有償で借りた民有地を無償転貸する市役所に専門家は「NO」、貸出先は役所OBトップの社福

甲賀市が個人から有償で借りながら「市有財産」として社会福祉法人に無償で転貸している保育園の土地(甲賀市甲南町)

 滋賀県甲賀市が市内の保育園を運営する社会福祉法人に対し、15年間にわたり市が有償で借りた民有地を「市有財産」扱いにして無償で転貸していることが分かった。市に転貸借に関する規定がないためとみられるが、法人は理事長ら役員3人が元市幹部で、借地代の総額は約3800万円に上る。市は「民間移管した保育園では市有地を無償貸付しており同じ考え方だ」と釈明するが、専門家は「行政の財産管理のやり方に問題がある」として改善を求めている。

 市や関係者によると、保育園は1996年、甲南町(当時)が園舎を建設し、社会福祉法人「甲南会」が運営する公設民営方式で開設した。建設時期が迫る中、町の購入予定地に問題があることが判明し、急きょ近くにあった民有地計7700平方メートルを年約240万円で借りたという。

 2009年に市が法人に園舎を無償譲渡して完全民営化した後も、土地は市が個人から有償賃借した上で法人に無償転借する「市有財産使用賃借契約」を市と法人が結んでいた。該当の土地は市の財産台帳には掲載されていないという。

 市と法人によると、契約が満期となった19年に更新した。契約の詳しい経緯は不明というが、無償貸付に関する市条例を適用するため「市有財産」扱いにしたとみられる。市保育幼稚園課は「所有者に売却する意思がなく購入できなかった。市の保育サービスにかかる費用なので無駄とは考えていない」と釈明する。

 登記情報によると、土地の一部の所有者は故人で相続登記をされず、市は少なくとも19年から前所有者の親族を「相続人代表」として賃貸契約を結んでいる。京都新聞社の取材に対し、土地所有の代表者は「旧甲南町側と建物が老朽化する40年程度は貸してほしいと口頭で約束した経緯がある。市から具体的な価格の提示もない。近く相続登記は行う」と話した。相続登記は本年度から義務化された。

 法人によると、甲南会は旧甲南町の後押しで設立し、現在も理事6人のうち理事長ら3人が元市幹部。市内にある別の法人理事長は「法人に払えない額とは思えず、市の対応は市と結び付き強い特定の法人への優遇に見える。不公平感がないようにルールを守って対応すべきだ」と苦言を呈する。

 地方自治に詳しい新川達郎同志社大名誉教授(公共政策論)の話 30年前からの一定仕方がない事情があるとはいえ、後年に解決すべき中途半端な対応をずるずると続けている形で、本来買い取るべき土地を、賃借した上で「公有地」として処理するのは財産管理の仕方は不適切と言える。保育園運営の土地であることを考えれば、市や法人、所有者にとって非常に不安定な状態だ。市が財産管理のあり方や契約関係など権利関係を明確にすべき事案で、3者で解決すべき方向を考えた上で、市はきちんとした行政運営をしていく必要がある。

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