『街並み照らすヤツら』正義へ想いを述べる彩 吉川愛が担うコメディリリーフとしての役割

みんなが幸せになれる“落としどころ”のようなものを探すため、前回商店街の面々や大村(船越英一郎)、光一(伊藤健太郎)に日下部(宇野祥平)と、関係者たちのもとを順々にたどりながら奔走していた正義(森本慎太郎)。その後の日下部とトミヤマ(森下能幸)の決闘であらゆることが吹き飛ばされる格好になったが、「恋の実」に帰ってきた正義は彩(森川葵)に自分の覚悟を伝える。それは彼女と離婚し、警察に自首をするということであった。

6月22日に放送された『街並み照らすヤツら』(日本テレビ系)は第9話。正義が選んだ“落としどころ”は、自分が商店街のみんなの罪をひとりですべて背負うことであり、すでに事件の全貌にたどり着いている澤本(吉川愛)はその供述にまったく納得がいかない(ちなみに日下部は前回のあれのせいで入院しており、保険も降りるからと優雅に入院生活を堪能している)。一方で、正義が自分たちのことを話すと不都合が生じると感じた光一は、弁護士の長谷(山崎静代)を買収して正義の口止めを図り、さらに荒木(浜野謙太)を甘い言葉でおだてるのである。

まず前回の「M」が流れる一連のシーンで、店先に立つ彩の姿を見かけて完全に敗北したような背中を見せた澤本が、いつも通りのトーンで戻ってきてくれたことは何よりである。正義から聴取するシーンでは資料を床に落とし、それを拾おうとして正義と手が触れるという古典的なシチュエーションが二度繰り返される。澤本はどちらも同じような動作を見せるわけだが、むしろ彼女が放つドギマギした空気に正義の方が呑み込まれているようで、二度目の時には思わず目を逸らし、何を言おうか迷った感じで日下部のことを訊ねるのだ。

ここである意味、このドラマにおけるラブストーリー要素の複雑化をわずかながら予感させておき、後述する終盤の裁判における彩と正義のやり取りをもって完璧に彼女の敗北が決まる。その落とし方も巧妙だが、やはり喜劇のなかのさらなるコメディリリーフとしての吉川愛の使い方は見事の一言に尽きる。そんな澤本が荒木に圧をかけるようにして、商店街の人々を集めて説得しようとする中盤のくだりも興味深い。なによりその空間に、言い出しっぺの澤本がやってこないという点も含めて。

前回も触れた“場”という考え方において、このビリヤード場は常々仲間同士が小競り合いを繰り広げる場として機能してきたわけで、光一の名前を出しながら商店街をもっと良くしていこうと説く荒木に、龍一(皆川猿時)をはじめとした店主たちが食ってかかるのは当然の流れだ。そこで繰り広げられるエキサイトのまっただなかに、生配信中に取り乱すように駆け出してきた莉菜(月島琉衣)が現れて感情を爆発させ、それに荒木も呼応。次のシーンでは保釈されてくる正義のいる警察署にドタバタと場を移し、そして主人公である正義が涙ぐむまでに繋げられる。

この感情的なスラップスティックの一連は、その後訪れる裁判シーン――ひとりひとりが証言台に立って、正義を救うための証言を繰り返し積み上げていくゆえ、定型的な動きしか与えられないシーンの前兆として格別な激しさといえよう。ところで、彩が正義への想いをひとしきり述べた上で離婚届を破り宙に放ち、落下してきたそれがカラフルな紙吹雪へと変換される大団円。そのショットに、どことなく前田弘二の『セーラー服と機関銃 -卒業-』のラストの歌唱シーンを思い出したが、今回は鯨岡弘識演出回だったようだ。

(文=久保田和馬)

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