医師が体験した「肺がんの予兆」咳が出るときがあったが、風邪や鼻炎と区別はつかず/杉山徹医師

聖マリア病院産婦人科主幹/元日本癌治療学会会長・杉山徹医師

ふだんは“宣告する側”である医師が、初めてがんになって感じたショックと不安。生還した今、「がんに気づいた瞬間」や、人生観について聞いた!

杉山徹医師(71)は、2010年5月に受けた職場健診で、肺に4cmのがんが見つかった。

前年に日本癌治療学会の会長を務めていた杉山医師自身が、がん患者となったのだ。

進行度はステージ2。5年生存率は約60%だ。医師とはいえ、平常心を保つことは容易ではなかった。

「振り返ってみると、咳が出るときがあった気もしますが、風邪や鼻炎との区別はつかない程度のものでした。その2年前にはPET−CT検査を受けており、がんはないという検査結果を信じていました」

がんの診断を受けて、杉山医師は当時の検査画像を取り寄せた。

「自分で見返してみると、2cmほどのいびつな影がありました。当時、PET−CTはまだ新しい検査法で、読影で見落としたのでしょう。ショックでした。ですが、自分のこれまでの仕事を続けたいという思いで、治療に気持ちを振り向けることにしました」

だが、杉山医師は多忙で、手術の日程を調整することも難しい状況。開胸と内視鏡を組み合わせた胸腔鏡下ハイブリッド手術を受けることが決まったが、手術までは約2カ月ある。

術後はしばらくリハビリで生活が制限されることもあり、杉山医師は気を紛らわせるためにゴルフへ出かけた。

「ドライバーを打ったとき、フォロースイングで左胸に痛みが走りました。それまで、ゴルフをしても痛みを感じることはなかったので、手術がまだまだ先であることに不安を覚えました。しかし冷静に考えると、僕自身も医師として、卵巣がんや子宮がんの患者さんに手術を2カ月以上お待ちいただくことがあります。がんの増殖には時間がかかり、通常は急激に大きくなることは稀です。私のがんも同様で、治療に問題はないと思い直し、落ち着くことができました」

手術は、お盆休みに無事に終了。杉山医師は、当時の勤務先に術後にがんであることを告げて、化学療法の計画を立てた。

「抗がん剤の副作用は耐えられる程度のものでしたが、髪の毛が7割くらい抜けてしまいました」

外来診療や医学生への講義を続けるため、杉山医師は病院と契約していた医療用ウイッグメーカーに相談したが……。

「オーダーメイドかつらを作ることになりましたが、その料金に驚きました。迂闊ながら、自分ががん患者にならないと知らなかったことでした。AGA(男性型脱毛症)とがん患者の料金が同じなのはおかしいと思い、メーカーに交渉したところ、以後、その病院のがん患者は2割引きになりました」

がんになり、医師として患者に寄り添うことの大切さをこれまで以上に感じたという。

取材/文・吉澤恵理(医療ジャーナリスト)

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