中村佳穂 死者と向き合う納棺師に「人の役に立つ、という気持ちだけでは到底成し遂げられない」

中村佳穂さんが、『ザ・ノンフィクション「おくりびとになりたくて ~大切な誰かと別れるとき~」』)(6月23日14時~/フジテレビ※関東ローカル)のナレーションを担当します。

収録後には、今回が初『ザ・ノンフィクション』となった中村さんにインタビュー。

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“おくりびと”と呼ばれる納棺師の世界へ48歳で飛び込んだ女性や、納棺師の仕事に対する印象、「(原稿に)音符をメモした」という、ミュージシャンならではの収録などについて聞きました。

納棺師を志したシングルマザー 納棺師を志したシングルマザー 父の病状を知らされ…

“おくりびと”と呼ばれる仕事があります。

通夜や葬儀の前に、遺族の目の前で亡き人の状態を整え、棺に納め、お別れの時間を作る納棺師たち。

家族だけで故人への思い出や悲しみを分かち合い、死を悼む時間として…近年、納棺師が執り行う「納棺式」の需要が高まっているといいます。

そんな“おくりびと”になることを志し、17年勤めた会社を辞めた陽子さん(48)。

納棺師を育成する「おくりびとアカデミー」に入学し、遺体を扱う技術や知識、別れに寄り添うための心構えを半年間にわたって学びます。

シングルマザーとして2人の娘を育ててきた陽子さん。ずっと娘たちのために働く人生でしたが、48歳になり納棺師を目指すようになりました。

きっかけは、母の葬式で見た納棺式。生前の母に尽くせなかった後悔や無念を抱いていましたが、納棺師がつくる“別れの時間”で、心が洗われる思いだったといいます。その時の体験から「自分も納棺師になりたい」と決断。

アカデミーを卒業し、納棺師として働き始める陽子さん。

来る日も来る日も、人の死に立ち会い、家族の悲しみと愛を感じているなか、故郷・北海道の父の病状が思わしくないという知らせを受けます。納棺師になった自分が、愛する家族と別れるときに何をするべきか。

“おくりびと”を志した1人の女性の、揺れる心を見つめました。

<中村佳穂 インタビュー> <中村佳穂 インタビュー>

――ナレーションを読み終えての感想を聞かせてください。

陽子さんの人生をちょっとだけ伴走できた気持ちになれて、光栄だなと思いました。

――納棺師に対してどんな印象を持ちましたか?

「人の役に立つ」という気持ちだけでは、到底成し遂げられないと感じました。

納棺師の方は毎日毎日、人の死に立ち会い、いろいろな思いを抱える家族に接していますが、それでも「何度も経験しているから大丈夫」とはいかない、強い覚悟が必要な仕事であると改めて感じました。

――もっとも印象に残っているシーンを教えてください。

陽子さんがご自身のお父様の納棺式を執り行っているときに、集まった親戚や地元の方がちょっとずつ会話をする、あの何とも言えない“距離”です。私にもどこか覚えがあるなと思いました。

ちょっと場を和ませることを言いたいけれど、知らずに誰かを傷つけてしまうんじゃないかと思ったり、「ここは笑っていいのかな?」と様子を伺ったり。

他人というほどではなく、でもお互いを近くで思いやるあの距離感を見ていて、自分の記憶を思い出しました。

――今回の映像ではご遺体が映る場面もあり(注釈テロップが表示されます)、納棺師のリアルな仕事ぶりが垣間見えます。

映像を見ながら、生と死の間のラインはどこにあるのだろう、と考えました。魂が抜けた段階なのか、魂がなくなっても肉体がある限り死ではないのか…不思議な気持ちになりました。

ご遺体が映る場面は、たいていご遺族もいらっしゃいます。皆さんの会話から、故人の生前の付き合い方や人となりを感じられて、悲しいだけではなく、少しあたたかい気持ちにもなりました。

――シングルマザーとして2人の娘を育ててきた陽子さんは、17年勤めた会社を辞め、48歳で納棺師の道へ。新しい仕事に挑戦する陽子さんを見て、どんなことを感じましたか?

人生を切り替えるところが、すごいと思いました。想像ですが、きっと年を重ねると「今から勉強するとお金がかかるな」とか「周りの人になんて言われるだろう」とか、“切り替えなくていい理由”を探すようになってしまう気がします。

でも陽子さんは、母の葬儀で納棺師という職業を知り、自分で情報を調べて、納棺師を育成する機関に入学。

若い生徒さんたちと一緒にやっていけるか、卒業できるかという不安もあったと思いますが、それでも入学を決めた姿に、「私もそうありたい」と思いました。

原稿に「音符をメモ」声優の仕事で見つけた解決法 原稿に「音符をメモ」声優の仕事で見つけた解決法

――陽子さんは今まで仕事と子育てに全力で、子育てが終わって初めて、自分のやりたいことをやろうと思ったのかもしれません。

“自分のために生きる”となったら、私なら「クルーズ船に乗りたい」とか「世界旅行をしたい」とか考えてしまいそうですが。そうではなく、自分のためではあっても、誰かのサポートになるご職業を選んでいて、素敵だなと思いました。

私の家族、特に母も、人を支えることが生きるエネルギーになるタイプだと思います。外食したり、服や好きなものを買ったり、お化粧をしたりと、“自分のために贅沢をする”ことがほぼない。

陽子さんを見ていて「私の母にちょっと似ているかもしれない」と、シンパシーを感じました。

映像で「ご遺族が『良かった』って言ってくださるのって、(納棺師の)仕事をしている人は何にも代え難いと思う」とおっしゃっていた陽子さんを、母に重ね合わせて見ていました。

――ナレーションを読む際に意識したことはありますか?

『ザ・ノンフィクション』は、取材対象者を見守る力と俯瞰で捉える力、そのバランスが絶妙だと感じていたので、私もそこを意識しました。

感情に寄り添いすぎないように、できるだけ距離はとりつつも、身近な物語に感じていただけるようにと思いながら読みました。

――ナレーション原稿に、音符で何かメモを書いていたそうですね。

書きながら声に出ていたみたいで、知られると恥ずかしいですね(苦笑)。

たとえば 「もっと低い声で読んで」と指示されたときに、「低い」のレベルがわからなくなってしまうので、自分なりの基準として音符をメモしようと。音符なら音の高さが決まっているので、「今指示された『低い声』は、もっと低くしていいんだ」と、わかるんです。

――原稿に音符を書くのは、過去のナレーションや声優の仕事でも実践していたのですか?

実は、アニメーション映画『竜とそばかすの姫』(2021年)で主人公の声を担当させていただいたときに見つけた方法なんです。

その時は、台本の見方も持ち方もわからなくて、見よう見まねで挑みました。初日にご一緒した声優さんが台本にいろいろとメモを書き込んでいらっしゃるのを見て、「私もやらなきゃ」とたくさん書いて。でも翌日ご一緒した方は台本が真っ白で、「あれ?」と思ったり。

いろいろ探して見つけた、自分に合った解決法の1つが“音符を書く”でした。「音楽のように取り組もう」と思い始めたら、一気にやりやすくなって。このときの経験が今回の“語り”にも生きたと思います。

予告動画

YouTube「FUJITV GLOBAL CHANNEL」で、『ザ・ノンフィクション』の予告動画を配信中!6月23日(日)14時~「おくりびとになりたくて ~大切な誰かと別れるとき~」予告。

配信スケジュール

6月16日放送「声優になりたくて2 ~アヤの後悔しない生き方~」が、6月30日までTVerFODで無料配信中です。

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