【宝塚記念回顧】不確定な展開読み切ったブローザホーンと菅原明良騎手 “京都の道悪”という最後のピースがハマった一戦

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気まぐれな空

終わってみれば、重、不良の道悪競馬で勝利した経験がある馬たちが1~4着に入ったように、道悪への適性が結果を大きくわけた。京都は予報よりも強い雨にならず、パドック、本馬場入場時は雨もあがっており、それほど道悪がポイントにならないのではと、直前に馬券を買うファンを悩ませた。ところが、年に一度の特別なファンファーレが鳴り響くや、またも雨。レース中だけ激しくなった。なんとも気まぐれな空だ。

そういった不確定な要素と展開を読み切ったのがブローザホーンと菅原明良騎手。稍重~不良は【5-1-2-3】。京都芝2200mの不良馬場2:14.9でオープン入りを決めただけあり、一切、苦にする場面はなかった。オープン昇級後は3、1、中止、1、3、2着。札幌日経オープンを除けばすべて重賞。これだけ走っていれば、GⅠは目前だっただけに、京都の道悪という最後のピースが勝利を呼び込んだ。3歳終わりに2500mを勝利してからは、長めの距離へシフト。天皇賞(春)は後方から直線に賭ける競馬で上がり最速。これが菅原明良騎手の自信を深めたにちがいない。

成長力を伝えるデュランダル

後ろから進め、展開を踏まえて、動き出すタイミングを計る。流れがイマイチ読めない組み合わせだっただけに、後ろで構えて探れたのは大きい。前半1000m通過1.01.0は決して速くなく、1000~1200m区間12.9で先に動く決断ができた。逃げたのは川田将雅騎手のルージュエヴァイユ。完璧なペースコントロールで残る道を探す。ブローザホーンは下りを利用して動き、4コーナーは先行集団の後ろ7番手と射程圏内。ここから思い切って馬場の大外を目指した。絶対に伸びるという確信がないとできない競馬だった。菅原明良騎手のヘッドワークの冴えとブローザホーンを知り尽くした騎乗だ。

馬場の大外を突き抜ける姿に母の父デュランダルを思い出す。伝家の宝刀デュランダルは若い頃は長い休みもあり、順風満帆な船出ではなかったが、3歳秋から4歳にかけて本格化し、4歳秋、大外一気でGⅠタイトルを奪取した。その後は4、5歳でマイルCS連覇を達成。その成長力を支えたのが母の父ノーザンテースト。かつてサンデーサイレンス×ノーザンテーストは大成しないといわれた。早期から走る気持ちが強く出るサンデーサイレンスとノーザンテーストの成長力がチグハグな形になりがちだったが、かみ合ったのがデュランダルだ。デュランダルを支えたノーザンテーストがブローザホーンを大成へ導いた。

この勝利に際し、今年3月まで管理した中野栄治元調教師の存在も語らないといけない。母オートクレールも中野栄治元調教師が手がけた。通算50戦4勝。我慢強く、じっくりと歩みながら、6歳でオープン入り。その堅実な手腕はブローザホーンにも注がれ、最後は日経新春杯を勝ち、恩返ししてくれた。この勝利が宝塚記念への原動力となった。転厩先の吉岡辰弥厩舎もバトンをしっかり受け継ぎ、栗東坂路で心肺機能を高め、ワンランク上へ導いた。馬の上昇気流をGⅠ制覇まで途切れさせない。同一厩舎であっても簡単ではないことを、二つの厩舎で達成した。最大の勝因はここだろう。環境が一変する転厩は我々が考える以上に馬にとっては難しい。

道悪と緩急に阻まれたドウデュース

レース自体は京都の宝塚記念らしく、阪神ほど速くならず、実質スローに近かった。後半800mは11.4-11.7-11.3-11.5。坂の下りからペースチェンジし、ゴールまで良馬場レベルのラップが並んだ。道悪でこれほど速い上がりを後方から動いて差し切ったブローザホーンはもちろん、道悪を苦にしない馬でないと上位には来られない。スタミナ勝負でもあり、道悪の瞬発力という極めて珍しい適性が求められた。

2着ソールオリエンスは重馬場の皐月賞、スローのダービー、高速上がりにならない菊花賞以来の好走で条件さえ合えばGⅠでもやれる。中盤で行きっぷりが悪くなり、位置を下げる場面もあったがしぶとく伸びた。ちょっと好走条件が狭い個性派だが、それだけに付き合いやすい。

3着ベラジオオペラはソールオリエンスが勝利した皐月賞では崩れたが、重のスプリングSでハイペースを制しており、道悪適性があった。番手から抜け出した大阪杯で自信を深め、今回も同じように積極的な競馬を展開し、瞬発力勝負に位置取りで応じた。大阪杯で破ったローシャムパークにマークされ、スパートを待ちきれなかったのは痛かった。ブローザホーンと同じく3歳暮れから重賞で崩れておらず、この先、まだまだチャンスはある。母エアルーティーンはエアデジャヴーの牝系で、兄エアアンセムは7歳で函館記念を勝った。成長力がある。

4着プラダリアも重の京都大賞典を勝っており、時計のかかる冬の京都記念ではベラジオオペラを完封した。間違いなく適性の高い一頭だった。道悪を踏まえ早めに勝負に出た分、最後は甘くなってしまったが、状況的には戦略に誤りはなかった。GⅠを勝つには少しばかり底力が足りない印象もある。これだけ条件がそろったレースだけにそう感じざるを得ない。

1番人気ドウデュースは6着。有馬記念では迫力ある“まくり”を見せただけに、後方から動けず、内を回らないといけない状況になったのは道悪の影響だろう。勝ったブローザホーンは馬場の大外を通って、上がり34.0を叩き出したように、やはりペースチェンジと瞬発力が必要だった。ハーツクライ産駒らしく、そういった器用さ勝負では分が悪い。直線で伸びなかったわけではなく、道悪適性のほかに、緩急に対応できなかった面もある。一気にねじ伏せにかかるような荒っぽい立ち振る舞いで緩急を無力化する競馬が似合う。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。



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