「光る君へ」渡辺大知、“平安のF4”に「同窓会みたいになったら嬉しい」

第25回より行成(渡辺大知)と道長(柄本佑) - (C)NHK

吉高由里子がまひろ(紫式部)役で主演を務める大河ドラマ「光る君へ」(NHK総合・日曜午後8時~ほか)で平安時代の貴族・藤原行成を演じる、ミュージシャン、俳優の渡辺大知。行成は書の達人としても知られ、ドラマでは藤原道長(柄本佑)、藤原公任(町田啓太)、藤原斉信(金田哲)と並んで“平安のF4”のあだ名で人気を博している。本作で3度目の大河ドラマ出演となる渡辺が、書の達人としても知られる行成の役づくりやF4人気について振り返った。

ロックバンド、黒猫CHELSEAのボーカルとして人気を博しながら俳優としても活躍目覚ましい渡辺大知。2009年公開の映画『色即ぜねれいしょん』で俳優デビューし、近年は映画『正欲』(2023)、ドラマ「季節のない街」(2023)、舞台「ねじまき鳥クロニクル」(2020・2023)などに出演。先ごろフジテレビ系ドラマ「イップス」が終了したばかりだ。大河ドラマへの出演は「いだてん ~東京オリムピック噺(ばなし)~」(2019・森繁久彌役)、「青天を衝け」(2021・徳川家定役)に続いて3年ぶり、3度目となる。

渡辺は演じる行成について、「行成は柄本佑さん演じる道長と小さい頃から親しくしていて、公任、斉信との4人組の中で弟分的な存在。その4人で遊んだり学んだり、政治についての議論を交わしたりと共に時を過ごしてきたわけですが、成長するにつれてそれぞれ環境や役職が変化していって考え方も変わっていく中で、行成は権力を手にすることよりも、人の欲望をどう叶えるかということにモチベーションを見出す人なのかなと思います。自分が仕える道長や一条天皇を、どうサポートすればいいのか、あるいはどうしたら彼らに認めてもらえるだろうと。役づくりについても自分の意見を押し通すというよりも周りを見て、相手の心に入っていくみたいなところを意識して演じています」

特に意識したのは目線、発声。F4の中で当初から野心に燃えていた公任、斉信に比べて行成は控えめでおっとりした性格だが、道長が公卿のトップに立つと蔵人頭に抜擢され、みるみるうちに頭角をあらわしていく。その過程において、目線の向け方や発声の変化を心掛けたという。

「序盤のまだ自分が政治の中心にいない時期では、道長に自分をアピールしているような目線。上目遣いじゃないですけど、僕も頑張っていますよと下から手を振るような感じ。道長に仕えるようになってからは、気に入られたいという思いはあるんですけどそれは出さず、立場、階級は違うけれども、意見を言い合える立場になっている、そう思われたいっていうようなところで、もう少しフラットな目線で伝えるようにしています。それは声に関しても同様で、いろんな経験だったり思惑だったり、 こういうふうに見られたいという思いが表れると思うんです。加えて、この作品では加齢も表現する必要がありますよね。そこはやり過ぎずに演じ分けているつもりですが、道長に仕えるようになってからは、自分の思いの芯みたいなものを投げるような発声の仕方にしていて、そういった変化は気にして演じています」

ところで世間では藤原道長(柄本佑)、藤原公任(町田啓太)、藤原斉信(金田哲)、行成の“F4”に沸いているが、撮影現場はどんな雰囲気なのか。まだプライベートで会う機会はないそうだが、4人そろっての取材の場があり「そこで初めて4人がそれぞれが思っていることを言うみたいな感じになりました。“そういうことを考えてはったんや”と知れる機会になってよかったです」と渡辺。

「その4人ってちょうど会いたくなった頃に会えるんですよ。おのおの違うシーンをいろいろと撮っていて、そういえば最近この4人でのシーンないなと思っていた頃にそろうシーンがやってくるというか。そういう時に“今、公任は30超えている”とか、次に会った頃には“行成も30超えたんだね”とか、状況を確認し合うというか。この前(撮影で)会ったら僕以外みんなヒゲを生やしていて “なんすかそれ?”みたいな(笑)。“実はもう40ぐらいになったんだよ”“そっか、もう40なんすか”といった調子で。改めて台本を見ると確かに3年飛んでいるみたいな。そういうふうに時代の節目で会えるので、時代の経過を感じられて楽しいですね。後半どういう脚本になるかわからないですが、誰1人欠けてほしくないなと。この4人で定期的に集まる同窓会みたいになったら嬉しいです」

そして、行成と言えば「書の達人」として知られ、劇中でもたびたび見事な筆を披露。本作で題字と書道指導を担当する書家・根本知をして「渡辺さんはもともとすごく字のうまい方なので、私としては“よくぞこの方をキャスティングしてくださった!”と感謝しています」と言わしめているが、渡辺自身は「書道は未経験で、書くことも苦手」だったという。未経験からどのようにしてアプローチしたのか。

「最初に書道指導の根本先生に行成が書いたものだったり、その時代に書かれたものをいくつか見せていただいて見比べたりしました。書いている時の様子や書で使う文机が絵で残っているので、そういう資料を見せていただいて。それに、書は自分を投影する鏡のようなものだということ、書くという行為は天から下ったものを自分を通して形にするものであるというか、神聖なものであるといったことを教えていただきました。未知の世界ではありましたが、そうした感覚は時代が平安であっても現代であっても変わらないと思いますし、僕も想像することができたので、そういう作業が役をつくっていくっていうことなのかなと」

役づくりを通じて書の奥深い世界に足を踏み入れた渡辺だが「こんなに書道の練習をしているのに、普段文字を書くことにおいては別にうまくなっていないんですよ(笑)。根本先生の書のモノマネがうまくなっただけで。そろそろ自分の字も上達していいんじゃないかと思っていますが、もしかしたら『光る君へ』の撮影が終わる頃に気づいたら“あれ。上手くなってる”なんてこともあるかも(笑)」

大河ドラマに参加する俳優の醍醐味の一つが一人の人物を長い期間にわたって演じることだが、それは渡辺にとってかけがえのない時間となっているようだ。

「行成という人物を演じるにあたって、今まで全く馴染みのなかった平安時代をすごく考えるようになったというか。それはすごく自分にとって豊かな時間で。結局一番大事なのはここなのかなっていう風に思いました。実際のことは見ることもできないし、どれだけ考えても正解にたどり着けないんですけど、その時代に流れていた風みたいなものを想像することで、役者として重要な体験をさせてもらえているなと思っています。それは長いスパンの作品だからこそ、できるのであって」と俳優としてのキャリアにおいて特別な時間を過ごしていることを明かしていた。(編集部・石井百合子)

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