「台湾有事や南西諸島防衛という言葉を聞くと、人ごとではない『当事者だ』という特殊な感覚がある」
糸満市摩文仁で開かれた沖縄全戦没者追悼式。この日「平和の詩」を朗読した仲間友佑(ゆうすけ)さん(18)は式典後にこう語った。
祖父母も戦後生まれ。宮古島で育ち、家族から沖縄戦の体験を聞くことはなかった。
しかし、ウクライナやガザの戦争をニュースで知り、「世界にはいまも平和を踏みつける行為がある」と怒りが湧いた。
「自分の中にある平和への思いを伝えたい」と詩作に臨んだ。「祈り続ければ、いつか世界平和という夢も実現できるんじゃないか」と未来を思い描く。
戦後79年の「慰霊の日」。戦争体験者がいなくなる時代を目前にした今、沖縄の現状は若者にどう映っているのだろうか。
玉城デニー知事は平和宣言で、米軍基地の過重な負担が続く県内で急激に自衛隊の配備強化が進むことに、県民の強い不安を代弁した。
「今の沖縄の現状は、無念の思いを残して犠牲になられたみ霊を慰めることになっているのでしょうか」
戦争の痛みに終わりはない。平和の礎には今年181人が追加刻銘され、沖縄戦に関連する犠牲者は計24万2225人となった。
不発弾の処理や、戦没者の遺骨収集も今なお続く。
そうした戦後処理が終わらない沖縄で今「新たな戦前」が語られるようになっている。
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沖縄の自衛隊を巡ってはこの間、日本軍第32軍の牛島満司令官の辞世の句をホームページに掲載したり、軍服を展示したりしていることが明らかになった。
第32軍は沖縄戦で「軍官民共生共死の一体化」をうたい住民を戦闘に巻き込んだ。県民の4人に1人が犠牲となった悲劇は、住民が多く避難していた本島南部への撤退という司令官の決定で引き起こされたといっても過言でない。
皇国史観を受け継ぐような問題は、旧軍と自衛隊との連続性をうかがわせ、さらに県民を不安にしている。
沖縄戦の教訓は、戦争は民間人を巻き込み、軍隊は住民を守らないということだ。
政府は有事を念頭に先島諸島の住民の九州・四国への避難計画策定を急ぐ。
それであれば自衛隊こそ、沖縄戦の実相を正しく学ぶ必要がある。
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日曜日の開催となった追悼式には前年比500人増の約4500人が参列した。県内各地でも慰霊祭が執り行われ、この日沖縄は鎮魂の祈りに包まれた。
追悼式の後、岸田文雄首相は記者団の質問に答える形で、戦没者の遺骨が混じる可能性のある本島南部の土砂を辺野古新基地建設で使う計画について、県民感情に配慮して調達先を選定する考えを示した。
南部土砂を新基地建設に使用することは県民や戦没者を冒涜(ぼうとく)する行為に等しい。
首相ははっきりと不使用を明言すべきだ。