パート勤めの52歳女性、絶句…年収800万円・54歳サラリーマン夫の逝去→年金事務所で告げられた「まさかの遺族年金額」【CFPの助言】

(※写真はイメージです/PIXTA)

夫を亡くした妻の生活を支える「遺族年金」。しかし、遺族年金だけを頼りに生きていくのは、現実的ではなさそうです。株式会社よこはまライフプランニング代表取締役の井内義典CFPが、具体的な事例を交えて解説します。

世帯年収900万円の陽子さん…夫急逝後の「遺族年金額」に衝撃

52歳の陽子さん(仮名)は、2歳年上の夫と暮らしています。夫は会社員として年収800万円で働き、陽子さん自身はパート勤務で、年収は100万円ほど。世帯年収は合計年収900万円です。息子はすでに社会人となって、別々で暮らしています。

生活に不自由はなく、休日は家族で外出するなど幸せな生活が続いていたある日のこと、夫が突然帰らぬ人となりました。

陽子さんは、夫が会社員であったことから「遺族厚生年金」を受給できることになりましたが、その金額に思わず絶句。夫を失った悲しみに加えて、今後の金銭的な不安も重なり、体調を崩してしまったそうです。

その後体調が回復した陽子さんは、知り合いのツテを頼り、お金の専門家であるファイナンシャルプランナーへ相談することにしました。

遺族年金は約150万円…パート収入を加えても、年収は「3分の1」以下に

陽子さんは、年金事務所で遺族年金の手続きを行った際、「遺族年金は年間150万円程度です」と言われました。ちなみにこの金額は、遺族厚生年金約90万円に約60万円の中高齢寡婦加算が加算された合計額です。

夫がまだ生きていたころは、夫の年収800万円を頼りに生活し、それが当たり前の生活水準となっていた陽子さん。パート収入100万円を足しても年収は約250万円となり、これまでの3分の1ほどと、極端に収入が減ることになります。

「収入が減ることは覚悟していたけれど、こんなに少ないなんて……どうしよう」。洋子さんは動揺を隠せません。

FPが陽子さんの直近の「ねんきん定期便」を確認したところ、65歳からの老齢基礎年金は70万円、老齢厚生年金は10万円となっています。

65歳からは中高齢寡婦加算がなくなるため、老齢厚生年金相当額を差し引いた遺族厚生年金は80万円(90万円-10万円)です。そのため、65歳以降陽子さんが受け取れる金額は160万円(老齢基礎年金70万円+老齢厚生年金10万円+遺族厚生年金80万円)となります。

「老齢年金がもらえる65歳まであと13年もあります。これから10年あまりの生活はもちろん不安ですし、65歳以降の老後の暮らしも心配になってきました。かといって息子には極力頼らないようにしたいし、どうしたらいいのでしょう」。目に涙を浮かべながら、陽子さんは訴えます。

夫が亡くなり、収入が大幅に減少した陽子さん。しかし、陽子さんを襲う悲劇はこれだけではありません。収入が減るだけではなく、支出面でも負担が増えてしまうのです。いったいどういうことなのでしょうか。

収入減に追い打ちをかける「負担増」のワケ

夫の死後、収入が大幅に減ることとなった陽子さんですが、支出面でも負担が増えるという事実を認識しなければなりません。

国民年金の第3号被保険者だった陽子さんは、夫が亡くなったことにより第1号被保険者となります。これにより、陽子さん自身が国民年金保険料を納めなければなりません。月額は1万6,980円(2024年度)で、現行制度上は、60歳になるまで毎月納付する必要があります。

なお、国民年金保険料は、収入が少ない場合には保険料免除の申請も可能です。ただしそうなると、保険料を納付した場合と比べ、将来の老齢基礎年金が前述の70万円よりも少なくなってしまいます。

「厚生年金」への加入が現実的だが…

定額の国民年金保険料を払えば大きな負担になる、免除を受ければ将来の年金が減る」という現状では、陽子さんが厚生年金に入るというのが現実的な対策といえます。

未加入の場合は定額での国民年金保険料納付義務があるのに対し、厚生年金に入れば給与(標準報酬月額)に応じた厚生年金保険料を負担することになります。

給与が低いときは保険料も安く済み、昇給すれば保険料も上がるでしょう。なお、厚生年金に加入した場合も60歳になるまでの期間が「保険料納付済期間」と計算され、老齢基礎年金は3号だった場合と同額となります。

ただし、陽子さんの場合、注意点があります。それは、厚生年金に加入すると「受け取れる遺族厚生年金が減る」という点です。

厚生年金保険料を負担すると、将来もらえる老齢基礎年金と老齢厚生年金が増えます。しかし、65歳以降は老齢厚生年金に相当する遺族厚生年金が支給停止となるのです。

たとえば、現状10万円もらえるはずの老齢厚生年金が20万円増えて30万円になった場合、差額支給の遺族厚生年金は80万円から20万円減って60万円になる、ということです。

また、65歳時点で遺族年金を受けられる人は、老齢基礎年金や老齢厚生年金の「繰下げ受給」は選択できません。したがって、必ず65歳から受給開始となります。

にもかかわらず、陽子さんが厚生年金に加入するメリットはあるのでしょうか?

厚生年金への加入で得られるメリット

とはいえ、厚生年金に加入するということには大きな意義があります。厚生年金に加入するということは勤務時間を増やすことが必要になってきますが、その分給与収入が増えることにもつながります。給与が増えると、その分を貯蓄に回すことができ、老後資金を作ることも可能になるのです。

遺族年金は在職中の収入があっても、調整・減額はされず、そのまま受け取ることができます。

さらに、厚生年金と同時に健康保険にも加入することによって、病気などで会社を休むことになった時に傷病手当金も受けられ、いざというときも安心です。

陽子さんの場合、まずは、いまのパート先で勤務時間を増やせるか、その結果として厚生年金に加入できるかを確認するとよいでしょう。

年金制度の「改正」にも注目しながら備える

年金制度はこれまで改正を繰り返しており、また今後も改正があると思われます。現在でいうと、国民年金加入義務が20歳から60歳未満の40年間であるところ、これを20歳以上65歳未満の45年に拡大される方向で議論が進んでいます。また、遺族年金制度も議論の対象になっているのです。

この議論はまだなにも決定されていませんが、こういった将来の改正にも注目し、自身に影響しそうな項目を確認しながら備える必要がありそうです。困ったときには、ファイナンシャルプランナーをはじめ専門家に相談しながら準備を進めてみてはいかがでしょうか。

井内 義典
CFP
株式会社よこはまライフプランニング 代表取締役

© 株式会社幻冬舎ゴールドオンライン