【コラム・天風録】鉄の暴風

 「鉄の暴風」。きのうの沖縄慰霊の日の平和宣言でも使われた言葉は、沖縄戦で米軍の猛攻撃にさらされた島民たちの実感にほかなるまい。その中でも地下壕(ごう)で新聞を作った、「沖縄新報」元社員たちが言い表したらしい▲廃刊となった同紙の元記者が集ったのが沖縄タイムスだ。生存者の証言から、何が起きたのかを日を追って再現した「沖縄戦記 鉄の暴風」を終戦5年後に出す。古里を二度と戦場にしないと決意を込めた本が今月、ちくま学芸文庫から再刊された▲読み通すと胸が痛くなる。とりわけ従軍し、将兵の看護に当たった女学生たちの最期だ。砲撃や火炎放射などに追われ、壕の中で煙に包まれる。傷ついて野に倒れる。そして集団自決も▲沖縄本島最南端にある伊原の洞窟では衰弱した女学生が童謡を突然口にしたという。「わらべはみたり…」。楽しい音楽の授業を思い出したのか。息を引き取った6月24日は今なら戦闘が終わっていると語られるのに▲僕らは雨のように打ちつける/爆弾の怖さも/戦争の「せ」の字も知らない―追悼式で18歳の高校生が読み上げた「平和の詩」の一節だ。戦争という暴風を知り、食い止めるすべは、まだまだある。

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