【インタビュー】吉柳咲良、デビュー作「Pandora」に溢れ出る表現「アーティストと俳優、両方存在することでメンタルを保てる」

吉柳咲良が4月21日、1stデジタルシングル『Pandora』をリリースした。2017年夏、ミュージカル『ピーター・パン』にて歴代最年少タイの13歳で10代目ピーターパン役として初舞台・初主演を飾った経歴を持ち、昨今では朝ドラ『ブギウギ』での水城アユミ役としても話題となった俳優・吉柳咲良のアーティストデビュー作の完成だ。

果たしてアーティストデビューを飾った「Pandora」はどんな1曲になったのか。「自分の内側から出るものを表現したい」と気付いたアーティストへの憧れ、「ネガティブは悪いことじゃない」と考える吉柳咲良だからこそ生み出された「Pandora」。その制作時のエピソード、アーティスト活動の立ち位置などについて語ってもらった。

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■歌だけは私が人生の中で■熱心に努力してこれたものの1つ

──アーティストデビューおめでとうございます。

吉柳:ありがとうございます。実は女優になりたいと思う以前は、歌手になりたいと思っていたので、念願叶って、という感じです。しかも「Pandora」のような楽曲でデビューできたことが嬉しいです。私が表現したかった系統を汲み取っていただきました。

──そもそも歌手になりたかったのはなぜですか?

吉柳:幼稚園の頃なので漠然とですけど。当時はAKB48の神7の時代だったので、お遊戯会で「会いたかった」をみんなで踊ったりしてました。もともと人前に立つのが好きだったので、ステージで歌ったり踊ったりする人っていいなと憧れていたんだと思います。カラオケに行くのも大好きで、小さい頃から母と一緒にカラオケに行ったり、車の中で歌っていたので、常に音楽がそばにある生活でした。

──ちなみに、カラオケでよく歌っていたのは?

吉柳:今もそうですが、椎名林檎さんや宇多田ヒカルさんを歌うことが多いです。椎名林檎さんは母が運転する車で流れていた曲を聴いているうちに、私もどんどん好きになっていきました。宇多田ヒカルさんは、恐縮なのですが「声が似ているね」と言われたことがありまして。それで宇多田ヒカルさんの曲を歌えるようになりたいなって思ったのがきっかけです。宇多田ヒカルさんも椎名林檎さんも、紡ぐ歌詞がすごく好きで、昔からずっと聴いてました。

──同世代のアーティストからの影響もありますか?

吉柳:最近だと、ちゃんみなさんの考え方や曲に込める思い、その伝え方がすごく好きです。 言葉の力を歌詞から感じるんです。また、Adoさんの、内側から出る底知れないパワーを表現するところに憧れます。あれだけがなりながら張り裂けそうな負の感情を歌にできるのは本当にすごいなと思います。説得力が強くて、そのパワーが大好きです。

──Adoさんの登場は衝撃的でしたね。

吉柳:ボカロ曲のカバーを歌っているときから聴いていたんですけど、原曲のボカロの声では出てなかったような“人間が表現したらこうなる”っていう感じを的確に歌い上げるのが本当に素晴らしくて、 毎回感動しています。たとえば「乙女解剖」「コールボーイ」などは、Adoさんが歌ってるカバーをひたすら聴いています。

──話が前後しますけど、女優になったのは?

吉柳:やっぱり歌と同じように、小さい頃から芸能界に入りたいっていう夢が漠然とあって。TVドラマもよく観ていたんです。ドラマ『リッチマン、プアウーマン』の石原さとみさんがすごく好きで、“私、さとみさんみたいな女優さんになりたい”と思ったことがきっかけです。小学校6年生の時に、『ホリプロタレントスカウトキャラバン PURE GIRL 2016』というオーディションがあって、そのときの表紙が本当にタイミングよく石原さとみさんだったんです。絶対にオーディションを受けようと決めて、結果、グランプリをいただくことができました。

──オーディションの翌年にはミュージカル『ピーター・パン』の10代目ピーター・パン役が決定していましたから、急激な環境の変化もあったでしょうね。女優として演技をきわめつつも、ゆくゆくはアーティストデビューをしたいという気持ちもありましたか?

吉柳:そのときはそんなに深く考えてなかったですけど、高校を卒業したぐらいのタイミングで、“やっぱり歌が好きなんだ、私”って思ったことがありました。

──高校卒業って1年前ですよね?

吉柳:そうです。それまでミュージカルを経験させていただいたり、ドラマに出演したりする中で、役を通して演じることももちろん楽しいけど、自分自身というものを表現することや、私が好きなもの、やりたいことを発信できる場所があるのっていいなって。それを唯一表現できた場所がSNSだったんですが、高校を卒業したあたりぐらいからは、歌をやりたいって思うようになったんです。

──歌を通して、自分を表現したいという思いが強かったんですね。

吉柳:きっと自分の内側から出てくるものが好きなんです。楽器に興味を持った時期もあってギターを弾き始めたんですけど、上手にできなくて諦めてしまって。ただ、歌だけは私が人生の中で熱心に勉強して努力してこれたものの1つだったなと思います。年々、ミュージカルの演出家の方や先輩方から「歌、上手くなってきたね」って褒めていただいたのが心の支えになったというのもあります。

■もともとのネガティヴな感情が■役柄や楽曲に繋がったのなら結果オーライ

──デビュー曲『Pandora』は、楽曲制作を手掛けたRyosuke “Dr.R” Sakaiさんと初めて会った日に作った楽曲だそうですね。

吉柳:スタジオでご挨拶だけ、という予定だったんですが、Sakaiさんが「せっかくだし、試しに作ってみる?」と言ってくださって。ご挨拶するだけでも、すごく緊張していたので、何が何だかという感じでした。最初に「どういうことを考えているのか」と聞かれたので、私が普段から気持ちを歌詞のように書いているノートを見ていただいて。「意外とこういうことを思ってるんだ!? 面白いね」と言われたのを覚えています。それから「今日の気分は?」と聞かれて「LOWです」って答えたことも。

──はははは。

吉柳:そのあとで、普段はどういう曲を歌っていて、どういうダンスを習っているか、いろいろな映像を見ていただいたところ、「こういうことができるんじゃないの?」と、私が好きな系統の音楽を汲み取ってくださった曲を提示してくださいました。実際に作業を見させていただいたのですが、トラックができるまでがめちゃくちゃ速くてびっくりしました。

──そこで曲の方向性が決まったのですね。

吉柳:はい。正直、どういう方向性でいくかは私もわかっていなかったんです。だけど、トラックができて音が入っていったときに、“これが1曲目でよかった”と思えました。全然私とは違う世界観の曲だった可能性も有り得たと思うんですね。でも、Sakaiさんが私の得意としていることや好きなことを汲み取ってくださったおかげで、結果として、自分が望む方向性でデビューできることになりました。

──レコーディング中に言われて心に残っていることはありますか?

吉柳:Sakaiさんから、「ネガティヴな感情。たとえば怒りとか、マイナスに捉えられそうな感情をちゃんと持っている人だから、それを全部曲に出してぶつけていい。その感情はアーティストとしてムダにならないから」って言っていただけたことです。それを聞いて「あ、取り繕った姿でなくていいんだな」と気づけたというか、恐怖心がなくなったんですよね。なにか案を出すときにも、“これは攻めすぎかな”と自分でいい塩梅を探ろうとせずに、“一旦出してみよう。無理だったら、それはそれで”と思えるようになったというか。

──マイナスな感情を持っている、という自覚は昔からあったのでしょうか?

吉柳:もともとネガティヴなので、自覚はめちゃくちゃありました(笑)。気持ちが落ち込んだときに、なんとか頑張って這い上がっていくというよりは、落ちるところまで落ちてみるタイプで。落ちることに対してダメなことだとは思っていないんです。それは、今まで演じてきた役柄が、何かネガティヴ要素を抱えてたり、マイナス面での振れ幅が大きかったことの影響もあると思います。そういう感情が役柄や今回の楽曲に繋がったのなら、結果オーライだなと。

──ご自身のことを俯瞰で見られていますね。

吉柳:自分がどういうことを考えて、どういうふうに生きてきたのか、そういったことを説明するのは得意です。自分の感情や気持ちの動きを言葉にするのが、すごく好きなんです。結果だけじゃなくて、スタート地点から、こういう経緯があって、ここに至りましたっていうところまでを大切にしています。それをアウトプットすることで、自分を理解していくことができると思っています。

──実際に楽曲「Pandora」を聴いて、非常に納得感のある曲だなと感じました。

吉柳:作詞でお世話になった麦野(優衣)さんには、「こういう言葉を使ってみたいです」とか「こういう雰囲気の曲が良くて、こんなことが伝えたいんです」とか、たくさんお話しさせていただきました。それを的確に汲み取ってくださって、こんなにも素敵に仕上げてくださったんです。Sakaiさんも麦野さんも、私のことをすごくわかっていただいてるんだなと感じました。

──「Pandora」を聴いた方からの反応で印象的なものはありましたか?

吉柳:「思ってたのと違った」とか「女優さんがアーティストとしてデビューするときに、こういう感じでくる人もいるのか」という声はたくさん届きましたね。

──意外だったという反応ですか。

吉柳:ただ、私の仲の良い友達は「めっちゃ咲良っぽいね!」とか「咲良のやりたかったことができてるね」って喜んでくれて。どちらの声もすごく嬉しかったです。

──アーティストとしてはもちろんミュージカルも、歌うということでは同じではありますよね。とはいえ、気持ちの作り方などは違うものでしょうか?

吉柳:違いますね。今回は、わりと自分の歌い方のクセや声を活かして、そのまま歌えました。

──「自分の内側から出てくるもの」を大切に歌ったということですね。

吉柳:一方で、ミュージカルのときは役柄を通しているので、その役の心情をどれだけセリフみたいに歌で伝えることができるかが重要視されているんですよね。例えば今、『ロミオ&ジュリエット』のジュリエット役を演じてますが、「ジュリエットは本当にピュアで可憐な少女だから、しゃくったりするとピュアに聴こえない」と指摘していただいて。できるだけ、自分のしゃくりグセを抑えて、まっすぐに歌って届けるようにしています。あとは、どれだけ子音を立てるか。技術的なことですが、ミュージカルの場合は言葉が重要なので。

■自分であることが許されている感覚■救いのような場所だなと思います

──演技も歌もロジカルに分析されているんでしょうか。「自分の歌い方のクセや声を活かして、そのまま歌えた」ということですが、思いを歌にのせて表現するためには技術力って必要なものだと思うんですね。

吉柳:「Pandora」もまさにそうだと思います。椎名林檎さんとか宇多田ヒカルさんの歌い方…音符の切り方とか発声とか、“この言葉大切にしてるだろうな”みたいなことを想像しながらリスペクトを込めて分析しつつ、カラオケで歌うことが好きでしたし、歌ってみた動画もそういう気持ちでチャレンジしたんですね。そして今回、自分の曲を表現する時にどう歌うか、ということに向き合った「Pandora」も、模索しながら試しながら、いろいろな方に教わりながらでしたから。こういう遊びを入れてみるとか、この歌詞だからこそこう歌うみたいなのをレコーディングで考えたという意味では、ある意味、歌も演技も共通する部分があるんです。

──それこそ表現ですね。

吉柳:たとえば、歌詞の意味と自分の解釈を歌で一致させるという作業は、お芝居をやってきたからこそわかるということは、今回すごく思いました。カメラの前でどう表現していくか、どう動くことでどう見えるのかみたいなものは、ドラマだったり舞台だったり、お芝居の立ち振舞から学んだことが多い気がしたので。だから繋がってる。だけど、それが役柄と、自分として歌うとなったときでは、立脚点から違うんです。

──では、演じることと歌うことは、吉柳さんにとって似ているものでしょうか? 似て非なるものでしょうか?

吉柳:私は吉柳咲良として生きる時間っていうものも一種の役だと感じているタイプなんです。稽古場にいるときの私と、家にひとりでいるときの私は別ですし、一緒にいる人が変われば私も変わるんですよね。そういう演じている感じは、アーティストとして歌うときには、まったくないんです。“こんなにも今、自分のマイナスを隠そうとしなくていい場所があるんだ”とか“受け入れてもらえるんだ”と思えたというか。「Pandora」をリリースした今も、それを受け入れてもらえている気がして、無理なくいられるんです。

──なるほど。

吉柳:自分であることが許されている感覚になるというか。そういう意味では、救いのような場所だなと思います。私が私を演じなくていい場所はアーティストのほうで、俳優活動は当然演じることが求められるし、そうあるべきであることを自覚して楽しめている場所。今、そのどちらも存在することで、私のメンタルが保たれてる気がします。

──これからのアーティストとしての活動がますます楽しみです。

吉柳:ありがとうございます。いつかはK-POPのように歌って踊りたいなと思っているんです。昔からダンスを習っていて、踊ることも自分自身を表現する活動のひとつだと思っているので。自分の中に取り入れることで、より表現の幅を広げていきたいです。

取材・文◎於ありさ
撮影◎野村雄治

■アーティストデビュー曲「Pandora」

2024年4月21日(水)配信開始
配信リンク:https://kiryu-sakura.lnk.to/pandoraPR
作詞作曲:Ryosuke Sakai, Sakura Kiryu, Yui Mugino
プロデュース: Ryosuke “Dr.R” Sakai

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