黄色い桶誕生から60年 銭湯を飛び出したケロリン!〝製薬企業ですから、桶で儲けたいわけでは…〟

さまざまなケロリングッズを展開中

はっきりとした黄色に、赤いインクで大きく書かれた4文字――。普段銭湯を利用しない人も「ケロリン桶」と聞けば、あの特徴的な桶が思い浮かぶのでは? 記載されている医薬品「ケロリン」と、関連グッズを展開しているのは富山市の製薬会社「富山めぐみ製薬」だ。今回は経営戦略室室長の笹山敬輔氏に、ケロリン桶の誕生経緯や幅広い展開について直撃した。

そもそも「ケロリン」とはどんな薬なのか。

笹山氏は「当社の前身の一つである内外薬品という会社が1925年に開発した解熱鎮痛剤です。生薬(漢方薬)が中心だった時代に、ケロリンは西洋から輸入したアスピリンと桂皮をブレンドして販売しました」と説明した。

すると効能が話題となり、配置薬(置き薬)市場で一気に拡大。同社は戦後、薬局やドラッグストアが販売の中心になると考え、「宣伝に注力する一環として、ケロリン桶が生まれました」。

実は桶のアイデア自体は外部から採用したという。

「広告事業を行う睦和商事という会社の方が、温泉に入っている時に桶の広告を着想されたそうです。その方が全国で“桶広告”を営業されている時に、宣伝を強化したいと考えていた当社が賛同した形になります」

それが1963年のこと。当時、プラスチック桶の需要は今より大きかったという。

「内風呂が普及しきっていない時代、銭湯は生活インフラと言える存在でした。加えて当時使われていた木桶は耐久性や衛生面で問題がありまして。当社が広告料として費用を一部負担し、頑丈なプラスチック桶を安価で提供したという点も、銭湯で広まった理由の一つと考えています」

そのため桶には銭湯に合わせた工夫も施されている。すぐに壊れないように一般的な桶よりも厚みを持たせ、水場ではがれにくくするためケロリンの文字をプラスチックの中にインクを埋め込んでいるのだ。

それだけではない。

「かけ湯文化のある関西の一部に向けて、片手でお湯をすくえるサイズも作りました。現在は大きい関東版と小ぶりな関西版の2種類があります」と細かく配慮されている。

とはいえ、銭湯の数も少なくなっている近年、桶の販売数は維持できるのか。

その点について笹山氏は「業界の規模は縮小していますし、耐久性を重視した結果買い替え需要も小さいです。ただ、小売り向けの需要が年々それを補うように拡大しています」とし、次のように明かした。

「90年代からは有名な雑貨店に取り扱っていただき、タオル・入浴剤等の派生商品も開発しました。同時期に富山県内のサービスエリアでも“富山みやげ”として販売されることになりまして。『鱒(ます)寿司と一緒にケロリン桶も』といったように、おみやげの候補になったことはありがたいです」

2010年代以降は、他業種とのコラボレーションも積極的に行っているという。

「13年に漫画『ケロロ軍曹』とコラボしてヒットしたのがきっかけです。その頃は映画『テルマエ・ロマエ』でも取り上げられまして。サブカルチャーとの好相性は、我々としても驚きかつ発見でした」

昨年はプロ野球の西武、今年は横浜、巨人とコラボを行い、勢いは増すばかりだ。

そして昨今無視できないのが“昭和レトロブーム”の影響だろう。

「銭湯や昭和を体験していない方でも、ケロリン桶にはノスタルジーを感じていただけているようです。原料や製造工場も変わっていませんし、なつかしんでいただいている以上は、今の形を守り続けた方が良いかなと思います」と語り、現時点ではリニューアルの予定もないという。

医薬品には法律上広告に規制があるが、桶には規制がない点も奏功している。笹山氏は「やはり製薬企業ですから、桶で儲けたいわけではなくて」と強調した上で、「健康へのイメージを損なわないようにしつつ、幅広いPRが展開ができるのは桶ならではです」と有効活用しているのだ。

来年はケロリン生誕100周年。メモリアルイヤーとなるような展開も検討されているという。

海外進出の可能性を聞くと「外国で“お風呂文化”を伝えるのは難しいですが…」と前置きしつつも、「インバウンド観光客の方が、桂皮の入ったケロリンを日本らしい薬として購入されることもありますので。桶も日本文化の一つとして、海外の人に面白がっていただけたらうれしいですね」。

銭湯を出発点に、日本人の心を着実につかんできたケロリンとケロリン桶。“世界のケロリン”となる日もそう遠くはないかも。

☆ケロリンおけ 内外薬品(現・富山めぐみ製薬)が開発した医薬品「ケロリン」の宣伝用に、1963年に誕生した広告付きプラスチック湯桶。銭湯・温泉・ゴルフ場等を中心に全国で普及し、現在は“昭和レトログッズ”として若年層からも人気を集める。近年は他業種企業・映像作品とのコラボレーションを積極的に実施しており、関連グッズも幅広く展開している。

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