カンピロバクターは二次汚染にも注意 防ぐための下準備のポイントを栄養士に聞いた

トレーに入った鶏肉(写真はイメージ)【写真:写真AC】

暑くなってくると、気になるのが食中毒。鶏肉などについている細菌「カンピロバクター」による食中毒の患者数は近年、増加の傾向にあるそうです。細菌性の食中毒を予防するために「細菌をつけない、増やさない、やっつける」の3原則は知っていても、鶏肉を家庭で調理する際に、うっかり食中毒のリスクを高めていることも。鶏肉を調理する際に気をつけるべきことを、栄養士で元家庭科教諭の和漢歩実さんに伺いました。

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肉は中心部までしっかり加熱するのが鉄則

高たんぱく質で低カロリーなことから人気の鶏肉。食卓に並ぶ機会も多いでしょう。ただし、生の鶏肉の表面には、新鮮なものでも食中毒を起こす細菌・カンピロバクターがついている可能性があり、調理時に注意が必要です。

カンピロバクターは鶏に限らず、牛や豚などの動物の腸管内にもいる細菌です。とくに鶏肉に多いといわれ、少量の菌でも下痢、腹痛、発熱などの食中毒を起こします。重い症状を引き起こすこともあり、とくに免疫機能が低い子どもや高齢者、妊婦は気をつけましょう。

カンピロバクターによる食中毒を防ぐためには、鶏肉が生焼けにならないように、中心部までしっかりと火を通すことが重要です。カンピロバクターは火に弱い特徴があり、中心の温度が75度以上で1分間以上加熱することによって安全においしく食べられます。肉の中心部まで白くなったのを目安にすると良いでしょう。

カンピロバクターによる食中毒は、国内で発生する細菌性食中毒のなかで近年、発生件数が多い傾向にあります。厚生労働省によると2023(令和5)年度は年間で200件以上、患者数2000人程度で推移。調理以外のところで、うっかり細菌をばらまいてしまう二次汚染の可能性も考えらます。

水洗いで食中毒の菌がほかの食材に付着することも

鶏肉は、牛や豚と比べて水分が多いのでドリップが出やすく、トレーやパックなどに赤い液体が溜まっているのを見かけることもあるでしょう。ドリップは肉を切ったり、冷凍や解凍をしたりする際に細胞組織が壊れて、水分とともに栄養成分や旨味成分などが肉の内部から分離して出た液体。赤いので血液のようにも見えますが、ミオグロビンという色素たんぱく質です。流れ出たドリップは臭みの原因となり、時間が経つと細菌が発生しやすくなります。

そのため、鶏肉を買ってくると、ドリップなどが気になって調理前に水洗いしたくなるかもしれません。そのようなときは、洗わずにキッチンペーパーで拭き取り、使ったペーパーはすぐにビニール袋などに入れて捨てるようにしてください。

肉を洗うと、水しぶきと一緒に肉についている食中毒菌がシンク周りに飛び散ってしまい、近くにある調理器具やほかの食品に菌がついてしまうことがあります。カンピロバクターが鶏肉以外のものについて、それが原因で食中毒を引き起こすリスクが高くなるのです。冷凍する際はパックごと冷凍せずに、面倒でもドリップをキッチンペーパーなどで拭いてからラップをし、ジッパーつきの冷凍用保存袋に入れると良いでしょう。

同様に、鶏肉が入っていたトレーの扱いにも注意が必要です。ドリップをペーパーなどで拭き取ったら、いったんビニール袋に入れて、周囲のものに触れないように保管します。調理や食事などすべてが終わってから洗って、住んでいる地域の自治体に合った方法でリサイクル回収や処分をすると良いでしょう。ちなみに、肉の下に敷いてある白いシートはドリップを吸水し、鮮度を保つためのものです。

鶏肉の下準備の順番に工夫を

二次汚染を防ぐために、下準備する順番を工夫するのもポイントです。最初に生で食べる野菜や果物などの準備をし、肉とは離れた場所へ。肉は最後に切ります。まな板は両面を使い、肉・魚用と野菜・果物用などと分けて活用すると良いでしょう。

もちろん、鶏肉を触った手を洗わなかったり、鶏肉を切ったまな板でほかの食材を切ったりすると、カンピロバクター菌を広げてしまうおそれがあります。こまめな手洗いはもちろん、肉を切った調理器具は洗剤を使ってよく洗い、さらに熱湯をかけると間違いないでしょう。

下準備で鶏肉は水で洗わず、ドリップをペーパーで拭き取るなどし、周囲に菌を広げないように心がけてください。調理ではしっかりと火を通して、おいしく食べましょう。

和漢 歩実(わかん・ゆみ)
栄養士、家庭科教諭、栄養薬膳士。公立高校の教諭として27年間、教壇に立つ。現在はフリーの立場で講師として食品学などを教える。現代栄養と古来の薬膳の知恵を取り入れた健やかな食生活を提唱。食を通して笑顔になる人を増やす活動に力を注いでいる。

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