【MLB】エンゼルス・ウォード 顔面死球で苦しんだ日々「あきらめた結果、こうして鼻が曲がった」

昨年の死球の影響が鼻に出てしまったエンゼルス・ウォード(ロイター=USA TODAY Sports)

【元局アナ青池奈津子のメジャー通信】「鼻の上の方が少し右に曲がっちゃったんだけど、あとは不思議なくらい元通りだよ」

そう言われて、どうしても鼻に目線を向けずにはいられなかったのだが、テーラー・ウォードの顔には左目の下、おでこ、アゴと3つのプレートが入っている。

昨年7月末、トロントでの試合中に投球を顔に受け、シーズンが終わるまで一度も顔を見ることがなかったテーラー。すっかり取材陣が少なくなったエンゼルスのクラブハウスで春に顔を合わせた時、幻かと思って一瞬身動きがとれなかった。だが、言われてまじまじと見つめてやっと分かる鼻根のわずかな湾曲以外は、いつもの明るくナイスガイなテーラーそのままだった。

「あの瞬間、意識が飛ばなくて全部覚えているんだよ。顔にボールが当たった、地面が見える、視界がおかしい、血が出ている、みんなが駆け寄ってきた。多分かなりひどい状況だ。これからどうなるんだろうと考えていたのを覚えているけど、痛みを感じたのはずっと後だった」

おそらく、みんなから同じ反応を受けるのだろう。笑いながら携帯に残る当時の腫れた痛々しい顔写真を「見せてもいい?」などと言ってコミカルに話を進めていく。

「今どきの医療ってすごいよね。左まぶたの横からプレートを入れてくれて、回復時間もそこまでかからなかった。難しい場合、顔の表皮を剥いで手術する可能性も示唆されていたんだけど、それだけは怖かったから避けられて良かった。ただ、誤算だったのは鼻!」

ずれてしまった頭蓋骨を固定するためのプレートよりも、折れた鼻をリカバリーする方がずっと痛かったそうだ。

「鼻は卵の殻のように衝撃に弱いから『ジョギングは絶対にダメ。鼻をかむのもダメ』と言われたのは仕方なかったんだけど、治りかけの鼻って少しずつ動くんだ。それでドクターが『毎日、鏡を見ながら自分で位置を直して』って。両手でグッと押さえて真ん中に動かそうとした時、この世のものとは思えない痛みに襲われて涙が止まらなかった。何日かトライしたんだけど、もうあまりに痛いんで曲がったままでいいや…とあきらめた結果、こうして鼻が曲がったというわけ」

打球が当たった場所があと数センチ上だったら脳に影響、下だったら左目の視力を奪われていたかもしれなかった。まだ左のこめかみ部分にわずかなしびれが残るが、気になる後遺症もなく曲がった鼻は「事故を乗り越えた証し」にもなっているという。

シーズンが数か月過ぎた今、事故のことはほとんど思い出さないのだとか。

「不思議とここ数週間、考えてないんだ。復帰してオープン戦初期の試合で、投手の一人が1打席の中で3球ほど球種を変え、僕の頭を目掛けて投げてきた。その時はすごく憤慨した。でも、そこから学んだのは、そういう出来事を乗り越えるということ。僕は今季、度々こういう場面に出くわすことになる。だから、少しでも早くやり過ごし、自分のアプローチに戻り、自分の打ちたい球に集中しようって。今は恐怖もためらいもない。野球をできる毎日が楽しい」

勝負の世界で弱点を狙い合うのは当然なのかもしれないが、私は見ているだけで身がすくんでしまうから、改めて野球選手たちはタフだなと思う。

☆テーラー・ウォード 1993年12月14t日生まれ、30歳。オハイオ州デイトン出身。右投げ右打ち、外野手。2015年にMLBドラフト1巡目(同26位)でエンゼルスから指名を受け、18年8月のパドレス戦でメジャーデビュー。当初は捕手として入団したが、主に外野手としてプレーし、22年には自己最多の23本塁打を記録。23年7月30日のブルージェイズ戦でアレク・マノアの投球を顔面に受け、負傷者リスト入りした。185センチ、91キロ。

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