なんと中学生で!? 授業中にペン入れをしていた作者も…『りぼん』デビューが早い少女漫画家たちの「初期作」

「特別展 りぼん」公式ビジュアル

少女漫画雑誌として時代をこえて愛される『りぼん』(集英社)。王道ラブストーリーからホラー作品まで幅広いジャンルの漫画を掲載し、多くのファンに愛されている。

そんな『りぼん』で連載している漫画家たちのなかには、なんと中学生で才能が見出され漫画家デビューを果たした人もいる。そこで今回は『りぼん』で活躍する漫画家のなかで、デビューが早かった人たちを初期作品とともにご紹介しよう。

■18歳でデビュー! 洗練された作風が女子の憧れに:矢沢あいさん

映画化もされた名作『NANAーナナー』で知られる矢沢あいさん。彼女が『りぼん』でデビューしたのは18歳のころだった。『天使なんかじゃない』や『ご近所物語』など、矢沢さんの作品にはおしゃれで魅力的なキャラクターが多く登場しており、読者はキラキラとした“矢沢ワールド”に夢中になった。

矢沢さんは1985年『あの夏』でデビュー、『15年目』(1986年出版)で単行本デビューを果たした。

『15年目』は、2人の女の子が1人の男の子を好きになるというストーリー。幼なじみとして15年もの月日をともに過ごした千里と玲子。性格も好みも違う2人が好きになったのは、まさかの同じ人だった。

2人のハートを射止めた男の子・杉本圭介は、実は千里のことが好きなのだが、圭介に想いを告げられても千里は玲子のことが気にかかり、想いに応えることができない。

なんとも切ない恋模様が繰り広げられる『15年目』。そして、“2人の女の子”、“軽音楽部”、というキーワードから、のちの名作『NANAーナナー』を彷彿とさせる作品でもある。矢沢さんらしい、丁寧な心理描写も見どころの初期作品だった。

■高校生で漫画家へ! 少女漫画界を牽引する:水沢めぐみさん

高校一年生のとき、1979年に『心にそっとささやいて』でデビューした水沢めぐみさんは、『5月のお茶会』(1981年出版)で単行本デビューした。

『5月のお茶会』では、読書という共通の趣味を持つ川島さんと、羽柴くんが織りなす“本”をきっかけにしたラブストーリーが描かれ、水沢さんの持ち味でもある柔らかなタッチの絵と、散りばめられた可愛らしい雑貨たちも見どころとなっている。

高校在学中に漫画家デビューを果たした水沢さん。中学生のころからノートに書いた漫画を友人たちに披露しており、高校に入学してまもなく『りぼん』で漫画家として活動することになったという。

授業中にこっそりと原稿のペン入れをおこなって、墨汁をこぼしたこともあるそうで、そんな水沢さんを先生も寛容に見逃してくれていたと、2019年7月に『読売新聞』に掲載されたインタビューで語っていた。

多忙な学生時代に、学業と両立させながらプロ漫画家として頭角をあらわしていく水沢さん。漫画に没頭する並々ならぬ熱意を持っていたからこそ、いまもなお前線で活躍する漫画家となりえたのだろう。

■少女漫画界の一時代を築いた! 華やかな画風が影響を与えた:一条ゆかりさん

『有閑倶楽部』などで知られる一条ゆかりさんは、中学生のころから漫画を描き始め、高校生のころ他雑誌の『雨の子ノンちゃん』(藤本典子名義)で単行本デビュー。『りぼん』でのデビューは『雪のセレナーデ』(1968年)だった。キラキラとした瞳の描写が印象的で、華やかな画風は少女漫画界に大きな影響を与えたと言えるだろう。

少し大人びた作風の一条作品は、当時の『りぼん』のなかで一線を画していた。「精神的愛はいいけど、肉体的愛を描くのはダメ」というルールのなかで、いかに“キスシーン”を描くかということに尽力していたという一条さん。セリフや画角でうまくごまかしながら描いていたと、2018年11月に『好書好日』に掲載のインタビューで明かしていた。

こうした努力もあって生み出された名作たち。『りぼん』作品のなかでは少し大人っぽい描写も多かったため、親の目を盗みながらドキドキして読んでいたという読者も多いのではないだろうか。

■圧倒的画力で読者を魅了! 根強い人気はいまだ衰えない:種村有菜さん

18歳のころ『2番目の恋のかたち』でデビューした種村有菜さんは、1997年に『イ・オ・ン』で初連載を果たした。デビュー当時から圧倒的な画力が注目されており、丁寧に描き込まれたシーンの数々に驚かされた読者も多いだろう。

種村作品といえば、強くて可愛い女の子が登場することが多い。なかでも『神風怪盗ジャンヌ』は有名で、自身初のアニメ化作品となった。かくいう筆者も、“ジャンヌ世代”。当時、主人公・日下部まろんと名古屋稚空の恋の行く末をドキドキしながら見守っていた。

初期作品の『かんしゃく玉のゆううつ』もまた、戦う女の子が主人公である。“忍者”というテーマのなかに恋愛要素も入っていて、見応えがある一作だ。デビューして間もない時期だと思えない美しすぎる絵は圧巻のひと言。ぜひ読んでいただきたい作品だ。

■デビューは驚きの中学3年生! いまだデビュー作の連載が続く:津山ちなみさん

最後に紹介するのは津山ちなみさんだ。デビュー作であるギャグ漫画『HIGH SCORE』は、現在も連載が続く彼女の代表作であり、今年で30周年を迎える。デビュー作が代表作というだけでも驚きだが、本作を発表した当時、津山さんはなんと15歳だった。

中学3年生での漫画家デビューと聞いて、当時驚いた人も多いだろう。そして中学生とは思えないセンスで描かれるギャグの数々。大人びた表現や謎すぎるキャラクターなど、魅力がてんこ盛りの作品になっている。

じつは“賞金目当て”で賞に応募したという津山さんだが、当時原稿用紙に描くということを知らず、スーパーの文房具売り場で紙を購入。編集長をつとめていた冨重実也さんから「コピー用紙にマンガを描いて賞を取った人は前代未聞」と、「りぼんフェスタ2015」のトークショーで突っ込まれていた。

若くしてプロの漫画家となった彼女たち。こうして振り返ると、当時から読者を魅了する作品を生み出していたのがよくわかる。デビューから今に至るまで、多くの名作を世に届けてきた漫画家たちの作品を、この機会にぜひ読み返してみてはいかがだろうか。

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