技に海外から訪れる人も【福岡発】

福岡にある靴磨きの専門店に、2024年の世界大会で優勝した靴磨き職人がいる。「福岡の方に育ててもらった」と話す職人は、福岡で多くの靴に触れたことが、世界チャンピオンになる礎だという。

周囲が映り込むほどの技術

福岡市中央区に靴磨きの専門店「ボストン&リオールズ」がある。店で磨く靴は、1カ月に500足ほどであり、スニーカーや女性の靴も含め、幅広く対応している。

仲間とともにこの店を切り盛りするのが西上悦弘さん(32)だ。店内には世界大会で優勝した靴が飾られている。

イギリス・ロンドンで行われた靴磨き世界大会の決勝戦で、新品の靴を20分の制限時間内にいかに美しく磨けるかを競い、2024年のチャンピオンに選ばれた西上さん。「ようやく皆さんに恩返しできたという気持ちでした」とそのときの気持ちを振り返る。

磨き上げられた西上さんの靴は、周囲の建物が映り込むほどだった。

またとない機会だということで、取材したアナウンサーの靴も世界一の靴磨き職人に見てもらった。

「結構履いてますね」と西上さんは言う。購入して5年。履きやすいため愛用していたせいもあってか、つま先にはシミや汚れがあり、かかと部分は一部、白くなっている。

シャカシャカとブラシで埃(ほこり)を落とし、クリーナーで汚れを取る。その後、シアバターや蜜蝋(みつろう)でできたクリームを塗り込んでいくのだが、「指の熱で温めながら塗った方が、より皮の中に浸透する」と西上さんは直接、指でクリームを塗り始めた。シワになっていたり、乾燥していたりする部分を中心に感触を確かめながら染み込ませる。

次に、ワックスで光沢を出す。つま先やかかとなど、光らせたい部分に重点的に塗り込んでいく。「つま先から光沢がグラデーションになっていくのも、靴がより格好よく見えるポイント」とブラシで光沢のグラデーションがより自然に見えるように整える。

5年使い続けてシミや汚れのあったつま先も、白くなっていたかかともピカピカになった。

寝てる間に靴がきれいになる文化を

“靴好き”だったという母親の影響で、自然と靴が好きになったという西上さんは、スニーカーなど、自分だけの1足を買ってもらうことが何より幸せだった。

学生時代に靴の販売店でアルバイトをしていたとき、「サイズが合っていればいい」と簡単に購入していく客に強い違和感があった。

ワクワクして靴を買っていた自分とは全然違う買い方をされているのを前にして、「もっと靴に興味を持ってほしい。大事にしてほしい」と、西上さんは靴磨き職人の道を歩み始めたのだ。

西上さんは、福岡の地で多くの靴に触れたことが、世界チャンピオンになる礎となったという。
店舗での仕事を終え、この日はホテルでの“出張靴磨き”にいく。深夜に宿泊者の靴を預かり、朝までに仕上げるのだ。

「福岡のホテルに泊まったら、靴が寝てる間にきれいになるっていう文化を作りたい」と9年前から始めている日本で唯一のサービスだ。当初、提携するホテルは5軒ほどだったが、西上さんの仕事ぶりが徐々に評判を呼び、今では約40軒にまで増えた。

毎日のように深夜の作業が続くが「翌朝、お客さまが、僕が磨いた靴を受け取ったときに、『驚いてるかな』とか、『うれしい気持ちになっているかな』とか、そういうのを思い浮かべながら磨いてますね」と屈託ない笑顔で話す。

「技術をもっと多くの人に」

さらに西上さんの出張サービスはホテルだけに留まらない。ホテル以外の出張先は約30軒。この日訪れたのは、1カ月に1度ほど訪れる車の販売店だ。

「世界一になってくれたのは自分のことのように嬉しい。これからもどんどん活躍してほしいなって思います」と客も手放しの喜びよう。世界大会優勝以降、西上さんに靴を磨いてもらうために海外からわざわざ福岡までやって来る外国人客もいるという。

「福岡の方に育ててもらったっていうのは絶対、忘れたくないんで、この活動を続けつつこの技術をもっと多くの人に提供していきたいと思います」と西上さんは熱く語った。

(テレビ西日本)

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